67話 初めての夜間警備
無駄に無駄な神経を消耗したその日の夜。
最悪なことに人生初の夜間警備が始まった。
ただでさえ昼間に余計な体力を使ったってのに。
嫌なことが立て続けに起こってイライラする。猛烈に休みたい。
でも死亡者が出ている事件を放置するのもな...。こんなでも第一騎士団員だからほっとくのも気が引ける。
仕方なく集合場所に向かうと、タマとコン太郎先輩はすでに集まっていた。
「前回と同じでコン太郎は探知役、私は攻撃役に集中するわね」
「つーか俺いなくてもよくない?大型討伐とかじゃないんだろ?」
「詳しい情報がないからこその貴方じゃない。死なないんでしょ?」
「大体の攻撃はそうだけど…」
土に埋まったり窒息系の攻撃を食らったら、流石に死ぬと思う。だからリーダーが言っていた七不思議のうちの沈む床?ってやつとエンカウントするとヤバそう。沈んだ後どうなるかによっては抵抗できずに死ぬと思う。
正直、この任務では二人を守り切る自信がない。
「というか、今日教えてくれる担当者はどこだよ」
時計を見る限り集合時間はとっくに過ぎている。それなのに誰も来る気配がないんだけど。
もしかしてもう七不思議に巻き込まれて死んだのか?
「ああ!その人は僕と居酒屋に行って酔いつぶれたからそこら辺に捨ててきたよ」
「何してくれとんねん」
何してんだよコイツ。邪魔しに来たのか?
何が悲しくて死亡者が出てる怪異相手に情報なしで挑まねぇといけねぇんだよ。
「でも事件が起きてる以上、何もしないわけにもいかないからとりあえず学園内を見て回るか」
「見て回るルートは大丈夫よ。私の頭の中に入ってる」
「…初日だし、しらみ潰しに回ってもいいんじゃねーの?今全く情報がない状態なわけだしさ」
「リーダー曰く、特定の場所だけで構わないそうよ」
「なんでだよ。事件起きてんだぞ?全部見て回って怪しい場所ないか調べた方がいいだろ」
「夜になると関係者以外立ち入り禁止になる場所だってあるのよ?どうせ全部は無理だし、そもそも怪談が出てくる場所自体が限られてるから、すべてを見て回る必要はないわ」
「…」
何とかして学園を探索する大義名分を作りたかったが、完全に失敗した。チクショウ。タマ相手だと言いくるめで勝てねぇな。
「早く見るとこ見て、仕事終わらせようよ」
「話をややこしくした元凶が言うな」
謎にド畜生太郎に仕切られたが、タマを先頭に移動を開始した。
移動中、魔力探知には特に反応はなく、誰かと遭遇するようなこともない。結局、ただ学園内を夜中に回っているだけになっている。今日は怪異が出ない日なのか?
ただ歩き回るだけなのも疲れるだけなので、ずっと気になっていたことをタマに聞いてみることにした。
「タマ、そういえばなんだけど」
「なによ」
「あの勉強会っていつすんだよ」
あの一回以降、一度も呼ばれてない。勉強会ってそんなに頻度が高くないのか?
まあ、平民の子供なら毎週集まるだけでも難しい家庭が多そうだけど。
ただ単に気になって聞いてみただけなのに、タマはものすごく嫌そうな顔で俺の方を振り向いた。
「もう貴方を連れて行かないことにしたから教えない」
「はぁ!?なんでだよ!」
「あの日から子供たちが『ちくしょう!』とか『くそ!』とか汚い言葉を使い始めたからよ」
「申し訳ございませんでした」
腰を90度に曲げて謝罪した。これは俺が悪い。
しかもこの内容...あれだ、第1王子相手にもやらかした内容と同じだ。
善悪の区別がまだつけられない年齢の子供たちに、とてつもない悪影響を与えてしまっている。そりゃ呼ばれないわけだ。
「シンクルドさぁ。タマがやってることが本当にチャリティかなんかだと思ってるの?」
「それ以外になにがあんだよ」
「コン太郎。今の考え方が1番正しいんだから、揺らぐようなこと言わないで」
「そうですよド畜生太郎先輩。どんなに小さな子供でも、世の中のことは知っておくに限りますよ」
「ふふっ」
なんだよその含みを感じる会話。感じ悪いな。
...でも何気に今の会話で、チャリティ以外の目的で子供に勉学を教えていることが確定したな。
ただでさえ七不思議とかいうわけ分からん怪異相手取らされてるのに、調べないといけないことが増えてしまった。
ここ最近、新しい情報が山ほど湧いて出てくるな。一時期は引くほど何もない平穏な学生生活送ってたのに。いい加減にしてくれ。
この話題の後は特に会話することもなく、人生初の夜間警備は静かに終わった。
これを平日ずっとやるのは地味にしんどい。




