66話 お偉いさん
「そんな仮面しながら何してるの」
「町の風景を描いていたんですよ。僕の故郷である共和国とは違う美しさがありますから…僕からすればシンクルドさんの言動の方が危ないと思うのですが…」
「それはそうね。連れがはしゃいでしまってごめんなさい」
「いや別にはしゃいではいねぇよ。今までの経験上、危なそうな人には狂気でぶつかると追っ払えるから仕方なくやったってだけで」
「訳の分からない思想を語らないで。どうして貴方は恥の上塗りをするのよ」
「うっす。さぁっせん」
こういう行動を取るからシンデレラ伝説が更新され続けている事実があるので、何も言えない。
だけど今回は、魔力探知に反応している人物たちの中心にいるコイツが危険な目に合ったら、周りがどう動くかどうか見たかったというのもある。
結果的にはなんの動きもなかったので少なくともベルクラの仲間ではなさそうだ。一応警戒しておくか。
「とにかく!あなたのその行動が不気味すぎて町の人が怖がってるのよ。せめて仮面は外して絵を描いてもらえる?」
「これでも...貴族だからね。なんの対策もなしに町へは出られないよ。僕からしてみるとタマさんが学園内と同じ服装である方が不自然だよ」
「俺は?」
「論外」
「左様でございますか」
おめぇも同じ仮面被ってるんだから、服装のセンスは俺と同レベルだろ。何、自分は違いますヅラしてんだよ。
言い訳にもなっていない言葉を脳内で呟いていると、ベルクラは軽く息を吐いた。
「うん。いい感じに描けた!」
そう言うと俺たちに自分が描いた絵を見せてきた。この町の暖かな情景を落とし込んだような絵で、めちゃくちゃ上手い。
ニホが見たら驚くだろな…。
「そろそろ寮に戻ることにするよ」
「……」
スケッチブックと万年筆をリュックに入れたベルグラはそれを背負い、何事も無かったかのようにひょっとこのお面をつけたまま歩き出した。俺が言うのもなんだけどメンタル鋼すぎるだろ。
そしてあることに気がついた。
「タマ」
「なによ」
「周りが動き始めた」
「…」
ベルグラが動くと同時に、魔力探知に反応している人物たちも動き始めた。あまりにも不自然だ。
もしかしてこの人、何らかの組織に狙われてるのか?
だとするとベルクラが仮面をつけている理由や、俺がダル絡みしたときに奴らが何の反応も示さなかったことも、筋が通る。
「おい!」
「なに?」
「私たちも一緒に帰るわ」
「うん?ああ、いいよ」
とにかくコイツを1人にはしない方がいいだろう。タマも俺と同じことを思ったらしく、打ち合わせはしていないが話を合わせてくれた。
そこで、魔力探知に引っかかっている人の一人が、俺たちの進行方向へと素早く移動した。
探知が反応を示す方へと視線を向けると、町の入口にあたる通路のど真ん中に、深くフードを被った男が仁王立ちしていた。
俺の魔力探知に引っかかるレベルの魔力持ちの男性。
しかもベルクラを執拗に付きまとっているようにしか見えない。
「おい、ベルグラ」
「はーい?」
「もっと道の右側に寄ってくれないか?」
「別にいいけど…」
そうすればあの明らかに怪しい男性から少し距離をとらせることが出来る。
本当は別の道で帰るべきだけど、それじゃあこちらが彼らの存在に勘付いていると示すようなものなのでできない。
つーかベルクラを別の道へ誘導する方法なんて思いつかないし、説明して取り乱されても困る。
なんにせよ、下手に刺激しない方がいいだろう。
暗殺や密偵の類なら、手慣れであればあるほど俺のことを知っているはずだ。
街中や一般人の間では知名度があんまりだが、ギルド内とかでは都市伝説のノリで俺の個人情報が流れてるからなチクショウ。
タマは俺の意図を知ってか知らずか、ベルクラの数歩後ろを歩いている。
怪しい男性は微動だにしていない。
とにかく目線を合わせないようにして横を通り過ぎようとした、その時。
「…成長したな、シンクルド」
そう、言われた。
彼のその一言に驚いて思わず振り向くと、そこには誰もいなかった。結局アイツは何がしたかったんだよ。無駄に神経すり減らしやがって。
魔力探知にもあの男性だけは引っかからなくなったし!
「なあ、今さ…」
とにかく2人にもあの声が聞こえたのか確認しようと振り向くと、何故か2人は俺にドン引きした視線を向けてきた。
「なんだよその視線」
「あなた…今の言動で成長したって言われるってことは…昔はもっと酷かったの?」
「うるっせぇな!!」
寮までの帰る道すがら知ったことだが、なんと怪しい男性を含めたあの人たちは、ベルグラの護衛だったことが分かった。
いや挙動が完全な不審者だっただろうが。紛らわしいことこの上ないし、護衛なんだったらひょっとこが護衛対象にダル絡みしてきた辺りで出て来いよ。
というか町に出る度に護衛つけてんのかよ。偉いな。第1王子も見習って欲しい。




