60話 翼
シンクルドとグラントが真面目な話をしている間、暇を持て余した団員たちは『監視』と称して吸血鳳を眺めていた。
その団員のうち一人が、同じく暇をしている隣人にぽつりと話しかけた。
「なあ」
「どうした」
「シンクルドってさ、吸血鳳のおかげで2回空飛べてんじゃんか」
「まあ、うん。そういうことになる...のか?」
「いいよなぁ。アイツばっかり」
「お、おお。え?なんだよ急に」
そう、彼はシンクルドと同様に固有能力の有用性を認められてこの第一騎士団に入団できた者の一人だった。
そのため魔力が一般人並みにしかなく、任務では魔力探知や痛覚麻痺させる魔法を優先して使用するため、飛行魔法や脚力強化魔法を修得する余地はなかった。
ゆえに、結果的にとはいえ空を飛ぶことができたシンクルドに、わずかながらに嫉妬心を抱いていた。
「今だったらいけるかな」
「何がだよ」
「おーい!吸血鳳~!」
「コケ?」
そう吸血鳳に話しかけると、ポケットから1つ、ジャーキーを取り出した。
「このお菓子やるから、俺掴んで空飛んでくれよ」
「おい!何考えてんだ!」
「コッコッコッコッコ...」
吸血鳳は差し出されたジャーキーの匂いを嗅ぎ、安全だと判断するとそれを食べた。咀嚼を終えるとふわりと宙へ舞い上がり、ジャーキーを差し出した団員を足で掴んで更に上空へと飛んだ。
「おお!!すっげぇ高けぇ!!!!」
「はぁ!?お前だけずりぃぞ!おい吸血鳳!ジャーキー上げるから俺にもそれやってくれ!」
「待って!俺もやってほしい!」
「俺も!」
「俺にもやってくれよ!」
こうして奇妙な長者の列が形成された。ちなみにココは第一騎士団の訓練場なので、訓練中の団員もたくさんいるが、空に憧れがある人達は訓練をさぼって列に加わった。
「アイツら何やってんだよ...」
馬の世話をしている一人の団員は、同じ仲間の悪ふざけに思わず失笑した。シンプルに高所が苦手な彼は、話についていけなかったのである。
「グルルル...」
「お、どうした白馬丸?人参か?」
白馬丸は尻尾を全力で揺らし、耳をピクリと動かした。
「おー。今日も頑張ったからな。1本丸々やるよ。ほらっ」
そう言いながら団員が人参をやると、白馬丸はそれを加えて行列の最後尾に並んだ。それを見たお世話係は慌てて白馬丸の元へと向かう。
「お、おい。どうしたんだよ!食べねぇのか!?」
「...」
「......もしかして、お前も空飛びたいのか?」
「...ヒンッ」
「え!?マジかよ」
それを聞いた団員は驚きつつも、白馬丸と同じく空に興味を抱いている団員の表情に目を向けた。確かに期待に胸を膨らませている様子がうかがえる。
「そんなに興味があるならよ、吸血鳳用に新しくお菓子やるからさ、その人参は自分で食べなよ」
それを聞いた白馬丸は人参を食べた後、お世話係の団員に頭をすり寄った。
*****
「ニック、縄解いてくれてありがとな」
「...」
「すまねぇ相棒。見送りのために俺をおんぶさせちまって」
「...」
俺やグラントが話しかけても、ニックは一言も話さない。多分グラントが言っていた通り、精神汚染度が高いままなのだろう。
俺が対応に困っている間にも、グラントは一方的に話しかけ続けていた。普段は口が軽くてやたら食べ物を奢りたがるやべぇ人だが、こういう時にはどちゃくそ頼りになるわ。
「それでよぉ...ってあれ?アイツら訓練場で何してんだ?」
「訓練場?」
グラントに言われて訓練場を見ると、吸血鳳が馬を掴んで上空を飛んでいた。
すかさず馬のお世話係を押し付けられている団員の方へ駆け寄った。
「おい!!何してんだよ!!!というかどういう状況だよこれ!!」
「白馬丸がさ、空に憧れてたっぽくてよ。せっかくだから掴んで飛んでもらってんだ」
「マジでどういうこと?」
地上に戻って来た馬はすぐにお世話係に駆け寄り、尻尾を全力で振っていた。
「おー。楽しかったか?」
「ヒヒンッ!!」
「そりゃよかったな」
お世話係に撫でられた後、馬は何時もより機嫌よさそうに厩舎へと連れられて行った。どうやら満足したらしい。
「なんか、吸血鳳もそうだけどさ」
「ん?」
「人が話してる内容が分かってる動物多くない?」
「あ、突っ込むところそこなんだ」
この後、副団長に会いに行ったが、残念ながら不在だった。帰還を待てるほどの余裕もなかったので、仕方なく城下町でお土産を買い、そのまま学園へ帰った。
なんか変に疲れたわチクショウ。




