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こんなん人間不信になるわ  作者: 朝緑
強制入学
6/25

5話 燃えて無くなったオリエンテーション

 全ての疲れをベッドの底に沈めて朝を迎える。


 「こんなに体が軽い状態で目覚めるのは久しぶりだわ」


 野営当たり前、宿に泊まるとしても敷布団すらないような部屋にむさ苦しい野郎どもと押し込まれるため全然休めない。そんな生活が当たり前だったので、こんな上質なベットで一晩眠れたということが幸せで仕方ない。


 「さてさて……。朝飯食った後にランニングでもするかぁ」


 昨日もらった冊子通りならば、今日はオリエンテーションがあるだけで本格的に授業が始まるのは明日からだ。かなり余裕があるし、できることも少ない。ここは真面目に密偵としての仕事をこなした方がいいだろう。


 「おら、起きろ。朝飯食いっぱぐれるぞ」

 「いやです」

 「なんでだよ」

 「朝日は僕の敵です。まだ寝ます」

 「は?オリエンテーションあるんだぞ。何言ってんだ」

 「今日は体調不良です。寝ます」

 「ええ……」


 寝起きのニホは昨日のほんわかとした雰囲気とはガラリと変わって、睡眠を妨げるもの全てに八つ当たりしているようだ。騎士団にも朝が苦手な人はいるが、ここまで敵対的な人はいなかったので少し新鮮である。これからの学園生活をどう送るつもりなのだろうか。

 と言っても今日はオリエンテーションだけなので、無理やり起こしたりはせずに放置した。


 食堂へ向かい、食事を取っていると放送が流れて来た。


「今朝、魔法塔の方でトラブルがありました。生徒の安全確保のため、本日のオリエンテーションは中止とし、特別休暇とします。また、魔法塔への立ち入りを禁止します」


 何があったんだよ。今は生徒の扱いされてるけど、第一騎士団員として調査協力しに行った方がいいのか?突然の連絡に周囲の生徒も騒然としている中、タマは何ともなさそうに俺の方へ歩いてきた。


「小規模の火事があったらしいわ」

「へえ。それでなんで特別休暇になるんだよ。確かオリエンテーションを行うのは第一講演室だろ?」


 パンフレットによると第一講義室は本校の中にあるし、そもそも魔法塔の周囲には建物がない。魔法塔に近づくことを禁止するのは分かるが、オリエンテーションを中止にする理由が分からない。


「魔法塔が火事が起きた原因をかたくなに話さないそうよ。さっき教員たちが揉めてるところを見たわ」

「へえ。そんな一部の人以外に知られたら不味いことが魔法塔で起きてるのかよ」

「それはないんじゃない?ほら、魔法塔と学園は仲が悪いって有名じゃない」

「いや知らねーよ。つーかなんでそんなことになってんだ?」

「第一学園は教育機関だけど、魔法塔は研究機関ですもの。技術提携しているだけで管轄している大本すら違うし、別々の目的で動いてるから何かと話が合わないみたいよ」

「そう聞くと騎士団内部とそんなに差がないな」


 情報すら共有しないのは相当な嫌がらせだ。第一騎士団もよく他の騎士団から嫌がらせをされるが、さすがに業務の妨害になるレベルのことはない。


ということは魔法塔は調べなくていいのか?学園内部を調べるのが俺の仕事だったはずだし。いやでも同じ敷地内の建物だから調べるのが筋か?いやでもなぁ。めんどくさいなぁ。


「それより選択授業はどれ選ぶか決めたの?せっかくだし、ニホも誘って一緒に決めましょうよ」

「おー……」


 こいつ、昨日と今日でめちゃくちゃ距離詰めてくるじゃねーか。もはや昨日の会話を忘れてるんじゃねーかって疑うレベルだ。

 

「経済学とか数学なら教えるわよ」

「よろしくお願いします!」

「任せなさい」


 なんてことない雑談をしながら俺とニホが寝泊まりしている寮に向かった。

 平民寮の場合、同室になる人は同性だが、部屋の階自体はランダムらしかった。そのため学園関係者であれば特に問題なく入れる。異性であるタマも普通に部屋の前までついてきた。

 部屋に戻るとニホはまだ寝ていた。いつまで寝てるんだコイツ。俺と同じ時間帯に寝ただろうに。


「おい起きろ。一緒に時間割決めるぞ」

「ええ……。え!あ、今何時ですか!?」

「9時ぐらいよ!」


 タマがドア越しに返事をした。


 「ええ!オリエンテーションが……というか、何故2人がここにいるんですか?」

「今日は休校になったんだよ。放送があったからな」

「えぇなんで...というか何故タマさんはドア越しで話しているんですか?」

「ニホから入室の許可を貰っていないからよ。シンクルドとニホの部屋なんだから、2人から許可を貰わなきゃ入れないわ」


 几帳面というか、細かいというか。中々にめんどくさそうな性格をしている。たしかに言ってることは正しいが。


「も、もちろん入ってきていいですよ!」

「そう?ならお邪魔するわ」


 扉を開けた瞬間、タマは目を見開いて固まった。


「なんて狭いの……?」

「はあ?」


 思わず呆れてしまった。



 貴族の子どもからすればありえない室内だったようだ。学園に抗議してやる!と憤怒しているタマをなんとか宥めつつ、カフェへ移動した。

 ニホが朝食はいらないとかなんとか言っていたが、無理やりサンドイッチを注文させてら食わせる。


「どうやら貴族は多額の学費を納めている分、寮も豪華にされているらしいわ。学園案内のパンフレットの一番端に小さく書いてあった」


 タマは先程の行動で俺たちに不愉快感を与えたのではないかと気になり、申し訳なさそうに耳を垂らした。正直どうでもいいので一瞥だけして目線をパンフレットに戻した。


「勝手に騒いでしまって情けないわ。ごめんなさい」

「それよりこの必修科目をどうにかして消し炭にする方法を一緒に考えてくれ」

「急に何言ってるの?」


 俺が渡された冊子には、座学中心だと思われる授業が沢山あった。全部受けたくない。


「算数が必要なのは分かるが数学の存在意義が分からん。それになんだよ魔獣学って。魔獣なんか襲ってきたら全部殴り飛ばせばいいだろ」

「僕も数学なんて存在しなかったことにすればいいと思います。もっと異世界ファンタジー要素の強い勉強だけやりたいです」

「いせかいふぁんたじーってなんだよ」


 シンクルドとニホの発言を聞いたタマは、二人の発言に心底ドン引きした。普段直接触れることのない学問でも少し学べば必要だと分かるだろう、という想像が覆されたからである。


 「二人とも何言ってんの!数学は色んな学問と密接してるんだからめちゃくちゃ重要よ!魔獣学は魔獣の倒し方だけじゃなくて、生態系とか特性とか幅広い内容を扱ってるんだから!」

「使わねえって!」

「他の知識を取り入れるときに嫌なほど使うわよ!導入部分だけなら私が教えるから頑張りなさい!」

「辛いです……」


 タマの必修科目とはあまり被らなかったが、ニホと俺は全く同じだった。


「授業によっては当たり外れがあるそうよ。判断材料がないから慎重に選ばないと……」

「僕が教えようか?」


 俺たちの会話に昨日サークルの勧誘をしてきた、狐耳でメガネをかけた好青年が会話に割って入ってきた。


「……」

「そんな露骨に警戒しないでよ」

「本気で言ってる?」

「確かに、ちょーっとそこのお兄さんに話はあるけどね」


 好青年が刺した指先には俺がいた。


「人を指で刺すんじゃねえ」

「やたら熱心なサークル勧誘ね。貴方、そんなマメな性格だったかしら?」

「いや、勧誘じゃなくて、ただ今晩呑みに行こうっていうお誘い。サークル勧誘が軒並み失敗したからパーっと飲みたいんだよね」

「へ!?学生って酒飲んでいいんすか!?」

「成人してたら大丈夫だよ。ニホ君は確か未成年でしょ?ってことで今回は保留で」

「ああそういうことだったんですね安心しました!出会って2回目でもう嫌われてるんだと思ってました!」

「違うよー。タマは年齢とか関係なく普通に嫌いだから誘わなかったけど」

「嫌われていることが嬉しく感じたのは今日が初めてだわ」

「ふふっ。……言い忘れてたけど、今日の呑み代は僕が奢るね」

「マジすか!?やったぁ!!」

 

 授業についての情報貰えるし、タダ酒も飲めるっていい事づくめじゃねーか!


「やったぁ。僕の周りの人、酒が好きな人いなかったから嬉しいや」

「つーかタマと先輩って知り合いなんすか?」

「ええ、まあ。不名誉だけど」


 タマは心底嫌そうに答えた。


「それじゃあ19時に校門前集合で」

「了解!30分前には行きます!」

「はーい」

「あの、1つ質問してもいいですか?」

 

 ニホが気まずそうに眉毛をゆがませながら話す。


「どうしたの?」

「先輩の名前って、僕聞いてなくて……」

「あれ?言ってなかったっけ?コン太郎だよ」

「ぶっ!」


 思わず吹き出してしまった。タマに睨まれる。どうやらいくら嫌いな人相手とはいえ、名前を馬鹿にするような言動は許さないらしい。


「平民だから苗字はないよ。まあよろしくー」

「よ、よろしくお願いします」

 

 この後は先輩からアドバイスを聞きながら受講する授業を決めていった。タマは先輩が来てからずっと不機嫌そうだった。


どんなけ嫌いなんだよ。

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