55話 不法侵入者
やたら忙しかった平日が終わり、土曜日を迎えた朝。
「ここなら行ける...か?」
俺はどうやって城へ不法侵入しようか考えていた。
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反乱軍のリーダーから学園祭の入場券を貰った。が、敵の巣窟に誰も連れてくる気になんてなれないし、持ってるのに渡してないと『学園外部に友達がいない28歳独身』としてド畜生太郎先輩に煽られる気がする。
いっそのこと燃やそうかとも考えていたところでふと、ある人物を思い浮かんだ。
副団長は?
赤髪と青髪は今までの言動的に、たぶん俺が密偵でココにいることを知らされていない部外者だ。
そんな人たちをここに呼ぶわけにはいかない。というか、どの団員が俺の任務を把握しているのか分からない以上、ホイホイ渡すわけにもいかない。
だからって燃やすとせっかく学園内を二人で捜査できる機会を失いかねないし。
そこまで考えた結果、全部知ってる副団長に渡せばいいかとの結論に至った。
そして王都へ行くなら、ついでに第一王子に会って、この前にした『会う約束』をさっさと済ませたい。
だけど緊急事態だった前回ですらあの対応なので、案内所で「第一王子に会いたいで~す」なんて言ったところで追い返されるのは目に見えてる。
そうやって考えた結果がこれだ。
多種多様な動物たちが飼育されている飼育ハウス。
一軒家が十軒ぐらい建ちそうな広さのここでは、各国から集められた動物や魔物が暮らしている。
実は倉庫が内部に点在していて、売れば国家予算レベルの大金が手に入る骨とう品とかがそこら辺に置かれていたりする、とんでもない場所だ。
しかしその割には警備員の数は少なく、近衛兵もハウスの周辺を警備するだけで中には入ってこない。
何故なら。
「相変わらずしつけが行き届いてるな」
王族と特定の服装の人以外は飼育ハウス中の動物が襲うからだ。
俺が発する音に反応して駆け寄ってきた動物や魔物は、第一騎士団の正装を着ているのを視認した途端に帰って行った。中には撫でてほしそうな雰囲気でウロチョロしてくる奴もいる。
調教師がどうやって動物や魔物に教えているのか知らないが、この特性から王族が眠る塔に隣接する形で飼育ハウスは建てられている。ハウス周辺に異変を感じると全力で飛び出してくるので結構優秀だったりする。
だからこそ俺のような立場の人間が不法侵入しやすいというデメリットが発生してるんだけどな!
第一王子に会ったら改善要請を出そうと考えていると、目の前に一匹の鳥が立ちはだかった。
と言っても敵対的な雰囲気はなく、俺のことをジッと見て様子をうかがっているだけだ。
そうして数秒の間見つめ合っていると、口を天井に向け、大きく息を吸い始めた。
「お、なん...だ.....ああああ!?!?」
この鳥は、たしか。
やたら大きくて歯が鋭くて目が赤い吸血鳳は、確か...!
「コ、コケ」
「待ってくれ!大声を出さないでくれ頼むから!!」
俺が巣の材料にされた時に仲良くなり、撤収する際に王都までついてきてしまった雛の1匹だ。
ちなみについてきたのは全部で4匹。警戒心がなさすぎて引いた。
そして懐いているからか、俺を認識することができる。しかも一日に一回、認識した最初の時にニワトリの5倍大きな声で鳴く。
逆にそれ以外で大声で鳴くことないから質が悪い。鳴かれた瞬間、俺の不法侵入がバレてしまう。
勘弁してくれ。絶対また出禁になっちまう。
「いいか?10年ぶりの再会がうれしいのは分かるけど、今は時間が無いんだ」
「コケ...」
「また会いに来るからよ。ちょ~っと大人しくしててくれるか?」
「コケ!」
「よーし。お前最高だわ」
なんか後ろからめっちゃついてくるけど、第一王子の部屋はもうすぐなので放置することにした。
この後無事に城の内部へと入ることが出来、もうすぐで第一王子の部屋へとたどり着ける!というところまで来ると、あるものを見つけてしまった。
テーブルの上に置かれた、『ウェルカムアルコール』と書かれた紙とシャンパンだ。
どう考えても俺への対策だろこれ。
罠だ。間違いなく罠だ。
あのドケチな王様が酒をそこら辺に放置するとは思えない。しかもこんな雑に。
つーかこれ、一回開封された形跡あるし!!
いや、でもな...。俺って毒効かないし。酒も弱いけどちょ~っとだけなら大丈夫だし?一回開けられてるし???
「ちょびっとだけなら飲んでも大丈夫か??」
「コケ!?」
「いや、ほんとちょっとだけ。ほら、これに毒入ってたらよ、このウェルカムアルコール飲んだ人があの世にウェルカムされるだろ?」
「コッコッコッコッコ...」
「痛い痛いっ」
吸血鳳は俺の頭を全力で突いてくるが、第一騎士団員としてこの城の安全は守らないといけないし?俺ってば毒効かないハッピー体質だし?
そう思って調子に乗って3滴ぐらい飲んだ途端にぶっ倒れた。
「コッケコッコ~~~~!!!!!」
意識がもうろうとする中、最後に聞いたのはバカでかい吸血鳳の叫び声だった。




