4話 サークル勧誘
教務室にはいろんなブースや受付、やたら大量に置かれているパンフレットなどで結構ごちゃついていた。新入生用の受付ブースが設置されていたので、そちらに向かった。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「入学式の日に休んだんで、もらい損ねた冊子が欲しいんですけど」
「承知いたしました。つまりは学生証もお持ちでない、ということですよね?冊子と合わせてお渡しいたしますので、お名前と本校への入学方法を教えてください。その情報を元に探します」
「名前はシンクルドです。入学方法は忘れました」
「??」
教えてもらってねーよ。何入学なんだよ俺。受付のお姉さんは少し戸惑いながらも笑顔を崩さずに対応してくれた。
「は、はぁ。では調べるのにかなり時間がかかりますので、2時間後にまたお越しください」
「はーい」
「見事にドン引きされたわ」
「普通は忘れませんからね……」
教務室の入り口付近に用意されていたソファにくつろぎながら呟いた。どうやらニホも俺の言葉にドン引きしているようで、少し気まずい。
何もすることがないので、先ほどの二人の反応を思い出した。言われてみれば、位が高い貴族ですら入学が難しい学園だ。その学園の入学方法を忘れる人なんて異質でしかないだろう。
「筆記試験とかは受けましたか?試験の内容とかでも大分特定できると思うんですけど」
やった覚えない。なにせ最近の俺の業務は戦闘がメインだった。しかも激務だったので報告書ですら他の騎士団部員に任せきりだったし。自分の名前以外を書く機会すらここ数ヶ月なかったぐらい。
学園の筆記試験なんてものを受けた覚えはないが、下手に話して書類上の入学方法と異なる点があれば裏口入学がばれかねないので適当に誤魔化すことにした。
「聞かないでくれ。俺の答え方によっては俺の馬鹿さ加減が露呈することになるぞ」
「いや、別に出題された問題とかは無理して話さなくても……」
「入学試験なんて忘れたままでいたいんだよ。俺のために聞かないで」
「あ、はい……そこまで言われると気になりますが」
とりあえずこの場を切り抜けた。なんの解決もしていないけど、こうする以外に突破方法が思いつかなかった。今後もこんな感じでボロが出して行くのだと思うと血の気が遠のく。早めに騎士団と連絡を取って情報を共有してもらわないと。
「あれ?君って入学式のとき、教授に会場まで連行されてきた入学生?」
メガネをかけた生真面目そうな好青年が話しかけてきた。狐の耳と尻尾を生やしており、生真面目にも制服を着ている。食堂にいた人を見る限りは服装に規定はないだろうに。ロングコートの重そうな制服を着こなしている好青年は「ふふっ」と鼻で笑いながら近づいてきた。
「人違いです忘れてください」
「そんなことないと思うけどなー。めっちゃ目立ってたから印象強いし。まあいいや。二人ともサークル活動とか興味ある?」
「ないです」
「僕も考えてないです……」
なんだ勧誘のために近づいてきたのか。
「見にくるだけでいいからさー。今メンバー募集中だから勧誘してこいって隊長に言われてるんだよね。ついてきてよー」
「遠慮しときます」
「ちょっとだけでいいから!」
「やかましい!今日はただでさえ情報量が多いんだよ!これ以上は頭パンクするわ!」
「えー」と残念そうな声を漏らした好青年は頭の耳を軽く揺らした。
「じゃー今日は諦めるわ。また誘うから、その時は来てよ。」
「やだよ」
「冷たいね」
それ以上は何も言わず、好青年は部屋の外に出て行った。どうやら俺たちに話しかけるためだけに教務課の受付まで来たらしい。
マメなキャッチだな。
「なんのサークル活動だったんでしょうか」
「気になったら負けだ。人気のサークルならわざわざ勧誘行為なんてしないだろうし」
教務課の窓から外を眺める。生徒同士が仲良く話しているようにも見えるが、よく見るとパンフレットを配る人やひたすら色々な人に話しかけている人などがいた。全員サークルの勧誘をしているのだろうか。
「ちょっとしたイベントみたいになってるな...」
「見てくださいあそこ!何かの屋台をやってますよ!」
「ん?ああ、あれは魔道具研究サークルって書いてるから、祭りの屋台ではないだろ」
「魔道具!?魔道具ってことは、魔法が使えるようになりますか!?」
「え?お、おう。つっても魔法を利用する道具ってだけだからニホが想像していることができるって保証はできないけど」
目をキラキラと輝かせながら屋台を見ているニホ。どうやら魔道具の存在すらも知らなかったようだ。マジかよこいつ。世間知らずで済まされるレベルじゃないだろ。情報が閉鎖されたような村の人間でも魔道具ぐらい知ってるぞ。
「あ!何か道具を使い始めましたよ!」
絵に描いたような魔女の服装をしている女性が球体のものに魔力を込めて光らせる。球体は徐々に光の強さを増していき、最終的には……。
「「あ。」」
爆発した。
先程まで光っていた球体からは白い煙が込み上げ、球体に魔力を込めていた女性は倒れた。周りの人は慌てるわけでもなく淡々と掃除を始め、爆発で気絶した魔女の服装の女性はどこかへ運ばれて行った。
「な、なんだったんでしょうか……」
「さあ?」
ニホと頭を傾げていると教務課の人に呼ばれ、学生証だとか必要な書類を渡された。かなり大量にあって驚いた。