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こんなん人間不信になるわ  作者: 朝緑
忙しい学園生活
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43話 精神汚染度

その日からは特に揉め事もなく、平穏な日々を過ごせた。


特に反乱軍は活動していないようだし、騎士団からはなんの連絡もない。講義にも補講にも慣れてきて、食堂で騒ぐ人も最近は出てこなくなった。ガチで平和。


そんな日常を全力で楽しみつつ寮の室内でニホと課題を進めていたある日。


ほとんどの人が自室に戻っている夜中の8時を回った頃。


掃き出し窓が、開けられた。反射で鎖鎌を構えてニホの前に出る。


「やあ。ひさしぶり」


窓を開けたのは副団長である眼帯の青年だった。その後ろには青髪が控えている。

しかも、


「おい!なんで血濡れで来てんだよ!」

「ひい~~~!!!」


血塗れで。


*****


招かれざる客...いや不法侵入者たちを部屋に上げる義理はないが、この二人を外部の方が発見すると厄介なことになりそうなので、仕方なく部屋に入れることにした。


と言ってもそのまま入ってこられると部屋が汚れてしまうので、ベランダで俺の服に着替えてもらうことにした。


「え、外で着替えさせるんですか???」

「夜中だから見えねえだろ。つーか青髪が見えないようにする魔法かなんか発動させれたはずだ」

「...」

「その魔法使えるのはグラントの方だよ」

「ああ、赤髪の方か」


青髪は何も言わない。つまりは副団長が言っていることが正しいのだろう。


青髪と赤髪は基本的に二人で行動してるから、どっちが魔法を発動しているのかわからねぇことが多いんだよな。間違えて覚えたところでなんの問題もないし。


俺が記憶を整理している隣で、ニホは恐る恐る質問した。


「あ、あの、副団長さんは...どうして斧を...?」


副団長は木こりに使いそうな斧を右手で担いでいる。完全に錆ていて鋭さもない斧は、物腰柔らかい副団長と対照的な雰囲気を漂わせていて不気味だ。


俺は見慣れてる大丈夫だけど初見の人からすると怖いわな。


「ああ。これは持ってると落ち着くから持ってるだけだよ」

「こいつは精神汚染度が50超えるといつもこの斧を持ち歩いてんだ」


だからこそコイツが精神検査を受ける指数にされてるんだけど。


「精神汚染度?」

「...」


青髪の男が珍しく蘊蓄を言わないので、代わりに俺が説明することにした。


「メンタルの削れ具合?みたいなもんだ。普通は10以下で、50超えると異常行動起こし始める可能性が高くて、100は発狂してるって感じ。150超えると自殺したり殺人鬼になるレベルで第一騎士団では殺処分の対象になる」

「へ、へえ..って、殺処分とかあるんですか!?」

「第一騎士団だけな。変に能力高い人が殺人鬼になって暴れられると災害レベルで被害が出るから」


実際にバフや固有能力を駆使してドラゴンを一撃で倒せるような火力を出す人が数人いる。そんな奴が精神汚染度150を超えてしまうと、ヒーラーや精神鑑定士が心を落ち着かせる前に町をいくつ滅ぼすか分かったもんじゃないので、即殺処分命令が下りかねない。


俺も処分する現場を目にしたことがあるし、古参の第一騎士団員は大体が現場に鉢合わせたことがある。


それぐらい昔は精神汚染が頻発していたけど、最近は騎士団全体が落ち着いてたのに。まずは状況を把握しよう。


「今副団長の汚染度はどれくらいなんだよ」

「98だよ」

「今すぐ帰ってゆっくり休んでくれ」


馬鹿だろコイツ。なに普通に出歩いてんだよ。俺の反応を見た副団長はにっこりとほほ笑んだ。


「でもその精神汚染度ってニックからバフ貰う前の数値だから、今の汚染度はもっと低いよ」

「普通に業務停止レベルだろうが。ちゃんと休み貰えよ」

「貰ったからこうやって会いに来れたんだよ」


聞く耳を持っていない。これが精神汚染の問題で来ているのか、わざとやっているのか分からないけど。


「とりあえず緊急事態なのは分かった。でもまずは何があったか話してくれ」


青髪は相変わらず無言を貫いている。普段なら蘊蓄垂れたり解説したりで無理やり会話に入ってくるのに、今日は一言も話していない。


「ダンジョン攻略中に死傷者が多数出たんだ。ダンジョン自体は攻略できたんだけど、回復のし過ぎで魔力酔いを起こしまくってね」

「第一騎士団の方でも魔力酔いって起きるんですね」

「一気に削れ過ぎた場合にもなるんだよ。コイツが魔力酔い起こすときは基本これだ」


そして青髪からのバフでなんとか酔いを誤魔化して、ポーションで魔力を回復して、けが人に回復魔法を使って、というのを何度も繰り返したのだろう。


結果的に過労と酷使と魔力酔いで精神が削れてしまい、精神汚染度がとんでもないことになったのか。


俺が第一騎士団に入団してすぐの頃を思い出す。

あの頃は腕の立つバッファーがいなかったので、副団長は嘔吐したものを服に付着させたまま意識が朦朧とした状態にもかかわらず回復魔法を使いまくってた。


俺が部屋の掃除や荷物運びをしているすぐ横で、次の患者がいる場所へと台車で運ばれていくコイツを何度見たっけ?少なくとも10回やそこらじゃなかったはず。


そん時何もできなかったからこそ、池に投げ入れられたり、詳しい事情も話されずに学園の寮に放置されたりしても本気で抗議できなかった。


「それでどうして俺のとこまで来たんだよ」

「第一王子に精神回復薬か第一級解毒薬を貰えるよう進言してほしいんだ」

「はあ?」

「グラントの回復が出来ていないんだ」


ああ、だから今日は青髪が大人しいのか。ようやく理由が分かった。


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