42話 ファン
大和さんと口論になっている途中、「シンクルドはそろそろ補講の時間じゃなくて?」と言われて強制退場させられた。アイツなんで俺の予定把握してんだよ。普通に怖いわ。
とにかくニホが心配なので事情を話して早く戻ろうとしたが、マッドサイエンティストは俺の話を一ミリも聞いてはくれず、なんなら新作の魔法がどうたらという理由で補講時間を伸ばしやがった。
どうしてこの学園にはこう、自分の感情や衝動で動く人が多いのだろうか。
補講が終わってすぐに大和さんたちと話した部屋に戻ったが、案の定誰もいなかった。あれから大分時間が経ったもんな。流石にもう解散したのか。こうなっては捜しようもないので寮へ向かっていると、帰り道に偶然ニホが食堂にいるのを見かけた。
俺もマッドサイエンティストが放つ未知の魔法から逃げ回ったせいで腹が減ったため、適当に注文してニホの目の前の席に座る。ニホが俺に気づいてすぐに質問した。
「あの後大和さんとはどうだった?」
「ニックさんがいないと何も決められないからって言ってごり押しして逃げました」
「なるほど。その手があったか」
ニホが一人でちゃんとあの場を切り抜けれたのならよかった。アイツら集団で行動してるから地味に圧力が強いんだよな...。
「あの時なにもできなくてごめんな」
「いえいえそんな!元と言えば僕と大和さんの問題ですし、補講が優先なのは当然ですし!」
謝罪の後は漫画の話をしたり、マッドサイエンティストの愚痴を聞いてもらったりした。そろそろ寮に戻ろうかとしていた時、
「あ、あの!」
後ろから話しかけられた。振り返ると100人中98人が想像しそうな魔女の恰好をしている女性がいた。厭な予感はするが、とりあえず話を聞いてみることにした。
「...どうかされましたか?」
「元第一騎士団のシンクルド様...ですか?」
「ま、まあ」
魔女っ娘は、目を輝かせながら頭を下げて来た。
「お願いします!第一騎士団について教えて下さい!!」
「はい?」
隣にいたニホも突然の内容に驚く。初対面で急に何言ってんだこの人。
「それは...ちょっと...」
さっさとこの場を後にしようとニホの背中を押して歩くと、魔女っ娘は俺の腕にしがみついてきた。
「かなりの無茶を言っている自覚はあります!ですが私、能力はあるのに女性という理由で入団試験を受けられなかったのが納得いかないんです!」
「はあ?性別が理由で不合格になることなんてないだろ?」
確かに女性の団員は見たことないけど、あの玉割り女は仮雇用してたし。しかし魔女っ娘は頭を傾げた。
「え、ええ。募集要項にもそう書かれてますし、実際に抗議しにも行きましたが門前払いされました」
だろうな。突然押し掛けて文句言ってくるような人とまじめに会話できるほど暇じゃないだろうし。募集要項の内容に違和感を持つ気持ちは分かるけど、俺がどうこうできる問題でもない。
さっさと逃げよう。
「まあなんにせよ元団員にも守秘義務があるから何も言えねえよ。他を当たってくれ」
「お願いします!私が行っても大して会話もしてくれなかったんです!!」
「あそこには秘密が詰まってるからだよ」
「どうして女性だと働けないのか分かれれば引き下がるので!!」
「それに関しては俺も知らないからなんとも...」
俺は騎士団長に拾われて入団した身なので、募集要項がどうとか言われても分からん。入団する団員の選定に眼帯の青年が関わってそうなのは知ってるが、そんなことこの人に伝える意味もないし。
女性は目力で訴えてくる。何か納得する言葉を言わないと腕を話してくれないだろう。
つってもな...。
「能力が認められたら大丈夫だと思うけどな...」
あの玉割り女が仮雇用されたってことは、人格や経歴は関係ないはず。募集要項が女性を除外している理由は分からんが、とにかく眼帯の青年の視界に入れば可能性はある...のか?
どうして俺がこんなことを考えないといけないんだチクショウ。
何か言わないといけないのかと言葉に悩んでいると、魔女っ娘は何かを決心したかのような表情になった。
「分かりました!ご助言ありがとうございます!!」
そう言うと俺の腕を話し、どこかへ走って行ってしまった。
「なんだろう、大和さんと対峙したときにはなかった恐怖を感じたわ」
「早く寮に戻りましょう」
「おう」