41話 オタク文化
色んな人が食事を取っている真昼間。いつもの三人で食事を取っていた時のこと。
「ぶ、文明開化よ!!!」
と言っている大和さんの声が遠くの座席から聞こえて来た。
先ほどまで騒がしかった食堂が、時間が止まったかのように静かになった。
「あの人…」
タマが苦い顔をしてそうつぶやく。流石優等生。迷惑行為を目の前にすると真っ先に反応しやがった。
「ありゃ大和っていう名前の女性なんだが、無意識に騒いでしまうタイプの良い人なんだ。気にしないでやってくれ」
ライバル視する人間を弁護しようとしたくらいには善人だ。言動は癪に障るけど、初対面の俺にしたような問い詰め方はしないでやってほしい。
タマはそんな俺の心情を察したのか、眉にしわを寄せた。
「いや、そうじゃなくて、」
「ちょっと!お時間よろしいかしら!?」
大和さんは周囲の注目を集めながらこっちに来た。頼むから帰ってくれ!
固まる俺とニホをよそに、タマは気まずそうな表情をした。
「ってあれ、タマじゃない。ひさしぶりね」
「...そうね。それじゃあ私はこの後用事があるから先に行くわね」
「え?ちょっと!」
どうやら二人は知り合いだったらしい。タマが俺たちを見捨てて一人で逃げるところを見るに、裏で相当揉めてそうだな。俺がどうでもいい考察をしていると大和さんは咳ばらいをして仕切り直した。
「まあいいわ。とりあえずニホさんとシンクルド!別室で話をしましょう!!」
大和さんの周りにいる従者からの眼圧がすごい。変に逃げてもしつこく付きまとわれそうだったので、諦めて話に乗ることにした。
*****
「この画風は間違いなくニホさんの絵でしょう!!」
「え、あ、はい。僕が描いたものです」
大和さんは一冊の本を見せて来た。それを見たニホは少し驚きながらも答える。それを聞いた大和さんはさらに表情を曇らせた。
「本を発行するなら、どうしてこの大和に話しかけて下さらなかったのよ!」
「これは、えーっと、大和さんと取引する前から打ち合わせしていたものでして」
「な、なんですって~!?」
耳を塞ぎたくなるような声量で返事をされた。俺がいた商談の時には『ニホに選択権がある』と発言していたのに。どうしてこんなに切れ散らかしてんだよ。
「どこの誰よ!その人は!」
「ええっと、第一騎士団の方で、」
「だ、第一騎士団ですって~~~!?!?」
大和さんとその従者の人たちが一斉に俺の方を向いた。
「これはどういうことよ!!」
「知らねえよ。俺が聞きたいぐらいだわ」
どうして俺が少し目を離した隙にこんなことになってんだよ。
「誰とそんな商談したんだ?」
「ニックさんです」
「あの青髪か」
心当たりを示した俺に大和さんは詰めて来た。
「やっぱり知ってる人なんじゃない!」
「知り合いだったらなんだってんだ」
「紹介しなさい」
「いやだよ」
「この大和家の長女が、あなたに貸を作ると言っているのよ?」
「この俺が嫌だって言ってんだろうが」
「ムッキ~~!!」
「つーか、アイツは騎士団内の人間の中でも忙しい部類の人なんだよ。俺だってそんなに頻繁に会えねえよ」
青髪は貴重な『他人にバフを与えられるアタッカー』だ。
今の第一騎士団には『他人にバフを使える人』自体がいないに等しい上、アタッカーとしても戦えるのは青髪だけである。本来なら、戦線や討伐の移動中ぐらいでしか話す機会がないくらいにレアな存在…のはずだ。
今までニホと交流できるような時間が合ったのが奇跡に近い。
「むしろ、ニホがそんな本を出版するレベルで会ってることに驚いたわ。一応忠告するけど、あいつは見ての通り危ない人だから関わらない方がいいぞ」
「それが最近は仕事が忙しいらしくて、全然会えてないんですよ...あ、この漫画はこの前ニックさんに売ったものです」
「...なるほどな」
確かにアイツはニホの漫画を金貨で買ってたな。今思い出したわ。
その時のものをアイツが刷って売りまくってるのか。本を出版するときって相手に仕事を丸投げしていいもんだったの?
どちらにしろ青髪は商談になると仲いい人相手でも揚げ足取りとか普通にするし、周りが何もできないレベルのグレーなこととか平気でするらしいから商品を作って卸すなら別の人の方がいい。
「このままアイツと縁切っちまえ。大和さんと商談してる方がマシだと思う」
「ちょっと!マシとはなによ!」




