40話 自称ライバル
「補講始まってすらないけど疲れたわ」
「お疲れ様...」
あのマッドサイエンティスト野郎はどうやら、俺がシンデレラだと今まで知らなかったらしい。
なんなら中間試験についても学生として十分なほどに魔法の技術が身についていたため、教える気も無ければ補講になるレベルで点を落とす気もなかったそうだ。
なのに『学生たちが危険な巨大円口ミミズの討伐の依頼を受理できたのは”シンクルドがあのシンデレラだったから”だ』という情報が回ってきてから印象がガラリと変わったらしい。
『それで手合わせしたときのことをもう一度じっくり思い返してみたんだが、あの精神の抉り方や風魔法をはねのける技能、いくら第一騎士団とはいえ卓越しすぎていることに気づいたんだ。しかもシンデレラと言えばその固有能力だ!確かにあのとき君は流血どころか痣一つ付けていなかった。しっかりと考えれば君がシンデレラだと気づけていたはずだが...。今さらとはいえ知ってしまった以上、ひそかに研究していた魔法を...』
といった感じで一人でめちゃくちゃ話まくった後、見たこともない魔法やらなんやらをめちゃくちゃ撃たれまくった。最終的には技能の指導もしてくれたが、これはあんまりだと思う。
そしてその日から連日で補講を受けさせられているためシンプルに疲れた。魔力は貰ったポーションで回復させてもらっているが、それでもしんどい。
「そろそろ時間ですよ!」
「いやすぎる。ニホ、俺の代わりに受けてきてくれ」
「それはちょっと...」
ニホは全力で視線をそらしてきた。多分、ニホも補講を受けていた時に好き勝手にされたのだろう。当時はどうしてそんなに嫌がっているのか気がついてやれなかったが、今は痛いほど分かる。
*****
しぶしぶ訓練場へ向かっていると、女性の御一行が道をふさいでいた。
なんでここに人が沢山いるんだよ。教授の配慮でこの時間に補講を受けるのは俺だけのはずだろ?
不思議に思っていると、中心人物の周りにいる人たちに見覚えがあった。
あの人たちは確か...大和さんとこの....。
ということはあの集団の中心にいる人物は。
「大和さん?」
「あら、シンクルドじゃない。ごきげんよう」
今日の大和さんはなぜか化粧を落としており、そのうえで髪を一つに縛っている。
「なんでこんなとこにいるんだよ」
「何故って?それはねぇ、我がライバルが正当な評価を得られていないから、し!か!た!な!く!!!この私が教授に抗議しに行くのよ!!」
大和さんは得意げに腕を組み、ドヤ顔をかましてきた。
「そもそもあの教授の講義方法にも問題がありますわ。あの時間内に全員を個別指導するなんて無理なのは百も承知だけど、特定の人にだけあからさまに避けていましたもの。こればっかりは見過ごせませんわ!」
「お、おう」
よく話すなぁこの人。あまりの圧に若干引いている俺とは対照的に、周りの人は大和さんの言葉に感動している。
「流石ですわ牡丹様!こんな野郎なんかのためにここまでするなんて!」
「なんて懐が深いの!」
「ふふん!いくら相手がライバルとはいえ、評価は中立的に行うのが真の大人よ!!」
「キャ~!素敵~~~!!!」
なんか勝手に身内で盛り上がり始めたので、邪魔者はさっさと退散するか。
「左様でございますか。それでは自分はこれで」
逃げようとすると、大和さんの従者ポジションの人たちが全力で睨みつけてきた。
「ちょっと!何かしてもらうときは感謝の言葉ぐらい言うべきじゃない?無礼が過ぎるわよ!」
「そうよ!いくら礼儀がないって言っても限度があるわ!」
「は?」
あ、大和さんが言ってるライバルって俺のことか!
そういやこの人に喧嘩売られたことが何度かあったな。ここ最近忙しすぎてすっかり忘れてたわ。
「あー...。どうもありがとう...?」
「どうして疑問形なのよ!!!」
「そうよ!そうよ!!!」
「皆さん落ち着いて!シンクルドはライバルからこのような対応をされて驚いているのよ!!」
「え?あ、はい」
「だから今はその態度について言及致しませんわ。でも、私のおかげで正当な評価を頂いた時にはしっかりと感謝なさい!!」
「そうですね」
「それではごきげんよう!おーほっほっほっほ!!」
そう言いながら大和さん御一行は補講が行われる部屋とは別の通路へと向かって行った。面倒だったので間違えていることは教えず、見なかったことにしてそのまま補講を受けた。
ちなみに御一行は後日、本当に教授へ抗議をしたらしい。
が、結局俺の補講が取り消されることはなかった。
何だったんだよ。




