39話 補講
巨大円口ミミズを討伐し、学園へ無事帰還できた次の日の放課後。
報告のためにリーダーがいる魔法塔へと向かう二人とばったり会った。
「今からか?」
「ええ。そうよ」
俺たちが任務を達成したかどうかはサリエルの方から伝えてくれているらしい。けれども巨大円口ミミズについてや森の状態についての詳しい報告はこの二人からすることになった。
「一緒に来ればいいのに」
コン太郎先輩は頭を傾げながらそう言ってくる。もちろん俺も行くつもりだったんだ。なんなら今からでもついて行きたいんだけど。
コン太郎先輩の発言に目を泳がせる俺を見たタマは、呆れたように話し出す。
「物事には優先順位があるでしょ」
「報告の方が優先度高いだろ」
「何言ってるの。私たちがきっちりと伝えれば貴方がいなくったって問題ないわ」
俺のしょうもない言い訳をタマはバッサリと切り捨てた。そうだよな。おめーは何時も正しい発言しかしねえよなチクショウ。
「諦めて補講に行きなさい」
そう、俺は魔法技能講義の中間試験で点を落としていた。
「もうさぼって帰ろうかな」
中間試験前にタマが予言していた通り、俺の技能の成長率は周りと比べて差があった。そのせいで「これでは履修したとは言えない」とかなんとか言われ、今日の放課後に訓練場へ来るように言い渡されてしまった。
「いい加減になさい」
「へいへい」
やっべ。そろそろタマが切れ始めそう。
危険を察知した俺はさっさと訓練場へと向かうことにした。
「がんばれー」
「やかましいわ」
コン太郎先輩からのエールは嫌みにしか聞こえない。
*****
何時も実習で使用している訓練場には、誰もいなかった。
一番に着いたのかとも思っていたが、時間になっても俺しかいないこの場所を見て嫌な気分になった。
「俺だけ補講かよ」
「そうだ」
教授は当然とでも言いたげな態度で肯定してくる。この野郎。
嫌みの一つでも言おうかとしていたその時。
「****************************」
「!?」
教授は何らかの詠唱を唱え始めた。そこそこの大きさの魔法陣が展開される。
やっぱり講義中に負けたことを根に持ってたのか?すぐに懐から鎖鎌を取り出し、攻撃に備える。
その直後、教授に鼻で笑われた。
なんだその態度。どういう意図だ?相当な威力の魔法を打つつもりなのだろうか?それか前回のような魔法の弾き方に対策をしたのかもしれない。
やべーよ。ただでさえ昨日魔力を使いすぎたせいで魔力がないのに。流石に今回は負けるかもしれない。
動揺している俺を尻目に、教授は魔法陣をさらに拡大させて訓練場の地面全体をに広げた。空間を淡く光ると同時に空間が軽く揺らぐ。
そして揺れが収まった頃。教授は軽く息をついた。
「これでこの建物の次元が変わった」
「は?」
「外部から中を観測出来なくしたんだ」
「何故?」
「なぜってそれは...君のストーカーに見られないようにするためだよ」
「ストーカー????」
気付いていなかったのか?と教授は驚いた表情をする。いや知らねえよそんなもん。俺にもタマのような過激な信徒が出来たのかと一瞬考えたが、よくよく考えれば反乱軍による監視のことだと気づいた。
「人気者は大変だな」
「え?あ、ははっ」
「それに手の内を見せたくないのだろう?色々隠し持っているようだし」
「まあ、はい」
全部わかってやがんのかコイツ。
「そこで、だ。君だけは特別に今日から補講という名目で個別レッスンしてやろうと思ってな」
「え?はぁ?」
なんだよ急に。どういう風吹き回しだ?
「今まで配慮に欠けた講義ばかりをしていてすまなかったな。単位や成績はその点を配慮して付けておくよ」
「それは、どうも」
「では早速だが...」
「その前に質問していいですか?」
なんか自然に授業が始まりそうだったので、完全に流されてしまう前に聞いておくことにした。
「なんだ?言ってみろ」
「どうしてこんなに手厚くしてくれるんですか?」
教授という役職柄、仕事は生徒への教育だけではないはずだ。ただの一個人にココまでする理由が分からない。それに本当に配慮をするつもりだったのなら、中間試験後じゃなくったっていつでもできたはずだ。今更こんな態度をしてくる理由が分からない。
俺からの質問を聞いた教授は一瞬目をそらした後、何か吹っ切れたかのように柔らかい笑顔を向けて来た。それを見た瞬間に悪寒が走った。
俺はてっきり、生徒や卒業生からの評判がいいこの教授を”教育熱心な教師”なのだと思っていた。しかし、この表情をする人は一貫してタイプが決まっている。何度も見てきたから瞬時に理解した。
「実は、使ってみたい魔法が沢山あってね...どうしても、その評価をしてほしいんだ」
マッドサイエンティストだ。
「シンデレラに」




