38話 結果
鬼火はミミズの口内に入ってすぐに消えた。
真っ暗闇の中、酸素の欠乏で意識が遠のいていく感覚がし始める。他に俺ができることは何もない。
祈るしかない。
目をきつく閉じてすぐ。全身に大きな振動を感じた。まるで上から落下したかのような感覚だった。自t面に着いたと同時に呼吸が軽くなる。
ハッとして目を開けると、目の前には大鎌を持ったサリエルが俺を見下ろしていた。
「おはよう」
「...」
月光はサリエルが持つ8枚の羽根を照らし、神秘的な雰囲気を醸し出していた。幼少期のころの刷り込みもあってか思わず視界を奪われてしまう。
完全に固まってしまった俺を見たサリエルは、ウザったいドヤ顔をかました。どうやらかなり機嫌がいいらしい。
「ミミズは私が倒したよ」
「...それは、どうも」
せっかく天使らしい風貌だったのに台無しだ、とか、こんなに強いなら最初から戦ってくれや、とか。言いたいことは山ほどあるけど、もう何をどれから言っていいのか分からなくなった。
どうしてこの鳥は俺の神経を逆撫でしたがるのだろうか。呆れと苛立ちが募って来たその時。
ナイフを回収し終えたタマが駆け寄ってきた。申し訳なさそうな表情をしている。
「言いたいことは沢山あるでしょうけど、まずは今回の私たちの行動について話をさせて頂戴」
「はあ?」
「お願いよ」
タマがどうしてこんなに申し訳なさそうにしているのかはよく分からないが、今回俺は何の役にも立てていないので黙って頷いた。
*****
「俺の攻撃力を測るためにココまでするか?普通」
「もちろん討伐で賞金を手に入れるのが一番の目的だけどね。そのついでに貴方の能力についてもっと知りたかったのよ」
ぶっちゃけるとあの巨大円口ミミズは、サリエルならすぐに倒せるような相手だったらしい。だけど俺が戦闘時に使う能力をもっと知るため、意図的に戦闘を傍観していたそうだ。
とはいえ非協力的なのが知られないようにするための行動が、あの鬼火とナイフの攻撃での支援だったらしい。なるほどな。
だからタマはこんなに申し訳なさそうにしてるのか。ようやく納得できた。
「ちなみに鬼火は僕が出したんだよ」
「ナイフは私よ」
「そりゃどうも...。あ、鬼火について一つ聞いていいか?」
「なに?」
「なんで戦闘の途中で俺の周りに鬼火を集めたんだ?」
一般人だったら火傷するレベルの温度の鬼火が複数体当たりしてきてたんだけど。あれの何が支援だったのかを知りたい。
「ああそれか!えっとねえ、あのミミズは魔力の多いものを狙って行動してるってわかったから!」
「うん。よくわからん」
「シンクルドの魔力が少なすぎて反応されてなかったから、狙われるようにするため魔力の塊を集めたってことよ」
「はあ!?」
俺の魔力が少ない?魔力を探知して動く動物に探知されないレベルで!?
衝撃を受けた俺に同意するかのようにタマはうなずいた。
「私も正直驚いたわ。魔法技能講義ではそれなりに魔法を打ちまくってるから魔力が多いと思ってたんだけど」
「平均より下ぐらいだって言われたんだけど...」
「えー?そんなレベルじゃないよぉ?気使ってくれたんじゃない??」
「おいこらバカ鳥。俺のこと馬鹿にしやがったな?」
「馬鹿にしてるのは君の方だろうがこの馬鹿信徒め」
今すぐに殴り合いでも始まりそうな雰囲気になってきたが、コン太郎先輩はそんなことを
「でもさ、なんで村に被害がなかったか分かっちゃったね」
「あ...」
「ねー?別に調べてたわけでもなかったけどさ?」
あの村の住人に魔力を多く持つ人がいなかったからこそ、ミミズは村まで下らなかったんだと思う。そして魔力を持つ土の上で生まれ育ち、魔力を多く持って凶暴になった生物ばかりをミミズは食べていたのだろう。結果的に生態系崩壊したみたいだけど。
意図せずこの森の謎について知ってしまった。