36話 経験値0
2交代で見張りをすることが決まり、タマと鳥は先に休んでもらった。といっても俺は敵が出現したら真っ先に突っ込まないといけないので周囲の警戒はコン太郎先輩に丸投げしてるけど。
特に会話もなく、満月が天辺にまで登ってきた頃。
「あっ」
「おお!」
コン太郎先輩とサリエルが同時に声を出した。サリエルはすぐに無詠唱でなんらかの魔法陣を発動させ、俺たちの周囲に魔法を展開させた。
「どうした獣組」
「誰かが森に入って来たよ」
「かなり数が多いし、魔力が多い生物も何匹かいるっぽい?うーん、狐から見た感じだとどう?」
「人間は5人で、動物を5匹連れてるね」
「なんだ人間かよ...。というか、サリエルもコン太郎先輩並みに魔法探知できてるじゃねーか」
なんで2人同時に同じ魔法を使ってるんだよ。交代で行う話はなんだったんだ?
俺に質問されたバカ鳥はふふん!と調子に乗りながら空を指さした。
「今は満月の光を浴びてるからね!」
「は?」
「あら、聞いたことない?サリエルは月光から魔力を得てるって話!」
「...似たような話なら効いたことあるけど」
「ふふん!今日は満月だから、月が沈むまでは実質無限に魔法が使えるんだよね!」
「チートじゃねーか!!」
なんだよその固有能力。俺も大概だけど、コイツのはその何十倍もすごい。やろうと思えば国を滅ぼすことだってできるかもしれないレベル。
「その代わりに自身で魔力を回復できないんだよね。これが対価ってやつ?」
「代償軽っ。その固有能力強すぎるだろ」
「何の才能も無しに2500年も生きられないわよ。特に1000年くらい前は治安がひどかったし」
「無駄話してないでサッサっと行くわよ」
寝起きで機嫌が悪いタマに会話をぶった斬られた。
*****
相手の目的が分からないので双眼鏡で様子を覗いてみると、その人たちが見慣れた集団であることに気がついた。
「は?第二騎士団じゃねーか」
松明を片手に、馬に乗りながら真夜中の森を探索している。
「なんで森の中を馬に乗りながら歩いてんの?大きい的にでもなりたいのかな?」
「いや、普通に小回りが効かない欠点を知らないだけだと思う」
アイツらは基本事務処理を仕事しており、現場を理解していない節がある。もちろん一般人よりは戦えるが、貴賓の護衛の時ぐらいにしか戦わない。
「にしたって魔法は俺よりも使える人達のはずだ。なのになんで俺たちの居場所がバレてねえんだ?」
この距離だと俺が発動させた魔力探知でも引っかかる。それなのに相手は俺たちのことを気にする素振りも見せていない。
アイツらが本当に第二騎士団なのかと疑っていると、またバカ鳥が機嫌が良さそうな声色で話し始めた。
「それはこのサリエル様が超!強力な認識阻害魔法を使ってるから、魔力がこの土よりも出てないからでーす!!」
「マジでか」
「さっきからシンクルドは小声で話してたけど、防音魔法も使ってるから普通にしゃべっちゃっていいよ!」
「すごいありがてえ!もっと早く言ってくれよ!」
お前にそんな能力あったんかい。情報伝達ができて無さすぎるだろ。
「それにしても、どうして第二騎士団がこの森にいるのよ」
タマが不機嫌そうに聞いてきた。
「なにかの調査じゃね?討伐依頼が騎士団に入ってるなら第三騎士団が来るはずだし」
この森の生態系は異常だし、土もかなりの魔力を含んでいる。もしかしたら数日後にはこの森も危険区域扱いになるかもしれない。
その調査できているのだとしたら、第二騎士団が真夜中の森に来ているのも頷ける。
といっても先に巨大円口ミミズを討伐されると不味いので、遠くから様子を伺っていたその時。
「あ」
馬に乗っていた第二騎士団の一人が、何かに飲み込まれてしまった。




