30話 天使
反乱軍のリーダーに「たまには魔法塔に顔を出してほしい」と言われ、仕方なく出向いた。が、中間試験が近いため魔法塔に着いてすぐにテーブルの上に教科書を広げた。リーダーは俺の行動に咎めたりはしなかった。
しばらくは会話もなく、俺が万年筆を滑らせる音だけが室内に響いていた。なんで俺ここに呼ばれたんだよ。もう帰っていいか聞くか迷っているとリーダーから話しかけて来た。
「シンクルドが反乱軍に入ったのはいつ頃だっけ?」
「俺がこの学園に来てから2日目ですよ」
「…ふーん」
「なんで他人事なんですか」
あんたが脅してきたんだろうが。リーダーの態度にイラついて思わず万年筆を握りつぶしそうになった。
「いやね、そういえばなんだっけ?って思って」
「ガチで言ってます?」
「うん」
この野郎。
「コン太郎ぐらいわかりやすい理由だったら覚えてたと思うんだけどね」
「確かにド畜生太郎先輩は分かりやすいですね」
あの人は確か学生生活を繰り返したいがためにこの組織に籍を置いているんだったっけ?どうしてそんなことで国を敵に回せるのだろう。
タマはボランティアの活動費のためにこの反乱軍に身を置いているが、自分なりの考えや信念のようなものが行動の節々に見えている。それに比べてコン太郎先輩は自分の気持ち優先で、人の命や気持ちを軽々しく扱っているように感じる。
価値観や感性が違う、というよりは。
「長寿の人ってみんなあんな感じなんですかね」
長い人生の中で命や言葉の重みが分からなくなっているような感じがした。
「じゃあ、他の長寿な人に会って比べてみる?」
俺の言葉を聞いたリーダーは名案を思い付いたかのようにウキウキと聞いてきた。表情は見ていないので分からないが、いつもの嘘くさい笑顔を浮かべている気がする。絶対に関わりたくない。
「遠慮しときます」
「どうして?」
「なんか怪しいから」
「まあまあ。種族だけでも聞いてよ。皆聞いてびっくりするんだ」
「いやです言わないでください」
「天使」
耳に入った単語に驚き、思わずリーダーの方を見てしまった。
「あ、やっと僕の方を見てくれたね」
*****
「びゅーん」
魔法塔に隠された部屋に案内された。
やけに複雑な道を歩き、目的の部屋の扉を開けてすぐ。そこには床に足を広げて鳥の人形を持った少女がいた。
「どっか~ん」
その少女は幼稚な発音をしながら鳥の人形を動かし、人間の人形にぶつけて遊んでいる。腕を動かすたびに背中から生えている純白の羽は細かに動いていた。あれは飾りではなく、本物の羽なのだろう。
「ぶ~~~~ん」
この人形遊びをしている少女は、間違いなく、天使だ。天使、だけど。
俺はそっと扉を閉じた。
*****
「や~あ初めまして~。天使だよん」
「帰っていいですか?」
「せっかくだから話し相手になってあげてよ。ほら、相当暇そうだったし」
「帰らせてください」
「なんだよその帰りたそうな顔。このサリエル様に失礼だぞ」
「帰りたそうな顔じゃなくて本当に帰りた...」
さらっと聞こえた天使の名前に思わず思考が停止してしまった。現実を受け入れたくなくて、もう一度聞き返す。
「あんた、サリエルなの?」
「初対面であんた呼びは失礼じゃない?天罰下るよー」
「お、サリエルの名前知ってたんだ。珍しいね」
「…故郷の村で信仰してるんで」
サリエル。
七大天使の一人で邪視の元祖と呼ばれており、月と死を司るとされている。あんなみっともなく床で人形遊びをしていた、これが。
血の気が引くような感覚がした。それを見たサリエルは機嫌を悪くする。
「勝手に天使を捏造して幻滅しないでくれる?なんかイラッとくる」
「えぇ…でもあまりにも村の伝承と違いすぎるっていうか…………」
「へえ。伝承ではどんな感じに言われてるの?」
リーダーは俺の反応を見て、村の伝承に興味を持ったらしい。目を輝かせながら聞いてきた。
「えっとですね、確か大鎌を持って黒いローブを着ていて、」
「大鎌は合ってるけど、そんなローブ着たことないよ?」
「やかましいわ!そんでその大鎌で魂を切り取って月へ送るとされています」
伝承を一通り聞いたサリエルは頭を傾げる。
「そもそも魂って、なに?殺すのとはどう違うの?」
「そこは深く掘り下げなくていいと思うよ」
「あとなんで私がわざわざ月へ送らないといけないの?勝手に行ってよ」
こんな軽い言動の鳥が、あの伝承のサリエルなのか…。うっそだろ。
心底がっかりしている俺を見たリーダーは、口を開いた。




