29話 中間試験
「さーて魔法塔燃やすか。休校にしようぜ」
「ダメに決まってるでしょ。真面目にやりなさい」
楽しい学生生活を送っている最中、急に試練が舞い降りて来た。
そう、中間試験である。
勘弁してほしい。なんで成績が悪ければ留年だなんて制度があるんだよ。成長率なんて人それぞれなんだから、ついていけない人がいるのは当たり前だろうが。制度廃止してくれ。
といってもすべての講義で中間試験があるわけじゃないから、救われている方ではある。
期末試験はすべての講義で行われるので多分この世の終わりみたいになると思うけどな。
「実技はともかく、座学がなぁ」
「僕は両方終わりです。多分試験日が僕の命日になると思います」
「こーら。変なこと言わないの」
俺とニホの言葉を聞いたタマは気まずそうに現実を突きつける。
「というか、実技に関してはニホよりシンクルドの方がやばいと思うわ」
「…まじで?」
「ど、どうしてですか?」
「ニホは初級の魔法陣を使えるようになったでしょう。しかも香水なしで魔力酔いを起こさなくなったじゃない」
「まあ、はい」
「それに比べてシンクルドは新しい魔法を使えるようになった訳でもないし、今ある魔法の腕を上げた訳でもないじゃない」
「ヘイト魔法はちょっと強くなったぞ」
「2ヶ月でちょっと成長しただけだから不味いのよ」
「まじか」
確かに魔法どころか魔力についてあまり理解していなかったニホが、今や市販の魔法陣を発動させられるようになっている。
他の人だと...大和さんはヘイト魔法をそれなりに使えるようになったうえで、教授が俺に使用していた風魔法も魔法陣を使って打てるようにはなっていた。
まだまだ磨く部分があるとはいえ、たった二カ月で2種類の魔法陣を魔力で書いて発動させている。かなりの才女だ。
それに比べて俺はヘイド魔法を前よりも少ない魔力量でちょっとだけ強力に打てるようになった程度だ。この講義のレベルについていけてるとは言い切れないだろう。
つーか講義中に教授が俺に対してだけ全然指導してくれないのも原因の一つだと思うけどな。アイツ絶対俺に負かされたこと根に持ってやがる。
「まあ他の手持ちの魔法を見せれば大丈夫だと思うけどね」
「は?やだよ。実力なんてポンポン見せびらかすようなもんじゃねぇだろ」
「え?そうなんですか?」
「実力が評価される講義で何を渋る必要があるのよ」
「これが騎士団員と一般人との価値観の違いか…」
切り札は隠すに限ると思うけどな。
「それにしても、シンクルドは魔獣生体学だけがやたら成績が良いわよね」
「大体討伐したことあるからな」
「…この大蛇は?」
「頭からかぶりつかれたな。飲み込まれたからそのまま臓器を鎌で刻んだけど」
外に出られたと思ったら、俺が臭くなりすぎて周りの団員から大量の水魔法を打たれまくった。初めて陸でおぼれ死にそうになったわチクショウ。
「この吸血鳳は?」
「なんか俺のことを石と勘違いして巣の材料にしやがったんだよ。救出されるまでの間、いつの時期にどこで何してるのかぐらいは実際に見てきた」
結構遠くまで運ばれたため救出がかなり遅れた。親鳥に実は生き物だとバレたら何されるか分からなかったので、あんまり派手に動かずダラダラしていた記憶がある。
食料は仲良くなった雛鳥に木の実とかを分けてもらい、何とかなった。水は雨水を貯めて何とかした。
「このサメは?」
「ダメ元で鼻殴ったらひっくり返った」
「なんなのよ貴方…」
こんな感じで教科書に載るレベルの有名な動物は大体討伐してるか、何らかの関わりがある。
しかも現地へ行くまでの間、青髪の野郎がずっと生態とかの蘊蓄を垂れていたため、今回の試験は勉強しなくったって赤点にはならないぐらいに知識だってある。
「まあ他はダメだけどね」
「数学なんぞ知らんわ。消えちまえ」
「アホな事を言ってないで頑張りなさい」
後半は死屍累々になりながらも勉強した。タマは時間が経つにつれ応援の仕方が雑になってた。