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こんなん人間不信になるわ  作者: 朝緑
強制入学
3/27

2話 絡まれる

「こっちは女性寮がある方向の廊下です。間違えて入ると周囲の人にしばかれますよ」

「マジかよ」

「あっちの通路は……」


 食堂に向かって歩いていると、段々と人混みが多くなってきた。食事を受け取る場所に至っては、目立ち過ぎて一目で分かるほど人でごった煮返している。


 あちこちから漂ういい匂いはもちろん興味と食欲が湧くが、俺が1番驚いたのは。


 「列が綺麗だし誰も騒いでない……」


 治安の良さ。


「……どういう意味ですか?」

「騎士団の食堂じゃありえねーよこんなの。バイキング形式のところなんて毎回戦争でも始めんのかってぐらい揉み合いになるのに。ここの人達はちゃんと列に並んで順番待つのか。しかも全員」

「ふ、普通のことだと思いますよ……?」


 変な感動をしている俺に少年がドン引きしていると、後ろから話しかけられた。

 

「あなた、ニホンノ・オタクよね?」

 「ふえ!?」

 「ん?2本の……?は?なんて?」


 急になんだよと思いながら振り返ると、黒髪の少年よりも1回り小さい少女がいた。猫耳が生えた少女は、袖がやたら長いジャケットの下には修道服のようなデザインのワンピースを着ている。


「彼の名前よ」


 手のひらを向けられた方向には、青ざめた表情をした少年がいた。


「今年推薦入学で入った人でしょう?」

「そうだけど!そうなんだけど!その名前で呼ばれるのは……ちょっと……!」

 「何よ。親から与えられた大切な名前じゃない。それがどうかしたわけ?」

「あの、この名前になったのはそんな理由じゃなくて!えっと…………」


 口ごもるのが見てられない。触れられたくない話題だというのは直ぐに分かったので横槍を入れる。


「本名で呼ばれるのが慣れてないのか?じゃあなんて呼んだらいい?」

「に、ニホで」

「分かったわ。これからよろしくね。ニホ」

「おー。っていうか俺たち、ココまで会話して歩いてきたのに自己紹介まだだったな」



「俺はシンクルドだ。よろしく。そちらのお嬢さんも、これからよろしくお願いします」


 あ、話の流れでニホに挨拶してしまった。挨拶は位が高い人から順に行うのが礼儀だというのに、明らかに平民であるニホから挨拶をしたとなると……。

 様子を伺うように視線を少女の方へ向けた。猫耳が少し揺れている。表情は嘘くさい……作り物のような綺麗な笑顔だった。


「敬語はやめて……えっと、私の名前はタマ・フォン・エデルよ。よろしく」


 ミドルネームにフォンがついている、ということはやはり、コイツは貴族だったか。

 軽く握手を交わしていると、食堂の受付の人が不機嫌そうに話しかけてきた。気づかないうちに俺とニホが選ぶ番まで回っていたようだった。






 料理を受け取ると、ニホと一緒に空いているテーブルへと移動した。何せ食堂の中は賑わっており、もし俺たちがここへ来るのに数分遅れていたら、立ち往生する羽目になっただろう。

 特に話すこともないので無言で食事をとっていると、少しの視線を感じた。


「ねぇ。」

「なにか御用でしょうか?」


 反射で返事をしてしまった。

 それでも会話上は何ら不自然ではないので特に気にせず、声をした方に視線を向けるとタマがいた。なんだろうと思うも、周りの雰囲気の変異に気がついた。聞き返しただけなのになんだか周囲が少しザワついている気がする。ただ返事をしただけなのに、だ。


 嫌な予感がする。


「同じ新入生同士なんだから、堅苦しい話し方はやめてよ。対等でいましょう?それと……何処の席も空いてないから、御一緒してもいいかしら?」


 チラッと辺りを一瞥した。確かに人で埋め尽くされているが、満席では無い。女性だらけのテーブルもあるのに、わざわざ俺たちと同じ席で食事をとる理由が理解できない。が、断る理由もない。


「ご自由にどうぞ」

「ありがと」


 ニホの隣にタマが座る。ニホは少しだけビクリと反応したものの、直ぐに食事に戻った。特に話すこともないし、タマがいる手前でニホと会話を続ける気にもならない。


 心做しか、周囲も始めより静かになっている気がするが……それは勘違いだと信じてる。微妙に思い空気感の中、最初に口を開いたのはタマだった。


「ひとつ聞いてもいいかしら?」

「いいけど」

「貴方、第一騎士団出身でしょう」


 タマはフォークとナイフをテーブルの上に起き、水を一杯飲んだ。


「王都で小耳に挟んだわ。騎士団を離職してまでこの学園に来たんですってね。そのまま働いていれば、人並み以上の生活が約束されていたでしょうに」


 何それ初耳。俺って王都では離職扱いされてんの?そのうえで学生やってるって設定かよ。なんで密偵って建前なのに目立つ設定を作ったんだよ!内心では口を引きずりつつも、何とか嘘をつこうと頑張る。

 

「まあ、そうだな。もうそんなに話が回ってたとは思わなかったけど」


 表立って調査ができない状況なのは確実だ。どう考えても学園に国を脅かす反乱分子がいるとはならないし、そんな妄想に財務側が耳を傾けるとは思えない。そんな状況で俺を送り込むならば勝手に行ったことにでもすれば荒波立たないとでも思っているのだろうか。


「その割には入学式を休んでいたわね」


 あ、もう入学式終わってたんだ。今知ったわ。へえ。


「騎士団って時間厳守じゃないわけ?職場が合わなかったから学園に逃げてきたわけ?」

「そんな訳ないだろ。あのさぁ、初対面にその言い草はやばいんじゃねーの?」

「じゃあ平民がわざわざ学園に来る目的は何?ココは将来国を背負う貴族のための学校なんだけど」


 蔑まれている。しかもやたら身分の違いを強調してくる。さっきは対等がどうのこうの言っていた癖に。なんか知らんけど完全に目をつけられた。ちくしょう。

 それに周りに見られている状況で下手なことを言う訳にもいかない。さっきからタマの横で怯えているニホも平民だ。このままでは矛先がニホにも向いてしまう可能性だってある。それだけはなんとか避けたいが、下手なことを言うと裏口入学がバレそう。俺、自分自身の設定すらまともに知らんし。


 どう立ち回ってこの差別野郎を追っ払うか考えていると、騎士団内での身分差について思い出した。ので、それを上手く使うことにした。


「仕事で……きました」

「は?」


 まずは本当のことを、バラせる範囲で。

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