28話 教会
「魔力量ってどうやって調べるんですか?」
午前の講義が終わって昼食をとっていると、ニホは真剣な表情で聞いてきた。その言葉を聞いたタマは驚きながらも返事をした。
「あら、測ったことがないの?珍しいわね」
「機会がなくて…。でも、そろそろ知りたいんですよ」
どんな僻地で暮らしてても普通は10歳で強制的に検査されるのに。当日体調崩しでもしたのか?
どちらにしろ魔力量が分からないと、今後魔法の技能を伸ばす際に練習メニューを組めない。中間試験も近くなってきてるし、早めに調べた方がいいだろう。
「今週の土曜日に調べられる場所まで案内しよっか?」
「!!いいんですか!?」
「いーよ。どうせ暇だし」
*****
「まあ魔力の検査するならここだよな」
「建物は王都とほぼ同じ造りなのね」
「どこ行ってもそうだよ。見栄えには興味がない集団だからな。つーかなんでいんの」
「別にいてもいいでしょ」
白を基調とした、窓と扉しかつけられていない高さのある建物。質素過ぎて逆に説明しづらい建物は大体教会だ。土地勘のない場所へ行った場合とかはよく目印にされる。
そんな建物の扉を勝手に開けて入る。すると近くで掃除をしていた修道女の一人が優しく微笑みながら声をかけてくれた。
「本日はどのようなご要件でしょうか」
「この人の魔力量を測ってもらいたくて来ました」
「承知いたしました。少々お待ちください」
そのまま奥の部屋へ向かって行ったが、すぐにこちらへ戻って来た。
「今からでも大丈夫だそうです。では測定を行う方はこちらへ」
「はーい」
ニホが検査を受けに行っている間、暇だったので勝手に教会内を見学することにした。
「だれかに一声かけるべきよ」
「生活圏に入らなきゃ怒られねーよ。無断で礼拝だけしていく人だって結構いるし」
実際、俺たちの周りには観光できていそうな人たちが部屋をきょろきょろとしながら見て回っていたので、タマはこれ以上口出ししてこなかった。
それにしても観光客が多い気がする。もしかしたらこの教会には何か特別なものを展示しているのかもしれない。
どうでもいい考察を立てながら礼拝堂を見つけた。遠慮なく中へ入ると、異世界へ来たかのような気分になった。大量の椅子がずらりと並べられており、美しいステンドガラスからは淡い日の光が入ってきている。
そして祭壇には大きな女神像が立てられていた。物珍しさから思わず見てしまう。
「どうかしたの?」
「いや、俺が生まれた村では天使を祀ってたから見慣れなくて」
「天使信仰だったのね。なら確かに、女神様の像は珍しいか」
そう、俺の出身の村は、村人全員で天使を狂信していたヤバい場所だった。あまりにも異様すぎてドン引きしてたから周りに馴染めなかったし、色々あったから村から逃げたけどな。それでも幼い頃に刻まれた常識とか価値観は今でも残っている。
だから羽の生えていないものに祈りを捧げている姿が未だに見慣れない。
しかし教会自体に興味がないタマは近くの椅子に座り、勝手にくつろぎ始めていた。
「そういえばシンクルドってどのくらい魔力があるの?」
「ん?平均より下ぐらいだけど」
「...その割には沢山魔法が使えるわよね?」
「魔力使用量を抑える魔具やら魔法やらを大量に持ってるからな」
もちろん「魔力を使って魔力量を抑える魔術」とかを同時に使用するようにしてるのもあるけどな。そのおかげで魔力量の割には多くの魔法を使うことが出来る。
「?貴方って魔法が効かないんじゃなかったっけ?」
「身体に影響がないタイプなら効くぞ。検査用の魔法とかも全然くらうな。逆にバフとか回復魔法が効かない」
「へえ。知らなかったわ。それに魔具ってどこに持ってるの?ポケットの中に入るサイズだったかしら?」
「ああ、それは」
右手で自分の頬を引っ張り、左手で胃袋のあたりを撫でた。
「頬の中と胃袋に入れてる」
「え」
胃袋の方に入れてるものは外に出てしまわないように高度な呪いをかけられている。魔具の形状は酔っぱらっている間に入れられたため知らないが、俺が頑丈なのもあって今のところなんの影響もない。
「あなたって...その...」
「なんだよ」
「...やっぱりなんでもないわ」
*****
底からしばらく時間が経った頃。妙にソワソワした司祭から検査結果を報告された。
「ニホンノ・オタクからは、魔力が感知されませんでした 」
ありえないことを言われ、時が止まったかのように誰も何も話せなかった。恐る恐る、言葉の意味を聞き返す。
「どういうこと?」
「そのままの意味です。もし検査中に魔力を隠していたわけでないのでしたら、今すぐに精密検査をしてもらった方がいいかもしれません」
意味が分からん。というか、生物学的にありえない。そこら辺の草木や虫にだって魔力はあるぐらいなのに。実はニホはこの世の生き物じゃないのかもしれない。
タマも司祭の言葉が信じられないらしい。
「ニホは魔法陣を発動させれるのよ?何かの間違いじゃないの?」
「!それは本当ですか!?」
「え?ええ...そうよ?」
タマからの肯定の言葉を聞いた司祭と修道女たちはすごいスピードでニホの前に跪き、祈りのポーズを取った。
司祭たちの行動が早すぎて思わずニホを俺の後ろに下げてしまった。やめてくれよこれでも騎士団員だからいきなり寄ってこられると反射で攻撃しそうになっちまう。
しかし司祭たちは俺の無礼ともとれる行動を気にすることもなく、ニホの方をうっとりと見つめながら声高らかに話し始めた。
「あなたは神の愛し子なのですね!」
「な、なんですか急に、え?」
「すぐに教皇様にお伝えせねば!!」
「え、待ってください!事情はよく分かりませんが、大事にするのは勘弁して下さい!」
慌てる司祭を何とか止めようとするニホ。全力でなんか祈ってる修道女たち。驚きで固まっているタマ。一瞬で興味が無くなったのでさっさと寮に帰って筋トレしたい俺。この状況を面白がって修道女の真似をし始めた観光客。祈りのポーズが上手くできなくて変なポーズで固まってるちびっ子。
このカオスな空間を仲裁できる救世主は現れず、ひと段落着くまでこのままだった。




