27話 多分大丈夫
「俺さ、10年くらい前に第1王子の護衛やってたことあるんだよね」
戦場で活躍して認められ始めた頃。異次元の装甲力を買われて第一王子の護衛をさせられたことがあった。
当時の俺は言動やマナーがとんでもなかったし、夜に第一王子と王都を飛び出したり下町ではしゃいだりと問題起こしまくり、最終的には第一騎士団に返却されて今に至るわけだけど。
ちなみに俺がシンデレラとからかわれているのはこれが要因の一つである。
そんな、異常すぎて現実味が1ミリもない俺の経歴だが、子供たちはすんなり信じてくれた。子供の純粋さが眩しい。
「へー」
「やっぱり貴族なんじゃん」
身分の方は信じてねぇみたいだけど。
「能力と運があれば平民でもなれるんだよ」
「その時の話教えてー」
「んーそうだな…」
つってもどこまで話していいのか分からない。家出騒動で二人そろって王様にケツしばきされた話とか?
いやこれでも第一騎士団員だ。第一王子の情報を安易に漏らすのは良くないだろう。
どんなしょうもない内容だったとしても。
だけど実際に見て来たものを曖昧に伝えるぐらいなら大丈夫か。
「アイツがみんなと同じ年齢ぐらいの時はいつも誰かに監視されてたし、こうやってパンを食べるだけでも山ほどマナーがあるから苦労されていたな。つーか毒味の関係で料理が完成してから1時間後とかに食べるから飯は絶対冷めてたし」
護衛に選ばれてすぐのころ、毒見の役割を与えられたこともあった。
俺はある程度毒に対しても耐性があるらしく、俺が食べても何ともなかったのに第一王子が食べた瞬間気絶してからは毒味の任を降ろされたけど。
あの時は「処刑される!」と思って絶望したな。懐かしい。
なんでアルコールにはこんなに弱いのにあの時は大丈夫だったんだろう。
その事件の後から毒味の手順が変わり、時間が経ってから効果が出る毒も警戒するようになったせいで、毒味だけで1時間かかるようになったんだっけ?
「服もたくさんあるけど自分の意思で選べないし、馬に乗るのが好きだったけどあんまり乗れてなかったな。あの頃は」
やたら装飾品の多い服は見ているだけでも重そうだった。
服装は王様や王妃様の好みで全て決まるため、体調の悪い日に重い服を着させられているときは俺を含めた周りの人間が心を痛めた。
しかも体調不良を周りに気づかれてはいけないため、取り繕うことを強要されてた。そん時は8歳の子供に何させてんだよって使用人と愚痴ったな。
趣味に関しては一応、勉強や稽古が終わったら時間を取っていいと言われていた。が、能力は至って平均的な第一王子は毎日目標を達成するのに精一杯で、中々遊べずじまいだったことを覚えている。
乗馬に関しては下手すぎたせいで馬に吹っ飛ばされたから禁止されてたな。今は乗れるのだろうか。というかあの出来事ももう10年前かよ。うっそだろ。
俺が思い出に浸っていると、子供に腕をゆすられて意識が現実に戻された。子供たちは自分が知らなかった第一王子の苦労話に興味津々である。
「他には?」
「歩き方と話し方と表情とかも全部決まってるみたいだったな」
修得した日の夜はめちゃくちゃ自慢されたし説明もされた。途中で教師を気取り始め、俺が生徒役をやらされたりもした。くっそダルかったけど、その時の礼法は後々役に立ったので感謝している。
「でもパーティーとか誕生日会開いてもらったりとかしてるじゃん」
「あんなの貴族のマウント合戦の戦場だぞ。遠回しな言い方で罵倒されることもあるし、ダンスだって上手く踊れないとどうなるか分かったもんじゃねぇし」
俺から現実を聞いて夢を壊された子供たちは微妙な表情になった。
「思ってたのと違う」
「つまんなさそう」
「でも贅沢してるでしょ?」
「それでもこれは…」
子供たちは仲間内で感想や意見を出し合い、話がまとまったところでもう一度俺に話しかけて来た。
「さっき言ってた歩き方のマナーとか教えて」
「お、おう。俺が覚えてる部分だけなら…」
このまま俺が話を続けてもいいのかと思ってタマの方を見た。一瞬だけ目線があったが、無視された。
*****
「随分と仲良くなったのね」
「まあな」
しばらくしてから、小さい子供たちを家に帰したタマが呆れた様子で言ってきた。どうやら俺がここまで子供たちと仲良くなるのは予想外だったらしい。
子供たちはレンガを頭に乗せ、バランスを取りながら歩く練習をしている。が、未だに誰一人としてまともにできていない。
「無理だー!」
「歩く度にこんな感じなの?だるっ」
「しかもそれ以外にもいっぱいルールがあるんだっけ?」
「部屋や訪問先によって歩く場所が決まってんだってさ」
「えー」
「でも国民のためになるなら~って理由だけで頑張ってんだぜ?第一王子様は」
「...」
意味不明で無駄にしか見えないマナー講習に子供たちは心底ドン引きしている。そうだよな。意味わかんないよな。俺もそう思う。
飽き始めた数人の子供は地べたに座って会話をし始めた。
「確かに王族は平民の苦労を知らなさそうだけど、王族の苦労を俺たちは知らないや」
「よくよく考えると俺さ、今の生活でも十分楽しいわ」
「私も―。どうせ大変なら楽しい今の方がいいかも」
その会話を聞いたタマは酷く驚いたようだった。




