22話 実はいい人
「魔法技能講義嫌だー!行きたくないー!」
ニホはそう言いながら全力で机に張り付いている。
始めの頃はやる気に満ちていたものの、毎回魔力酔いを起こして苦しむうちに完全に意気消沈したらしい。
「少しずつ耐性もついてきてるんだろ?もうちょっと頑張れば普通に使えるようになるって!」
「いーやーだー!苦しみたくないですー!!!」
同じ騎士団の団員なら殴ってでも無理やり行かせるが、ニホ相手にそんなことはできないし。どうしたもんかと頭をかしげていると、
「まあ!どうかされたの?」
大和家御一行が現れた。周りの従者たちは俺のことをめちゃくちゃ睨んできている。
「ニホが魔力酔い酷いタイプでさ。次の講義受けたくないらしい」
「そうでしたのね。そう言われてみれば、確かにニホさんは何時も嘔吐されていますものね。あれが魔力酔い...」
「もうあれは体罰で訴えれるレベルだと思っていますよ」
「そんなにひどいのなら、これを使ってみては?」
大和さんは懐からスプレーを取り出した。
「それは?」
「魔力耐性バフを付ける香水ですわ。香りが強いけれど、ないよりはよっぽどいいわよ?」
それ高時給の騎士団員でも購入が難しいぐらいレアアイテムじゃねーか!しかも馬鹿高いから貴族でもなかなか買えないし!
そんなものを当たり前のように見せてくるこいつはホントに格が違うお嬢様だったんだな...。今になってコイツの家系のすごさにドン引きした。
しかし世間知らずのニホはそんなことを知るわけもなく、天使から救いの手を伸ばされたかのように目を輝かせている。
「え!欲しいです!!」
「いいわよ。私のお古で申し訳ないけれど。その代わりに貴方が作成した著作物の特許について話をさせて頂戴ね」
「もちろんいいですよ!ありがとうございます!!」
なぜかニホはそんな高級な香水を手に入れていた。しかもさらっと商談?を行うことになってるし。
つーかニホってあの香水もらえるレベルの著作物持ってたんかい。今初めて知ったわ。
「それじゃ放課後に会いましょう!」
「俺もその商談に参加していいか?ニホが世間に疎すぎて心配なんだよ」
「口外しないならよくってよ!」
そう告げると大和さんは一足先に魔法技能講義を受ける部屋へ向かって行ってしまった。
*****
技能講義で魔法の練習中。ニホの様子を見るといつもより楽しそうに魔法陣を発動させていた。貰った香水のバフがちゃんと効いているらしい。今のうちに魔力が無くなるぐらい練習して体を慣らすと実力を伸ばせるだろうな...。
そんなことを考えていると突然、ヘイド魔法をかけられた。
「LooK mE!」
特に理由もなく、無意識に振り向いてしまった。魔法をかけた人間の方を見ると案の定、大和さんが自信満々な表情で仁王立ちしていた。
「ふふん!どう?かなりできるようになっているでしょう?」
完璧には程遠いが、できていないわけではない。弱い力だけどヘイドを集めることはできている。もし一ミリも触れたことのない魔法をこの1か月ちょいの期間で修得したのだとしたら、かなりのハイスピードだ。
「いいんじゃね?もっと磨けそうだけど」
「でしょう!?いつかあなたを追い抜かして差し上げますわ!おーほっほっほ!」
周りの従者も大和さんを誉めまくり、大和さんはにっこにこで自分の練習場所へと戻っていった。
何なんだよコイツ。人徳もあるし、ライバルだからって侮辱するわけでもなく、何か嫌がらせをしたりもしない。
実はかなりの人格者だろ。強い物言いが鼻につくけど。