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こんなん人間不信になるわ  作者: 朝緑
強制入学
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1話 物語の始まり

 この物語は……俺が気絶している間に始まっていた。


 深く沈んでいた意識が戻ってもしばらくは思考がとりとめなく、ぼんやりとしていた。それも誰かに揺さぶられることで、段々と意識がクリアになっていく。


 妙に肌触りのいい布団に包まれていたい気持ちを押し殺して瞼を開けた。


 目が覚めで最初に映る天井には見覚えがなかった。視界に映るのが空でないことに安心すべきなのかそうでないのかは判断つかないが、何かが始まったことだけは本能で理解できた。


「あ、あの?」

 

  話しかけられた方向を見ると、やたら前髪の長い黒髪の少年が困った表情をしている。


「大丈夫...ですか?」

「え?ま、まあ...というか誰?ここってどこ?」

「こ、ここは、学生寮の、部屋、です。はい」

「はああああ!?」

「ひい!!」


 俺の声に驚いた黒髪の少年は完全に委縮してしまった。冷静でいられる状況でない


「あー..。ごめん驚かせて。ところで俺がなんでこの部屋にいるのか分かる?俺さ、ココに来るまでの記憶が一切ねえから混乱しまくっててさ」

「あ、ああ。はい」 

 

 実は全く心当たりがないわけではない。


 何せ俺は誰もが憧れる、第一騎士団の団員だ。

 無駄に能力があるせいで一瞬で村を燃やせるようなドラゴンが出没する森に放り出されたり、一般人だと近づくだけで死んでしまう池に投げ捨てられた挙句、泳いで調査しろとか無茶ぶりさせられたことなんてザラにある。

 今回もその類(何らかの仕事)ということだけは嫌でも予測がついた。


 とはいえ今回は肝腎な仕事の内容すら知らされていない。今回は歴代の無茶ぶりの中でもぶっちぎりでどうかしてる。


 下手に動かない方がいいのかもしれないが、さすがに何の理由もなく三十路手前の男性を学生寮のベッドで放置しないだろう。そこまで第一騎士団は狂っていないはずだ。多分。



「ええっと、なんか、眼帯の人と白髭の人が貴方をベットに捨てて」

「ん?捨てたって何?寝かせたって意味だよね?」

「いえ、ポンっとこう、重いものを投げ捨てる感じで飛ばして...ヒィ!!」


 聞き捨てならない言葉につい反応してしまった。またもや怖がらせてしまう。軽く謝罪しながらなんとか自分の心を落ち着かせた。


 眼帯の人はたぶん俺の同僚で、白髭の人は団長だ。間違いない。


 団長が俺を雑に扱うのはいつものことだが、まさか同僚までもが俺のことを存在に扱ってくる可能性は考えていなかった。しかも眼帯の人ってあれじゃん。この前「一族のパーティーに出席するから!」って俺に仕事の肩代わりさせてきた化け物じゃねーか。


 それなりに付き合いがあったからあの時手伝ったのに……恩を仇で返しやがった!ぜってえ許さねえ!!


 心の中で復讐心を固めていると、黒髪の少年は思い出したかのように机の上にある紙を俺に見せてきた。


「そういえば、眼帯の人からこれを渡すように言われてたんです」


 その薄っぺらい紙束には「極秘事項」と大きく書かれている。なんで見ず知らずの少年に手渡してんだよ。極秘と書いている意味がないだろ……と思いつつも、紙束をその場でパラパラを軽く読んだ。もしこの黒髪の少年が読んでしまうような人間なら、俺が気絶している間に読んでいただろうから今更隠す必要なんてないし、そうでないなら今読んだって勝手に覗いてこないはずだ。


 理由にもなっていない言い訳を自分に言い聞かせつつ、文書をその場で全てを流し読みした。内容が受け入れられなかったので、もう一度じっくり読み返した。


 この文書の1番始めには、手荒な真似をしたことによる謝罪と、この文書は読み終わったら燃やすようにとの指示が書かれている。これは機密事項の中でも特に繊細に扱わないといけない内容であることを示唆していた。

そんな極秘中の極秘扱いの文書には、確かに色んな意味で火種になりそうな内容が書かれていた。


 なんと団長曰く、俺が今いる学生寮を所有しているこの第一学園には、この国の脅威となり得るような『反乱軍』が潜んでいるらしい。


 その調査をしたいが、第一学園の理事長や財務省などの上の人が認可を渋っているがために表立って調べることは出来ない。

 よって密偵という名目の元、として俺が第一学園に入学し、反乱軍及び反乱分子になり得る種をリストアップして報告することが俺の任務だそうだ。ちなみに理事長は俺が密偵だということは知らない。

 つまりは協力を仰ぐことはできないし、なんなら理事長も敵側の可能性すらあるらしい。


 いやふざけんな。


 何故団長はこの学園に目を付けたんだ。

 第一学園に入学する人ってほとんどが18歳の位が高い爵位持ちだろ?いくら貴族とはいえまだ家業を継いですらいない年齢の世間知らずどもだ。なんで国の脅威になり得るだなんて思えるんだよ。

 まさか理事長や教員陣を疑ってるのか?だとすれば生徒とかいう行動制限のある肩書を付ける意味が分からない。普通に清掃員とかで雇われるほうがよかっただろ。


 そしてなんで俺が選ばれたんだよ。俺平民だし、28歳なんだわ。この場にいるだけで存在が浮いてしまうというのに、どうして隠密に行動することが求められる仕事をさせよう、ってなったんだよ。絶対、他に良い人材いただろ。


 思わず天を仰いだ。確かに俺はガキ臭い態度と雰囲気のせいで成人したての若者と勘違いされることはある。あるけどさ……?


「あの?大丈夫ですか?」

「え?ああ、まあ...それより君、この文書って勝手に読んだ?」

「いえ。僕は字が読めないんで」

「ほんとかぁ?この学園に入学できるレベルなんだろ?」


 まあ裏口入学した俺が言えることではないが。

 この学園は国一の大規模な施設で、他国からの留学生も沢山集う場所だ。名のある貴族の嫡子ですら入学できるか分からないくらいだというのに。文字すら読めない人が入学できるとは思えない。


「本当ですよ!平民推薦枠で入学したんで!名前書けて学園長に認められたから入れたんです!」

「裏口入学じゃねーか」

「違いますよぉ!僕は服装のデザイン性?とかが認められたんです!」


 わなわなと罪を隠すために弁明しているかように見えるが、実際のところは嘘では無いのだろう。立ち振る舞いや言葉遣い、人との距離感が明らかに貴族と違う。平民ならば賄賂なんて待ち合わせていないだろうから裏口入学なんてできないだろうし。

 問い詰めたところでギクシャクするだけなので、これ以上言及するのはやめた。


「まあ入学方法だの学園のルールだのは俺よく分かんねぇんだけどさ?とりあえず新入生の今後の予定とか分かる?飯奢るから教えて」

 「え?まあ、教えるくらいなら構いませんが……その紙には書かれていなかったんですか?」

 「コレは学園の案内が書かれてるやつじゃねーんだ。とりあえずイラつくから燃やすけど」

 「燃やすんですか!?」


 この反応に心底驚いたような表情。ドン引きしてる目線。文書を読んでいないという発言は信じても良さそう。

 

「このバックは?」

「眼帯を着けていた人が置いて行きました」

「じゃあ俺用のやつだな」


 中を漁ると、少年が今着ているロングスカートの制服に教科書、筆記用具など学園生活に必要そうな物があらかた入っていた。


 それと多めの硬貨。今回の手荒な真似に対する詫びもあってか、今まで置かれていた量よりも多い。しばらくは贅沢出来そうだ。


「お、あった」


 ライター。

 慣れた手つきで文書に火をつけ、燃やした。この文書は元から燃えやすくなるように魔法がかけられていたらしく、あっという間に燃えて消えた。


「燃やして良かったんですか?」

「いいんだよ。こんなもん」


 というか、燃やすよう書かれていたし。そこまで説明すると少年に怪しまれてしまうかもしれないので言わないが。

 俺の適当な返事で何かを感じ取ったらしい少年は、少し引きずった表情で話す。


「ま、まあ困ったことがあれば相談してくださいね……」

「センキュー!」

「いえ……なんか大変そうですし」


 よくわからないけど早速仲良くなれそうな人ができて良かった。この調子で仲間を増やせればいいが。

 この気弱そうな少年から話を聞いたところ、入学式は昨日執り行われたらしい。今日は学業への準備日としての休みで、明日からは本格的に授業が始まる。


「授業についてですが、僕は推薦入学なので必修科目以外は選べなくて……選択科目のことはなんにも分かんないです……」

「了解。その必修科目とかって何処でわかんの?」

「この冊子です。入学式の時に1人ずつ名前を呼ばれて渡されました」

「ならこれ以上のことは学園の先生にどうしたらいいか聞いてみるわ。センキュー」

「教務課の方に聞いてみるといいですよ!音読してもらえますし」

「そんなことまでしてくれんの??」

「僕文字が読めないんで……」

「あ、うん」

「教務課の方にも哀れんだ目で見つめられました」


 新入生の今後の予定とか、学園でのルールを色々と教えて貰いつつ、部屋の荷物を軽く整理した。あの機密文書によると、この部屋を活動拠点にするように指示がされていた。よく見ると確かに都合がいい魔法がいくつか掛けられている。

 

 そうこうしているとどこからか鐘の音が鳴った。


「この音は……」

「12時のチャイムです。食堂も開いてる時間帯ですし、一緒に行きませんか?」

「いいねー。約束通り情報くれたからなんか奢るわ」

「いや奢ってもらうのを催促するために誘った訳じゃないですからね!?」


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