18話 魔力の概念について
授業が終わり、明日の分の課題も終えた後。俺は魔法について全く知識がないニホに勉強を教えていた。
ニホは毎日魔法技能講習の補習を受けているらしいが、文字の勉強ばかりでそもそも魔法の実技には入ることすらできていないらしい。確かに文字が読めないと自習することができないので理にかなってはいるけども。
本人から早く魔法が使えるようになりたいと言われたので、俺流で教えることにした。
「まず魔力の概念は知ってるか?」
「魔法を使うときに消費されるもののことですか?」
「それはそうだけど...とりあえず一から説明するか」
田舎の出身なら初等教育を受けていないかもと思い、念のため聞いてみたら本当に知らないようだった。危ない。ここら辺の知識が抜けてると中級魔法を操り始めた頃に苦労するからな。
「まず魔力はどの生物でも必ず持ってるし、血と一緒に流れてるんだ。ほぼ魔力がないに等しい生物もいれば、体外に溢れ出てるレベルの生物だっている。全生物の中でも人は、最も魔力量の個体差が激しい生物らしい」
「へえ!面白い設定ですね!それ」
「設定じゃなくて事実な」
「僕はどれくらい魔力がありますか??」
目をキラキラと輝かせているニホに聞かれるも、俺は相手の魔力量を正確に測れるような能力がない。
「少なくとも体外に溢れ出てはないな」
「そうですか...」
「まああったところで国に使いつぶされるだけだから別にいいだろ」
ここは固有能力と同じで、魔力量も生まれつきの体質で大体決まってしまう。だからこそ使える人は貴重だし、才能が認められれば一生国に使い潰される未来が待っている。
「それじゃあ、まずは簡単な魔法陣からやってくか」
今日のこの日のために用意しておいた、初級魔法陣が書かれた布を取り出す。
「それは?」
「王都から帰ってくるときに買った、ライターぐらいの火が出せる魔法陣」
魔法陣の内容を読む。この魔法陣は誰でも使えるように設計されているため、すぐに概要は理解できた。
「これは...うん、特定の言葉を言いながら、魔力を込めると使えるな」
「すみません!魔力の込め方が分かりません!」
「ん~、正直それは感覚の問題だからな...」
ほとんどの人は物心つく前に親から教わる。幼い子供ほど言葉で伝えずともフィーリングで理解できる場合が多いからだ。
成人してからとなると、どうしても強引な方法で教えることになる。
「手をかざしてくれ」
「こう?」
「ちょっと腕と肩触るぞ」
ニホの左肩を右腕を遠慮なくつかむ。
「今から魔力を流すから、感覚を覚えろ」
「え」
「ファイア」
半ば無理やり魔力を流しながら詠唱を唱えた。途端に魔法陣から火が付いたが、ニホはぐらりと揺れて脱力した。
「お、おい!」
「う゛え...」
ニホは魔力が流れる感覚に耐えきれず、嘔吐してしまった。どうやら魔力に対する免疫が全くないらしい。本当に今まで魔法とは無縁の生活をしてきたのだろう。
「何があったの!?」
「!!」
たまたま通りがかったタマが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「魔力酔いだ」
「ええ!?何をさせたわけ?」
「初心者用の魔法陣を使わせただけだよ!」
人聞きが悪いな!俺の無実を証明するために使用した魔法陣を見せた。タマは内容を理解した途端、眉をひそめた。
「...確かにこの魔法陣で酔うなら、免疫がなさすぎるわね」
「僕は一生、魔法が使えないんでしょうか…?」
「いいえ。このレベルの魔力酔いなら訓練次第で解消できるはずよ。でも正直、プロからの指導じゃないと厳しいかも」
「こればっかりはなぁ」
それこそ魔法技能講義を担当している教授から学ぶのが一番だろう。あの人の腕前の良さは騎士団で話題になってるくらいだし。丸投げするようで悪いけど、俺は魔法の才能も耐性もない人の訓練方法を知らないので何もできない。
ニホは魔法の適正が壊滅的に無いことにしょんぼりしていた。