17話 立場
散々な目にあったあの後。
俺は体調が回復してすぐに笑った人を殴りに行き、それを見た野次馬達が混ざって乱闘騒ぎになったが、すぐ眼帯の青年に仲裁され、本部まで連行された。
本部前には馬車が止まっており、その中でニホとあの二人組が楽しそうに会話していた。
「この馬車、学園前まで送ってくれるから。大人しく乗ってね」
「なんか疲れたから寝るわ」
「そうしなよ」
馬の手綱は赤髪が握ってくれるらしく、青髪は警護の為に乗ったままらしい。
「それじゃあ学園生活頑張ってね〜」
眼帯の青年は馬車が見えなくなるまで手を振ってくれた。
「アイツあんな人情に厚い人だったっけ」
「?俺にはいつも通りに見えるぞ」
青髪は不思議そうにそう答えた。
*****
図書館で勉強していると、どこからかコン太郎先輩がやってきた。周りに誰もいないのをいいことに、普通に話しかけられた。
「土曜日さ、騎士団本部へ密告したの?」
「さあ?」
「教えてよー。僕さぁ、監視の途中で騎士団に追われちゃったから全部は知らないんだよねー」
「どっちだと思います?」
「曖昧なこと言わないでよー。隊長に報告出来ないじゃん」
「報告されるのに言うわけないじゃないですか」
本当は言っていない。誰が敵なのか分からなすぎて言えなかった。そもそもコイツらが何をどうしようとしているのか知らないし。
「まあいいや。それよりさ、今日も反乱軍の経費で飲みに行かない?」
「はぁ!?」
思わず怒鳴るような物言いで返事をしてしまった。慌てて先輩の方を見るも、いつも通りニコニコしている。どうやら気にしていないらしい。
「ほら、緊急会議でーとか適当な嘘ついてパーッと行こうよ!」
「嫌ですよ。勘弁してください」
耳を疑うような誘いに鳥肌が立つ。コン太郎先輩の表情からして、本当にただ飲みに行きたいだけなのだろう。どうして情報を引き出そうとしたり、殺そうとした人間にただの友人のように話かけれるのか。
「ほかの人もこの話に乗ってくれないんだよね。タダで酒が飲めるのに...なんでだろ?」
「そのほかの人とやらの断った理由は知りませんけど、俺は一度命を狙ってきた敵とできるだけ二人きりになりたくないんっすよ」
「もう仲間じゃん。結局生きてるし、あの時のことはもうよくない?」
「ガチで言ってんのか?」
昨日のあの女性とは違って、言葉は通じているのに話が通じていない。正しくそんな感じがする。呆れすぎて思わずタメ口で話してしまった。
「うーん。ほんとに理解できないや」
「そうっすか。なら話が通じる人の元へ行ってください。頼むから」
「まず人間と話がすれ違うことが多いから何ともなぁ。おんなじ獣人のタマとはバチバチに敵対してるし」
「いや人種関係ないでしょ...」
コン太郎先輩は俺の発言に首を傾げた後何かに気づいたらしく、質問してきた。
「あ、もしかしてシンクルドは知らないの?」
「何をですか?」
「獣人が大きく分けて二種類いるって」
「はあ?」
獣人の種類?それ自体はもちろん知っている。タマが猫の獣人だし、コン太郎先輩は狐の獣人だ。しかし、そういう意味では犬やうさぎなど、多種多様に存在している。
言っている意味が分からない。俺が混乱している間に、コン太郎先輩はどこかから紙と万年筆を取り出し、絵を描きながら説明し始めた。
「人間から他の動物に進化途中の獣人と、他の動物から人間に進化途中の獣人がいるんだよ」
「なんじゃそりゃ」
「ちなみにタマは人間からネコに進化途中の獣人で、僕は狐から人間に進化途中の獣人ってこと」
「違いがよく理解できないんですけど」
「つまりはタマは根が人間に限りなく近いんだよ。だから能力とか考え方が人間似てるんだ。でも僕の場合は根が限りなく狐に近いから、狐や妖狐の特徴とか特技を結構持ってるよ」
「...なるほど。なんとなく分かりました」
ある程度の人徳や人間らしさのあるタマとは違い、コン太郎先輩は人間味が薄すぎる。道徳とか倫理観とか、人間特有の価値観が全くない。そのことを前提に今までの非常識な言動を考えると全て納得できた。
「と、いうわけで。僕がズレてるのは僕のせいじゃないから」
「なんというか、その言葉には絶対に頷きたくないんですけど」
「んー?なんで?」
頭を傾げているが、別に何か考えている訳ではないのだろう。ただ、なぜ俺が納得してくれないか不思議に思っているだけで。
この後も昨日と一昨日に何があったのか質問された。あまりにもしつこいので勉強をするという理由で図書館から離れた。