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こんなん人間不信になるわ  作者: 朝緑
強制入学
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13話 念願の日

「彼は来てくれるでしょうか」


右目に眼帯を付けている銀髪の青年は、落ち着きなくそう言葉を零した。


「絶対来るじゃろ。なんせ今回の任務はかなり強引な押し付け方をしたし、第一学園自体が王都の近くにあるからのう」

「...来るとすればいつ頃でしょうか」

「ん~そうじゃなぁ。朝一に馬車を捕まえて、王都の城下町からは人込みが多いから徒歩に切り替えて、大通りの商品に少し気を取られて寄り道しながらくるじゃろうから...もうそろそろくらいじゃないか?」


小さなひげを生やした初老の男性が大雑把な予測を言い終わってすぐ、乱雑に扉を開ける音が響いた。


不躾にも騎士団長の執務室にノックも無せず入ってきたのは…ひょっとこの仮面を被り、鎖鎌を手に持つ成人男性だった。


「シ、シンクルド...?だよな??」

「ちわっす。謀反にきました。くらえ俺の鎖鎌」

「わっ!?ちょ、執務室で振り回すな!」


何度も眼帯を付けている青年めがけて投げるが、掠ることなく避けられる。


「この前に”もうすぐ三十路になるから威厳とか可愛い後輩が欲しい”って言ってたでしょ!応援するからもっと28歳らしい言動してくれ!」

「やかましいわ!大した情報も無しに18歳の貴族どもの群れに解き放ちやがって!めっちゃ怖かったんだぞ!ちくしょう!!」

「それはホントごめん!でもこっちにだってえぐめの事情があって仕方なかったんだよ!」

「せめて第一学園の情報と書類上の俺の設定ぐらい教えてくれてもよかっただろ!」

「え?」


シンクルドの言葉を聞いた眼帯の青年は鎖鎌の鎖部分を右手で握り、もう攻撃ができないようにした。


「な、なんだよ」

「”いつかこの入学方法で第一学園に入学する”って情報は本にして伝えてたでしょ。...その本には密偵とかじゃなくただの生徒としてって書き方だったけど」

「そんなもん知らねーよ」

「ほら、”世界のお菓子百科事典”って表紙の本渡したでしょ?」

「...あれか!!」


任務のために国境当たりへ向かおうとしている時に、荷物の中に混ぜられていたものだ。それを赤髪のクソ野郎に見つけられ周りに言いふらされた結果、めっちゃいじられたし地元のお菓子を渡されるようになったんだよなちくしょう。


「読んでなかったんだね」

「世界のお菓子に興味なかったからな」


今その本は本棚の奥底に封印している。見るたびにイラっとくるから。


「どこに敵がいるのか分からないから、誰も中身を見なさそうな表紙に代えて渡したんだよ」

「結果的に俺も見なかったわけだけどな。そういう細工するならなにか一言伝えてくれよ」

「あの時そんな暇なかったでしょ?」


 確かにあの時期は忙しかった。というかコイツに「これ読んでー」って言われた時、「今忙しいから俺の荷物の中に混ぜといて」って言ったのは俺だ。こいつはその言葉に従っただけなのだろう。それにしても報連相に問題がある気がするけどな。


「誤解は解けたかのう?」

「少しだけな」

「それじゃあそろそろ、本題に入ってよいか?」

「...本題?」

「反乱軍のことについてじゃ」


ドキリ、とした。


「怪しい人物は見つけたか?」


もちろん知っている。分かり切っているが、今この場で言っていいものか。


少なくとも団長の言動は反乱軍側にバレていた。が、少なくとも俺はあの機密文書を読むまでこの任務の存在すら知らなかった。つまりは騎士団の人間にも情報を漏らさず、極秘に動いていたのだろう。


となると財務や理事長に"学園に密偵を送ることに関する書類"を提出した時に情報が漏れたのか、コイツらが書類業務を行うこの部屋が盗聴されている可能性がある。


しかも後者の可能性を考えるとするならば、団長と機密情報を共有していた人間自体が敵側の可能性を考える必要が出てきてしまう。例えば…目の前にいる、眼帯の青年とか。


とにかく不確定要素が多すぎるので、この場では報告を上げないことにした。せめて反乱軍を名乗るやつらが何をやっているのか...または何をしようとしているのか判明してからにしよう。


「まだ学園生活始まって1週間も経ってないんだぞ!なんも分かんねぇよ!」

「少しでも怪しい行動をしている人はいない?」

「いねぇよ!あ、でも魔法塔ってとこは怪しいな。噂もヤバいっぽいし」

「あそこかぁ…。なるほどね」


眼帯の青年は何かを考え出した。頼むから話を面倒な方向に持っていかないでくれ。


「他に怪しい場所はないかのう?」

「ない。少なくとも本校舎は建物と部屋の大きさが一致してたから、隠し部屋とかも無いんじゃね?地下とか魔法で作った空間が存在してるかは分からんけど」

「そういえばシンクルドって……魔法探知は苦手だったね」

「マジでなんで俺を密偵にしたんだよ」

「都合がよかったから」


せめて納得できる理由で選んで欲しかった。


「なんかイラついてきたし、もう話すことないから帰るわ」

「最後に一つ頼み事があるんじゃ」

「…な、なんだよ」


嫌な予感がする。団長の執務室で頼み事をされる時って基本的に"俺にしかできない"内容が多いからだ。怪しまれないよう、魔法や道具を一切使わずに毒ガスの発生源を調べてこいとか。


もう聞こえないふりして部屋を出ればよかったのかもしれない。


眼帯の青年は不機嫌を隠しもしない俺にニッコリとした笑顔を向けた。


「もう一つ同時並行で任務をやってほしいんだよね」

「いやだよふざけんな」

「いや、こっちはそんなに大変じゃないから!」


やっぱりなちくしょう!


「お前と寮が同室であるニホンノ・オタクを監視してほしいんじゃ」

「はぁ?」

「彼さ、実は生い立ちがよく分かってないんだよね。森で迷っていたところを保護されたんだけど、それ以前のことをよく覚えていないらしくてね」

「ただの記憶喪失なんじゃねえの?」

「それにしては教養があるし、ほら、彼ってたまによく分からない単語を言うらしいじゃん?」

「...」

「そんな報告が上がっているからさ。一応、監視しといてほしいんだよ」

「あんな人畜無害な人間の何を見ろってんだよ...」


確かに難しい任務でもなんでもないけど、せっかく仲良くなれた人をわざわざ疑わないといけないのは心にくるものがあるわ。

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