12話 抗議しに行く
「今日は騎士団本部に殴り込みに行こうと思います」
「急にどうしたの?怖いよ…」
朝の7時頃。俺が騎士団本部のある王都へ行くための準備をしていると、その音のせいでニホが目を覚ましてしまった。無理やり起こされた上に謎の宣言をされたニホは呆気にとられている。
「あれだ、俺をこの部屋に投げ捨てた野郎どもをぶちのめしに行くんだよ」
「なんでそんな物騒なの?」
「色々あったんだよ。とりあえず王都行きの馬車捕まえに行かないと」
徒歩だと丸1日は時間がかかるため学園の近くを通る馬車に乗せてもらうことにした。幸いにも銀貨は沢山あるし、相手も嫌な顔はしないだろう。
「お、王都に行くんですか?」
「おうよ」
「僕も王都に行きたいんですけど、料金はどれくらいかかりますか?」
「興味あるのか?一緒に行くなら俺が奢るよ」
「いやいやいや...」
「今週お世話になりっぱなしだから気にすんな。騎士団本部には入れられないけど」
「あ、ありがとうございます!!」
ニホは急に飛び起きて外出の準備をし始めた。そうだよな。田舎に住んでいると王都に夢を持つよな。俺も昔はそうだったからよく分かる。
「一泊するつもりだから、着替えとかも用意してくれ」
「は、はい!」
***
無駄に大きく作られた門をくぐると、観光地としても扱われているぐらい有名な大通りが目の前に広がる。道の両側を占領している露店がより一層この町を明るくしているようだった。
「わあすごい!ゲームの中にいるみたい!」
「そうか。ごめん何言ってるかわからん」
「あ!あれって騎士団の方ですか!?」
ニホがキラキラとした表情で指を刺した方向には、確かに見回りをしている騎士団の人間がいた。楽しそうに会話しながら歩いているが佩用している剣の鞘に手を掛けており、何かあればすぐに剣を抜けるようにしている。
「そうそう。あれは第三騎士団所属の人だな。主に警備とか治安維持関連の任務を押し付けられている集団だ」
「騎士団によって専門分野があるんですか?」
「まあね。第二騎士団は事務処理と来賓の護衛。第一騎士団はその他って感じ」
「へ~!」
見つからないようにそそくさとその場を後にする。学園内では”学歴のために第一騎士団をやめた人”として扱われているらしいが、騎士団内部ではどういったポジションなのかが分かってない。もしかしたらエンカウントした瞬間に煽られるかもしれない。
そうは思いつつも物珍しい露店を見つけて立ち止まってしまった。
「??なんじゃこりゃ」
「ひょっとこの仮面ですね!ここで実物を見る羽目になるとは思いませんでした!」
「ひょっとこ?」
人を煽るような顔面をしている仮面だ。誰がいつ使うんだと思ったのも束の間、いいことを思いついた。
「すんません!これ一つください!」
「あいよ」
早速購入して被ってみた。視界が狭まって見えづらいが、人混みの中でも問題なく歩けるレベルではある。
「どうだこれ、似合ってるか?」
「…逆に聞きたいんですけど、この場合はなんて返事するのが正解なんですか?」
ニホの言葉が心に刺さったので大人しく仮面は外した。
その後も屋台を見回りながら歩いていると、ようやく騎士団の本部へと到着した。俺の用事が終わるまでニホは王都を観光したいらしいので、何時に集合するか決めていたその時。
「よ!シンデレラ!」
同じ第一騎士団に所属している2人組に見つかってしまった。片方はやかましい上にガサツな野郎で、もう片方は比較的物静かで引くほど几帳面な男だ。俗にいう凸凹コンビであるこの二人組は、第一騎士団内部で身内ネタを速報でばら撒きまくっているため一部に絶大な信用を寄せられている。つまりは敵に回すと面倒な奴らだ。
立場が微妙な今はあまり関わりたくない。
「シンデレラ呼びやめろっての」
「このちんちくりんってお前の客人かぁ?」
「友達だよ。寮が同室で王都に興味あるらしいってんで連れて来たんだよ」
「ど、どうも」
「学園生活は順調か?シンクルドが過ごしてきた環境とはかなり違うと思うが」
「全然やべーよ」
なんてったって反乱軍に無理やり入団させられたからな!今だって監視されてる可能性高いし!
「とりあえず!俺は今から団長に会いにいくから!」
「あ、了解。じゃあコイツと喋ってていいかぁ?」
「へ!?」
「あんまり失礼なことすんなよ」
幾ら第三騎士団が見回りをしているとはいえ、王都を歩くならこの二人と一緒に行動した方が安全だろう。俺にとってはこの二人が危険そのものだけども、流石に初対面のニホに対してこいつらが何かするとは思えないし。
「ま、まって!シンクルドさん!」
「大丈夫だって。そこの赤髪は他人の飯代を払うことが趣味なだけのゴシップ好きな異常者だから」
「おい!!!!その説明の仕方やめろよ!俺がバケモンみたいじゃねーか!」
「シンクルドの言う通りだ。コイツは今日臨時収入を受け取ったから調子に乗って誰かに食事を奢りたいだけなんだ」
「は、はあ...」
訝しむニホを尻目に、俺は団長室を荒らしに向おうと歩みを進めると、
「そうだ忘れてた!おいシンデレラ!」
二人組のうるさい方に引き留められた。
「俺の地元のお菓子やるから持ってけよ!」
「いらねえよ」
「おらよ」
「...」
「じゃ!任務頑張れよ!」
「早く俺の呼び名を変えてくれや」
「え〜!別にシンデレラでいいだろうが!」
「よくねえよ馬鹿野郎」
軽く手を振り返してさっさとこの場を後にした。
*****
「王都で一番おいしいレストランを紹介したい!」と言われ、その店へ向かっている道中。どうしても聞きたいことがあったので恐る恐る話しかけた。
「あの、ちょっと質問していいですか?」
「ん?なんだよ」
「なんでシンクルドさんのことを"シンデレラ"と呼んでいるんですか?」
二人は顔を見合わせて、気まずそうな顔をした。
「それはアイツの生い立ちの関係でそう呼んでんだけど…勝手に言っていいもんなんかな、これ」
「やめておけ。悪いが、事情は本人の口から聞いて欲しい」
「わ、分かりました」
「少なくとも侮辱の意味は込められてねーし、ただの身内ネタだから!」
「…そうなんですね」
赤髪の人は本当に悪意がなさそうに言っているので少しほっとした。それでも人が嫌がっている呼び方で呼び続けるのはよくないと思うけど。
そんなことを考えていると青髪の人が突然、思い出したかのように呟いた。
「ああ、そういえば自己紹介がまだだったな」
「確かに!!お前から言ってくれ!」
「俺はニック・フォン・ブルーコフ。第一騎士団のバッファー兼アタッカーだ。よろしく」
青髪で真面目そうな印象とは裏腹に、インダストリアルピアスをしている。実はやんちゃなタイプなのだろうか。
「俺はグラント・ツー・ガーネット!俺はデバッファー兼アタッカーだ!よろしくな!!!」
ニックさんとは対照的に赤髪で陽気な印象のグラントさんは、両耳に黒色のピアスをしている。学園内でもピアスを開けている人は結構いたので、この世界でも特段珍しいファッションじゃないのかもしれない。
「君は?」
「僕は...ニホです。よろしくお願いします」
ここでニホンノ・オタクだと名乗る勇気はありませんでした。はい。