9話 魔法技能講義
「これより、魔法技能講義を行う」
この講義は名前の通り、魔法を扱う技能を向上させるための授業だ。しかも無詠唱且つ魔法陣を使用せずに魔法を乱発できるようになることで有名である。
騎士団内でも新卒がよく話題として出していた。
「ここにいる生徒の中には実力を鍛え、近衛兵や騎士団への入団を希望している者もいるだろう。そこで、だ。今日はお前らの実力を知る為に、能力測定を行う」
教授は俺を一瞥したものの、特に何も言わずに話を続ける。
「名前を呼ばれたやつから前に出てこい。とりあえず自分が1番得意な魔法を使ってみろ。形式に制限は無いものとする」
ぶっちゃけ俺が使える魔法は実戦用のものばかりだ。武器や魔法陣は随時用意しているので見せることはできるけど…反乱軍の連中に監視されている今、手の内の1つをバラしたくない。
だからって魔法が使えないと言えば成績に関わってきそうで怖い。
「シンクルド」
「……はい」
「確か元第一騎士団なんだったか?」
「うっす」
「期待してるぞ」
「勘弁してください」
元第一騎士団という単語に周りがザワつく。それ言われるとそれなりのレベルの魔法を使わないとメンツが立たなくなるからやめて!?
「せっかくの機会だ。騎士団が使う攻撃魔法を見せてくれないか?」
「俺はタンカー専門なんで、攻撃魔法は使えません」
「ならどんな魔法を使うんだ」
「ヘイト系と…回避系」
「なら俺にヘイト系の魔法をかけてみろ」
「……見た感じだと、教授ってヘイト耐性ありますよね?」
「もちろんだ」
何を使おうか考えていると、1人の女性がクスクスと笑い始めた。
「本当は何も出来ないのではなくて?」
黒髪ロングの女性が見下してきた。生真面目に制服を着ている割には態度が悪いなコイツ。
「早くして下さる?出来ないのなら、出来ないと言えばいいのよ」
やかましいわ。コチラにも事情があるんだよ。色々悩んだ結果、使える条件が限定されているものを披露することにした。
「精神魔法は使用してもいいですか?」
「許可しよう。もちろん、合法のものだけだが」
教授からの許可を貰えたので、遠慮なく懐から武器を取り出して構えた。
「……なんだそれは」
「鎖鎌です」
「????」
「じゃあやりますね」
「あ、ああ。やって見せてくれ」
繰り返しになるが、俺の騎士団内でのポジションはタンカーだ。他の団員に攻撃が向かないようにする役職である。
しかし敵だって馬鹿じゃない。連隊戦の場合は特に、俺のような攻撃力がゼロに等しい装甲の擬人化をわざわざ相手にしない。周り込んで他の人を攻撃したり、遠距離範囲攻撃でまとめて吹き飛ばそうとしてくることの方が多い。
だから攻撃を俺だけに向けさせる工夫が必要だ。そして単体で火力を出せない俺が攻撃するなら、外的要因を利用して戦うしかない。
騎士団長と一緒に対策を考えた結果、編み出された戦い方の1つがこれだ。
「LOOK ME」
ヘイトを集める魔法を発動する。教授は余裕の表情を崩さない。これは敵の視線を反らしづらくする程度の効果しかないからだ。
「LOOK ME」
予想以上に教授が持つヘイト耐性が強かったのでヘイト魔法を重複させつつ、相手に微量の魔力を当て続けて精神を逆撫でする。
これをされた相手は言い表せないような不快感を覚え始め、だんだんと精神が削れていく。
そしてその感覚によって俺が強敵であるかのように誤認してしまい、攻撃がこちらに向くようにする。
実際の戦いの場だとこれだけでも集中砲火を食らう羽目になる。が、目の前の教授は微動だにしない。
「LOOK ME」
こういう相手の場合には精神魔法を使う。
「REMINDS NIGHTMARE」
「……ひっ!!!!」
トラウマを引き出し、その当時の加害者を俺と被せた。
当時の記憶をフラッシュバックさせることで現実との境界線を曖昧にし、相手の理性を崩す。
「◈◈◈#△■◆*▽←**#**▽◆△№#!!!!」
騎士団でもそうお目にかかれない、高火力の風魔法を飛ばしてきた。直撃しても無傷でいられる自信はあるが、服がボロボロになるのは避けたい。
「よっと!」
投げ鎌に回避魔法を発動させて弾き、教卓に当てた。木製の教卓は粉々になった。
しかしこの回避魔法は全てを弾くことはできないため半分ぐらいは食らってしまった。念のために全身を確認する。うん。まあこのレベルの破れ具合なら気にする必要ないな。
「こんな感じで、敵の攻撃を別の敵に当てて戦ってます」
「な、な……!」
と言っても物理攻撃とか拘束系の道具使われるとこの回避魔法では反らせないので詰む。しかも全ての攻撃を反射できるわけではないため、結局はくらってしまう。
結果的に他の人がこの回避魔法を使うのを見たことがないし、俺ですらこれを使う場面は前衛が全滅して撤退戦にまで持ち込まれてる時ぐらいである。めっちゃ練習したのに。
「ムッキ〜〜〜!悔しいですわ!精神魔法を披露するなんて卑怯よ!戦場へ行ったことがない人は使う機会がないから不利ですわ!」
また黒髪ロングが騒ぎ出した。その周囲にいる女性達はなんとか宥めようとしてくれているが、あんまりな言い草に流石にイラついてしまった。
「さっきからうるせえな!なんだてめえ!」
「な、なんですって!?この大和家の長女である私を知らないと仰るの!?」
「知らねえよ!!」
「なんて失礼な男なの!今すぐその態度を改めなさい!」
「は!?先に突っかかってきといて何言ってんだ!」
「どこまでもムカつく男ね!大和家に代々伝わる礼法を叩き込んで差し上げましょうか!?」
「やってみろよ。貴族の礼法ごときで本場騎士団員の柄の悪さを正せると思うなよ?世間様が騎士団に抱いてる幻想打ち砕いてやる!!」
講義中にも関わらずヒートアップしていく2人の会話に、精神攻撃から回復した教授は慌てて制しに入る。
「静粛に!シンクルドは早く席に着け」
「うっす」
「ごめんあそばせ」
結局この講義は生徒の能力測定だけで終わってしまった。




