推しのお兄さん
鏡に映っていたのは自分ではなくて、私が死ぬほど愛した推しだった。
あれ?
でも挿絵で描かれた姿より身体が華奢で幼いかも、、、。
ほっぺたを触ると瑞々しくて柔らかい、なにこれ赤ちゃんのほっぺかな?めちゃくちゃ触り心地いい!気持ちいい!!
すりすりすりすりすりすり、、、、エンドレス!
手が止まらない〜!!
幼いヴィクターが可愛すぎる!!
だがしかしですよ?鏡の中の推し、推しの中の私。
どう考えても性質が違いすぎる!!
ヴィクターはカーメルファーストで、自分がどんなに傷ついてもカーメルを守っていた。
じゃあ、私はというと勿論ヴィクターファースト!推しさえ幸せなら小説の主人公、ヒロインがどうなろうと構いやしない。
これから、どうやってヴィクターを死なせずに幸せにしてあげれるか、それだけが私がこの世界にやってきた意義なのだ。何がなんでもヴィクターを守りたい!
そう新たに決意を固めていると、ドアをノックする音が聞こえた。(誰かな?さっき隣にいてくれた人、もしかして、、、。)
「はぁい!どうぞ」
推しのご家族に会えるかも?ワクワクしながら返事を返す。
ガチャリ。開いたドアから赤髪碧色の瞳が目に飛び込んで来た。
「大丈夫か?アーロンがお前がおかしくなったって騒いでいるぞ!」
おお!
やっぱり!あなたは推しの長兄、オスカー様ではないですか???
「オスカー兄様?」
「なんだ、全然普通じゃないか。まったくアーロンの奴驚かせやがって!」
やっぱりオスカーだった!!
ヴィクターの家族はみんな赤髪でエメラルドグリーンの瞳だから血族の見分けがつきやすくて助かる。
オスカーは確か、王室の騎士団の副団長。
でも今はまだ少し若いから見習いくらいかな?
肩幅が広く綺麗に筋肉がついている。原作時間軸のヴィクターに一番近い年齢なのかも。
オスカーはニッコリ笑うと、わしゃわしゃと頭を撫でくり回した。
「馬から落ちたんだって?もうベッドから出ても大丈夫なのか?」
どうやら、ヴィクター(私)は馬から落ちて気絶していたらしい。言われてみたら後頭部に大きなタンコブができている。こう言うのって気がつかなければ痛くないのに知ってしまうとすごく痛い、、、。
「ううっ、兄様頭が痛いです」
オスカーを見上げて訴えると、頭を撫でていた手を急いで引っ込めた。
「ごめん、ごめん、ついお前が可愛くて頭撫でくり回してしまった。ほら、俺がベッドまで運んでやるからもう少し寝てなさい」
両手をこちらに向けて「おいで」とジャスチャーされると、その胸の中に吸い込まれるように抱きついた。
そのままオスカーに持ち上げられ、ベッドまで優しく抱っこしてもらった。
うう、推しの家族も箱推しだよぉぉぉ!
オスカー兄様の筋肉質の胸板が居心地良すぎ。
「だけど、どうして馬から落ちたんだ?お前ほど馬に好かれてる奴はいないだろ?」
ベッドに降ろされると顔を覗き込まれた。
そうだ、、、。
どうして落馬したんだろ?
ヴィクターは小さな頃から厩の世話を手伝っていて、いつも馬と一緒にいたから自分の愛馬には勿論、他の馬たちにも好かれていたはずだ。
痛む頭をフル回転させて私が推しになる前の記憶が脳内に残っているか検索する。
荒い画像から焦点がだんだん合うように、一つの映像が思い出された。
目の前に金髪の美しい少年が笑顔で立っている。その手に握られていたのは、、、真っ赤な花。それだけ見たら美しい絵画かもしれないけれど、勢いついて走っている馬の前に現れたら?
そう、車は急に止まれない、勿論馬なら尚更だ。この世界には飛び出し坊やの立札なんてないから、きっとこの少年も悪気がなかったのだろう。
その瞬間が私の推しを殺したカーメルとの初対面だったのだ。
あぁ、ヴィクターが落馬したのはカーメルのせいだったんだ。これから小説では、カーメルを庇ってヴィクターは左目を失くす。それだけでは飽き足らず命まで、、、このままではまた推しが殺されてしまう。
カーメルと関わっちゃダメだ!!
「馬、、、の前に突然男の子が出てきて。それでカズーが驚いちゃったんだ」
現状を良い方向に修正できたらと、思い出した経緯をオスカーに説明する。
「少年?、、、、そういえば今日アイガー公爵の二番目の公子様がうちに来る予定だったな」
ふむ、、、。と顎に手をかけてオスカー兄さんは首を傾げた。
「とにかく、ゆっくり休んで早く良くなるんだぞ」
「うん、、、。兄様ありがとう」
推しのお兄様は、今度は頭ではなく頬にキスを落として部屋から退場された。
ふぉぉぁ、イケメンにほっぺたチューされた!
そうだ、ヴィクターは家族からめちゃくちゃ可愛がられていたんだった。それなのに、、、。
小説の時系列と人物相関図を忘れる前に書き出そう!
せっかく兄様にベッドまで運んでもらったけど、もう一度起き出して机の中からインクとペン、紙を探しだした。