暗い森の中
◉この小説には韓国語のセリフが出てきます。登場人物達の臨場感のある場面を想像してもらいたくて敢えて表記するようにしました。日本語訳を添えておりますので、読みにくいかとは思いますが、予めご了承くださいますと幸いです。
寒々しく暗闇が広がるとある山の中で、乾いた枝葉を踏むような足音が鳴り響いた。
悪夢の狭間を彷徨っていたサクマは不意にその音に気づき、身をひるがえす。
よく耳を澄ませると再び足音が聞こえ、その方向に目をやると、部屋の窓の外に一人の若い女性が森の奥へと歩いていくのが見えた。
「그건…」
(あれは…)
寒空の下、薄着でゆっくりと歩く女性を不審に思いながら、サクマは目でその後ろを追った。
すっかり暗闇に慣れたせいで、漆黒の景色でも目がよく効いている。
普段なら見かけても特に気に留めることはなかったが、その女性の姿を見た瞬間、妙な胸騒ぎが走った。
夢に出た女の人に、どこか似ている気がする。
もしかして、いや…そんなまさか。
ごく僅かな期待から衝動に突き動かされ、サクマは廃屋を飛び出し、足早に女性の元へと駆け寄った。
誰もいないはずの森の中で、彼女の足音に重なるように、サクマの足音が響き始める。
自分以外の足音に気づいた彼女は
思わず後ろを振り返り、
「……!」
その瞬間、サクマと目が合った。
驚きのあまり腰を抜かして、彼女はその場に倒れ込んでしまい、まるで化け物を見たかのような面持ちで、サクマからジリジリと退いていく。
結局、思い描いていた人とは全くの別人であったが、この寒いなかスウェット姿で尻もちをつく相手に、サクマは嫌気がさして溜息をこぼした。
「하… 또 이거냐… 」
(はぁ…またかよ)
彼女は聞き慣れない言語を発したサクマに驚き、声にならない声を出そうとする。
「あ…ぁ…うぅ…」
口を開いて何か言いたげな様子だが、一向に喋る気配がない。
そんな彼女に、サクマは日本語で声をかけた。
「あなたも、死にに来たんですか。」
まるで弾丸のように冷たいその言葉を聞き、彼女はみるみると青ざめていく。
そして小刻みに震えながら、ゆっくりと首を横に振った。
「…そうですか。」
サクマは興味が無さそうに背中を向けて歩き出すが、数歩だけ進んで再び立ち止まり、振り返って再び彼女へ問いかける。
「みんな、死ぬために夜中この山に来ます。
本当に、あなたは違いますか?」
「う…、」
彼女は声を詰まらせながら、何度も首を横に振った。
月明かりで、今にも涙が零れ落ちそうなのが見える。
「………。」
そんな彼女に背中を向け、サクマは黙って歩き出した。
すると、後ろからぐんっと腕を引かれ
反射で後ろを振り返ってしまう。
“あなたは?“
目の前には、急いで書かれたような文字。
彼女が震える手で小さな手帳を持ちながら、不安げな顔でじっとサクマを見つめている。
「…僕は、もうずっとここに居ます。」
無表情な彼の口からそれを聞いた女性は、悲しげな小さい息を漏らして、手帳を見せていた手を力なく下ろした。
サクマは再び歩き出す。
徐々に彼の後ろ姿が遠のいていくのを眺めながら、彼女はしばらく立ちすくんだあと、その場所には誰も居なくなり、冷たい風だけが木々をすり抜けていった。
そしてまた、その森は朝を迎える。
◉この物語に登場する人物、組織団体、その他地域施設などは全てフィクションで架空のものです。
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