其の九
私たちが港を襲った魔将イマミアーー人間の顔っぽいものが張り付いたおっきな烏賊ーーと海上で戦っていたとき、見慣れない形状の丸木舟が近づいてきた。
その船に乗っていた人物は、長いてらてらと光る奇妙な衣服を着て、首元まで紐の釦で止めていて、いいえ、そんなことよりももっと特異なことがあったわね。
彼の頭はまるで龍のそれだったのよ。
「魔族は吾が一族の仇敵。 助太刀しよう」
その龍頭の人物は私たちにそう呼びかけた。
「おい。 あいつはなんだ」
あの人は私を振り返った。
「おそらくは……伝承にある龍人ズメウ。 遠い昔に魔物と人類との間であった戦争で、人類種に与したとされる異形の種族ね。 私も初めて見た」
「そうか」
あの人はイマミアの触手を斧で振り払うと、龍人に話しかけた。
「おい。 声をかけてきたからには勝算があるのだろう」
「イマミアに攻撃が通らなくて難儀しているのではないか。 隙を作ってくれれば吾輩の発勁で仕留めてしんぜよう」
しかし、そのやり取りを見て団員達は口々に言ったわ。
「勇者さま、あれはどう見ても魔物ではねぇですか」
「魔物と手ぇ組むのは流石に」
それを止めたのは魔道士ザハロフだった。
「今までも色々あったが、勇者殿の言うとおりにして勝てなかったことが一度でもあったか。 お主ら、ここは辛抱せい。 のう、娘っ子もそう思うじゃろ」
ザハロフは私に水を向けた。
「……私は勇者の判断を信じるわ」
「決まりじゃな」
私たちは更に執拗に、イマミアへ神臂弓や攻撃魔法を浴びせた。
イマミアは海面に顔を出した。
「物理にしろ、魔法にしろ、お前らの攻撃は通らん。 せいぜい痒い程度だ。 だが、海月に刺されたり海老の子に噛まれるのも腹が立つものだからな」
怒気を露わにした魔将イマミアは船を粉々にする勢いで十本の触手を振り回した。
その隙に龍人は海上に姿を現したイマミアの頭部に飛び乗った。
彼が敵の脳天に向かって手をつきその掌が光らせると、イマミアは血の混じった墨を吐いて沈んでいったわ。
そう、彼が勇者一行の最後の仲間。
龍人の武闘家ユラン。
あの人、勇者は冷酷ではあったけど、人や物を見る目に一切の偏りがなかった。
そこは美点だったと思うわ。