其の八
モラクスを倒した後、私たちは勇者の命令で人質の死体を処分したわ。
彼女達の夫は皆殺されていたけれど、他の町に親類縁者がいないとも限らない。
矢の刺さった死体を見たら、遺族は私たちに敵意を向けるでしょうからね。
魔道士ザハロフはため息をついたわ。
「覚えたての範囲魔法をこんなことに使うことになろうとはのう。 輝く浄らかなる火よ。 大地を焼き清めよ、スヴァローグ」
青い炎があわれな犠牲者達の死体を焼いた。
魔物たち、魔王軍との戦いはいつもこんな調子だった。
敵の残虐さ、冷酷さを勇者カトーが上回っていく。
そんな殺伐とした戦いよ。
人間に化ける魔物がある街に侵入して猛威を振るったことがあったわ。
その街には強力な結界が張ってあったけど、侵入されてしまった。
魔物は攻撃の一瞬だけ正体を表し、夜闇に紛れて住民を殺害しながら、潜伏していた。
私たち騎士団は夜の見廻りを続けて、遂に殺害現場に出くわした。
「顔を見たか?」
「いえ、暗くて……」
私たちは団員とともにそいつを追った。
影はある地下の酒場で消えた。
酒場の客に聞くと、誰も入ってきた客を見ていないという。
私は言った。
「どうしよう、カトー。 誰が魔物かわからないわ」
あの人は、勇者カトーは客が食事に使っていたナイフをひったくると、その客の手のひらにいきなり突き刺したわ。
「全員を痛めつければわかることだ」
カウンターに座っていた男がゆらりと立ち上がった。
「ハハハ。 おたくの血、何色だよ」
男の頭がパックリと割れて、中からミミズのような触手と牙、そしてその中心に大きな一つ目が現れた。
その時、そいつが結界を破れたのは魔法で腐敗を防いだ人間の死体を着込んでいたからだとわかったわ。
「さあな。 あんたは紫色とかかい?」
一つ目は瞬きをしたわ。
「時間かけてコソコソ人間を殺していくつもりだったのだがなぁ。 魔将スルガトだ。 参る」
私やザハロフは店の中の人をなるべく巻き込まないように、と思ったけれど、戦いの中心であるカトーとスルガトはそうではなかった。
私たちがスルガトを討ち取ったとき、店内の人はほとんど挽肉みたいになって死んでいたわ。
なんでもありの戦いってね。
どうかしている方が勝つのよ。