其の七
私たち騎士団は各地の魔物の巣を滅ぼしていった。
スライムやアルミラージを踏み潰し、ゴブリンやコボルトを殺戮し、ローパーの森を焼き尽くした。
王都周辺の魔物はもはや絶滅したんじゃないか、というくらいに狩って狩って狩りまくったわね。
一仕事終えると、勇者は肉を汚く食べて、魔道士は酒を飲んでいた。
騎士団の、そして私たち幹部三人の水準は上がっていった。
団員たちも通常の弩より大型の神臂弓という弩を扱えるようになって、それが正式配備された。
ある意味で単調な日々は、魔物側の反撃によって終わった。
魔王軍を名乗る組織的な魔物の集団による襲撃ね。
国境沿いの村が襲われ、男性が皆殺され、女性が連れ去られる事件が起きた。
程なくして、敵は私たちの駐屯している村を襲ってきた。
さらわれた女性たちとともに。
彼女たちは泣きながら助けを求めていた。
彼らはオーク達の構える木の盾に縛られていたのよ。
そう、あなたはオークも知らないのね。
オークっていうのはゴブリンに似ているけど、ゴブリンと反対に鼻が低くてもっと体格のいい魔物よ。
ゴブリンよりずっと手強い連中だったわ。
そいつらを指揮していた魔将モラクスとか名乗る魔物、あれはミノタウロスとでもいう種族だったのかしらね。
毛のもさもさ生えた野牛の頭をした獣人で、巨大な槌を持っていたわ。
魔将モラクスは高笑いしたわ。
「人間の武器で恐れるべきものは、滅魔騎士団の神臂弓のみ。さて、人間というのは、こうすると弓矢を使えないと魔王さまはおっしゃっていたぞ。どうする勇者とやら」
勇者カトーは騎士団のみんなを振り返ると、平然と言ったわ。
「人質ごと撃て。 いま装備している弩なら、貫通する」
団員たちはざわめいた。
あのお調子じじいの魔道士ザハロフも咎めたわ。
「おい、カトー。 無辜の民、ましてや女を殺せと言うのか」
「いまこいつらを始末しないと味を占めるぞ。 人質は通じないと知らせる。 ……貸せ」
あの人は近くにいた団員の神臂弓を奪うと、躊躇なく矢を放った。
人質の女性の一人が悲鳴を上げた。
女性の胸を貫通した矢は、彼女を縛った盾をも貫いて、オークに深々と刺さっていた。
「やれッ」
団員たちはワァッと叫びながら引き金をひいたわ。
オーク達の前列は崩れ落ちたわ。
人質とともに。
モラクスは当てが外れて狼狽していたけど、方針を変えて部下達を率いて突撃してきた。
騎士団はみな長槍を構えた。
私たちの陣を突破できたのは魔将モラクスただ一人だけだった。
勇者カトー、魔道士ザハロフはそれぞれ斬撃と攻撃魔法とでモラクスの相手をし、二人が手傷を負ったら即座に私が回復した。
それは相手の体力を削りつつ、時間を稼ぐ戦いだった。
あの人は騎士団がオーク達の始末を終えるのを見計らうと、モラクスとあっさり距離を取った。
「ま、待て、勇者。勝負はまだ」
「人質を取るようなやつが、武人ヅラするな」
反転した騎士団から、神臂弓が放たれた。
モラクスは剣山のようになって絶命したわ。
あの人の冷酷さは、強力で恐ろしい魔物の将軍を道化に変えてしまった。