其の六
国王陛下は衛兵を長期的に連れていかれることを渋りはじめたわ。
倒しに行け行け言うくせに、呆れちゃうわね。
それで、百姓の中から募兵することになったのよ。
そうよ、滅魔騎士団なんて言っていたけど、騎士階級のひとなんて一人もいなかったわ。
最近のひとはそういうのも習わないのね。
あ、あなたを責めているわけではないわ。
気に障ったならごめんなさいね。
あの人、勇者カトーは、弩と槍だけを集まった人達にひたすら練成させた。
「特別な技量やセンスが必要ないものがいい」
というのは、彼がよく言っていたことよ。
百姓たちの腕はだんだん上達していった。
でも、彼らには決定的な問題があった。
戦うこと、相手を殺めることに対する忌避感ね。
信仰のせいもあるし、今までそんなことを意識した生活をしてこなかった、というのもある。
よく言うでしょ、祈る人、戦う人、耕す人って。
耕す人が武器を持っても、いきなり戦う人にはなれないのよ。
それは祈る人、いや祈るエルフである私も同様ではあったけれど。
あの人は、それを丹念に解決していった。
彼は農民たちに捕まえたネズミを溺死させるところから始めた。
次に作物を荒らすイノシシを殺させる。
そして、最後は死刑囚よ。
ええ、わざわざ絞首刑になるはずの死刑囚を何人か連れてきて、弩の的にさせたのよ。
勘弁してくだせぇ勇者様。
そう言って、弩を投げ捨てて逃げ出す団員もいたわ。
私は投げ捨てられた弩を拾って、わなわなと震えていた。
あの人は、私を見ていった。
「回復の術は惜しいが、お前ともここでお別れだ」
でも、私は言ったの。
「私にも出来る! 出来ます」
私は震える手で弩に矢を番えると、柱に縛られた死刑囚に狙いを定めた。
どれだけの時間引き金を引ききれずにいたのかわからない。
自発的に引いたのか、握力の限界が来て結果的に引き金を引いてしまったのか。
私の弩から放たれた矢は、死刑囚の胸に刺さった。
既に何本かの矢が刺さっていたから、衝撃でそうなったのでしょうけど、死刑囚は口からだらりと血の混じったよだれを垂らしたわ。
今でも鮮明に思い出せる。
あの血の筋と、あの人の瞬きしない目を。