其の十一
そいつは魔王の居城の前に待ち構えていた。
人間の女性によく似た顔をしていた。
その顔は三つあったけど。
彼女、彼女でいいのかしら、は言った。
「わたくし魔将エネプシゴスは、けっして貴卿らをこの先には通さない」
彼女の六つの目が発光すると、私はまったく違う景色の中にいた。
私たちは王都に凱旋していて、勇者一行を讃える歌が街中に響いていた。
盛大な祝賀会が催され、伝国の財宝が下賜された。
私たちは尊厳公や都督諸軍事といった官位を送られた。
ようやくお祭り騒ぎの熱が冷め、二人きりになったとき、勇者カトーが私を見てわずかに微笑んだ。
「お前がいなければここまで来れなかった。 ……なあ、お前さえよければ、どこかで一緒に暮らさないか」
出来の悪い幻覚だ、私は急に冷めてしまった。
私の正気が戻った時、既に魔将エネプシゴスに勇者が斬りかかっていた。
だけど、エネプシゴスは魔法で防壁を張っているのか、弾き返されていたわ。
未だ魔道士ザハロフは幻影の中で亡くなった妻をかき抱いているようだったし、武闘家ユランは故郷の許嫁の幻に誓いの言葉を捧げていた。
他の団員も甘い夢の中を彷徨っていた。
「天上の光よ、多くを引き裂く力をこの者に与えよ、ヴァジュラ」
私が補助魔法を唱えて勇者の膂力を強めると、ついにエネプシゴスの防壁が打ち砕かれた。
エネプシゴスを討ち果たすと、味方はみな正気に戻ったわ。
ねえ、あなたはどんな夢を見たの
それを勇者に聞くことが、私には出来なかった。
どうしても出来なかったわ。




