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其の十

 私たちは魔王が占領しているという北方のヤタジャマド地方へと向かい、ジャリド山脈を越えようとした。

私たちを苦しめたのは、トロールやサイクロプスといった大型の魔物だけではなかった。


「もうすぐ食糧が尽きる。吾輩は体内に気を練る故、あと一週間は大丈夫であるが……」


「ユラン、その能力、地味にすごいやつでは」


武闘家ユランに感心した私だったけど、勇者をはじめ私たちは皆空腹に苦しんでいた。

その頃には騎士団の人員は全盛期の半分、三十人にまで減っていたわね。

充分な食糧を持って行ったつもりだったけど、あのジャリド山脈を越えた人の記録は当時なかったから、見積が甘かったのね。

次第に動きも緩慢になっていった私達に、突如バーサーカーが襲いかかってきた。

バーサーカーも知らない?

獣皮のマントを被って斧で武装した人間、みたいな魔物よ。

それは人間じゃないのかって?

顔も肌も青かったから多分魔物だと思う。

きっとそうよ。

ユランが飛びかかってきた一匹の頭を掴んで得意の発勁を使うと、そいつの耳と目から血が吹き出して崩れた。

勇者カトーも相手の斧を弾いて首を叩き切った。

ザハロフは岩の杭を現出させて敵を貫いていた。

私は不意の襲撃で腕を失った団員に回復魔法をかけて、腕を再生させていたわ。

また何人かは死んでしまったけどね。

ともかく全力を尽くした。

私達は勝利したわ。

でも、勝ったところで、食糧もないし、戦いによって疲労の度は限界を迎えていた。


あの人は、勇者カトーは、バーサーカーの死体を指差して言った。


「新鮮な肉が出来たぞ」


ザハロフが意義を唱えたわ。


「待て、勇者よ。 これは人ではないのか」


「そこは大した問題ではない。 いま最も大きな問題は、食わないとみんな死ぬ、ということだ」


あの人はそう言うと自分で岩陰に火を起こして、裸にむいたバーサーカーの死骸を丸焼きにし始めた。

肉の焼ける匂いがあたりに立ち込めた。


「お、俺の胃は耐えますぜ、勇者様」


何人かの団員がそんなことを言って、バーサーカーの手や足を齧り始めた。

最後にはユラン以外の全員がその死体を貪り食ったわ。

もちろん、私も。

仕方なく、ね。


それは本当に人間ではなかったのか、ですって?

今更ね、そんなことを言ってもしょうがないとは思わない?

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