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少女マナミは歩き続ける  作者: 佐和森飛鳥
2章 港町怪盗騒動
32/37

17話 調査事項

毎週更新予定でしたが、執筆ペースが戻らないので、

しばらくは隔週日曜夜~深夜投稿に変更します。

「はーい、聞いてもいい?」


 いつも通りに戻ったセレンが、勢いよく手を挙げた。


「ボクたちへ依頼する理由は? 他の影の人とか、あとは王家に雇われているなら、騎士も同じ所属だと思うけど」

「セレンお姉ちゃん、けっこう考えてるんだね……」

「ローザ、ボクを何だと思ってるの!?」

「だって、いっつも殴って解決してたじゃん。って、質問に答えなきゃだよね。」


 ローザは気を取り直すように、両手をパン、と重ね合わせる。


「うん、セレンお姉ちゃんの指摘は正しいよ。想定より大変そうなときは、まず影の増員や、騎士への協力要請をするのが普通だもん。いくら王女殿下の仲間だとしても、今回みたいな状況じゃなければ、手伝いは頼まないよ」

「わたくしの認識も同じね。今回が例外なだけ」

「例外、って?」


 おそるおそる尋ねるマナミに、ローザは苦笑した。


「それが、たぶん影に裏切者がいてね……」

「ふえっ!?」


 思っていたより厄介そうな回答に、マナミは思わず顔を引きつらせる。ヴィルトリエも、頭に手を当てて深くため息をついていた。


「何度聞いても頭が痛いわ。ただでさえ、王家の影が動くような事態になっているのに、その影が裏切っているなんて、面倒にも程があるでしょう」

「……何度?」


 聞きとがめたヌイに、ヴィルトリエがちらと視線を送る。


「ああ、さっきローザが暗号で伝えてくれたのよ。さすがに解読法は教えられないけれど」

「把握。問題ない」


 暗号というと、黒い蝶とか、海賊船とか言っていたものだろうか。あの言葉の中に、裏切り者の情報もあったのだろう。すごいな、とマナミは素直に感心した。


「ってことは、トリエは手伝う内容、分かってるってこと?」

「手伝う内容というより、彼女が調べている内容ね。ローザ、みんなにも伝えてくれる? 現状もあわせて話してくれると助かるわ」

「はい、もちろんです」


 ヴィルトリエの指示にローザが頷き、マナミたちへ右の手のひらを向けた。そしてそのまま、親指を折る。


「調査事項は主に四つ。まず、半年前に行方不明になった船について。これは、少なくとも近隣には沈んでいないこと、類似の事例がいくつかあることぐらいで、原因や行方はまだ分かっていません。他の調査事項との関わりもありそうなので、今は優先度を下げています」


 ローザが、次に人差し指を折る。


「次に、噂の出所について。これについては、船の噂と怪盗の噂でそれぞれ別である可能性が高いです。船の噂は不思議なほど変わらないのに対し、怪盗の噂は真偽不明なものが増えていっているので。でも、後者はたぶん残り二つと関わっているのでいいんですが、前者、船の噂の方は、手がかりが全くないですね。意図も読めません」


 今度は中指が、すっ、と曲げられる。


「次に、伝説の怪盗について。これは正直なところ、優先度は低いのでそこまで調査は進めていません。というより、四つ目との関連がめちゃくちゃ疑われているので、そちらを調べたら出てくるだろうと推測しています」


 薬指を曲げ、ローザが神妙に、マナミたちを見回す。


「そしてその四つ目。一部貴族の横領疑惑について。これが今のところ、あたしの最優先調査事項です」

「……えっ」


 横領。

 その意味をとっさに思い出せず、マナミは目を瞬かせる。


「あの、ローザ? もしかして、この屋敷で働いてるのって」


 問いかけるセレンに、ローザがにっこりと微笑む。


「内側からじゃないと、調べにくいこともあるんだよね」

「わぁ、ボクの妹潜入捜査してた……」

「とはいえ、誰でも出来ることではないわ。メイドとして雇われたこと自体は、ローザの実力でしょうし」


 ヴィルトリエに褒められ、ローザは恐縮です、と軽くお辞儀を返す。


「それで、どうだったのかしら?」

「限りなく黒に近い灰色、といったところですね。疑惑のある貴族の財産の一部が、どこかに消えていることは確かです。ただ、それを貴族たちが隠しているだけなのか、どこかに横流ししたのか、あるいは紛失や盗難を誤魔化しているのかは定かではないです」

「……盗難」

「ああ、なるほど。それで伝説の怪盗につながるのか」

「その通りだよ、セレンお姉ちゃん!」


 ローザが無邪気に笑い、びしっ、と人差し指をセレンに向けた。


「かつての伝説の怪盗は、活動時期やその際の目撃証言から推測すると、ほぼ亡くなっていると見ていいもん。それなのにそんな噂や被害報告が出てくるとしたら、それはその技を継いだ後継者が出てきたか、勘違いか、あるいは誰かの嘘ってところ。で、もし正解が嘘で、わざと虚言を流していたのだとしたら、それは横領の事実を誤魔化すための可能性が高いとあたしは思ってるんだ。あ、ちなみに、国王陛下もそうお考えとのことです」

「同意するわ。わたくしが最初にこの噂を聞いたときも、その考えに辿り着いたもの」

「え、そうだったの?」


 目を丸くするマナミに、ヴィルトリエはゆっくりと微笑んだ。


「噂が本当なら、王家の宝物庫にも侵入できる伝説の怪盗の再来。嘘であるならば、伝説の怪盗にしか盗めなさそうな物を『盗まれた』と言い張りたい誰かがいる。そう考えるのは妥当でしょう? そしてどちらにせよ、王家にとって良くない事態なのだから、この国の未来を守る騎士としては、どうしても確認したかったのよ」

「あー、それでトリエ、あんなに警戒してたんだ。ってことは、なんとかして保管庫の中を見た方がいいね」

「同意。おそらく、空っぽ」

「へ、空っぽ?」


 ヌイの呟きに、マナミは戸惑った声を上げる。


「えっと、それって、護衛の依頼は……」

「わたくしの目を欺くためじゃないかしら。そもそも、秘宝を託されている貴族の当主が、怪盗の噂があるのに遠出なんておかしいでしょう。護衛を頼むほど不安があるなら、なおさら」

「た、確かに」


 ヴィルトリエの言うことはもっともだ。ヴィルトリエがビゴールを信用していなかったのも、こういう引っかかりがあったからなのだろう。


「もちろん、空でない可能性はあるわ。けれど、怪盗役をわざと捕らえさせ、わたくしたちが去った後に売り払う、なんて場合も考えられるから、秘宝があるというだけで疑惑を払拭することはできないわね」

「あはは、ちょっと頭がくらくらしてきた」


 セレンが笑って、干し肉をかじり出す。それにつられてか、ヌイも師匠が作ったという保存食を取り出していた。というか何回見ても、あの黒い角柱は食べ物に見えない。


「ところでローザ、影に裏切者がいるということだけれど、その根拠はあるのかしら?」

「はい。いくつかありますが、分かりやすいのは、ビゴール・ドマシック氏が、王女殿下一行に会いに行ったことでしょうか」

「ああ、そういえばそうね」


 納得したヴィルトリエに、ヌイが首を傾げる。


「変装してない。影の情報、必要?」

「それはまあ、さすがに速すぎるから」


 ローザが呆れたように肩をすくめた。


「だって、あんなに地下水路を駆使してたら、王女殿下の噂より、本人が来る方が速いに決まってるもん。もちろん西部は水路網があるから他の地方よりは伝わるのが速いし、領主達が安心させるため、こぞって魔物退治の噂は流しているだろうけど、それでも正確な現在地は分からないよ。それこそ、あたしたち影ぐらいにしか、ね」


 ローザの答えに、ヌイは得心がいったように頷く。


「……影、特殊な魔法ある?」

「それは秘密! いくら王女殿下のお仲間でも話せません!」

「ヌイ、貴方よくわたくしの前で聞けたわね?」

「つい。勢い」


 ヌイが悪びれもせず保存食を食べ始めたので、ヴィルトリエもそれ以上追及せず、話を戻した。


「ローザ、他には?」

「他は細かいので、先に推測を。おそらく、年始めの儀礼にて、裏切者が秘宝の確認を行っています」

「……腹が立つわね」


 また頭を抱えだしたヴィルトリエを心配しつつ、マナミは尋ねた。


「あの、年始めの儀礼って?」

「あれ、知らないの? 毎年の年明けに、王家から貴族の任命式があるんだ。まあ、本当に慣例的なもので、よほどのことがなければただのパーティーなんだけど」

「あぁ、領主のいる都市はお祭りになってるよ。住民の前で、王家から届いた任命証を受け取るんだ。まあ年明けだから、そうでなくとも大体お祭り騒ぎだけど」

「そうなんだ……」


 ローザとセレンの話に、マナミはほぅ、と息を吐く。田舎の村でも年明けは賑やかだったけれど、都市の祭りの方がずっと盛大なのだろう。


「うん、で、慣例になっているとはいえ、この儀礼は王家からの視察も兼ねてるの。だから、領主だったら帳簿を、何か預かっているのであればその秘宝を実際に見て、問題ないか確認してるんだ」

「今年、秘宝あった?」

「あった、と報告は出てるよ。でもそのとき同席していた騎士と文官が、それぞれ別件で、王家に反するような不審な動きを取っているらしくてね。それで芋づる的に、その騎士や文官と一緒に確認していた影も、そしてビゴール・ドマシックも、虚偽報告をしていた裏切者である可能性が浮上しているの。怪盗の噂や横領疑惑が出てからは、なおさら疑わしくなった感じ」


 ヴィルトリエが、うんざりしたように口を開いた。


「そう。本当に、限りなく黒に近い灰色ね。明らかに怪しいけれど、断定はできない。それに、彼らが確認した秘宝は、ドマシック家のものだけではないのでしょう?」

「はい。エラファウェには現在、秘宝を託された貴族がドマシック家含め三家あります。そのすべてを、裏切者疑惑の騎士、文官、影が担当していました」

「つまり、そのすべてが黒か、あるいは白が混じっているか。現状では判別つかないのね」

「今は、そうです。ただ、王女殿下がお越しになったことで、何か変化が出てくると期待しているのですが……」


 どたどた、と騒がしい音が廊下から響いて、マナミはびくり、と身体をこわばらせる。ローザが素早く

部屋の隅に移り、ヌイは瞬く間に結界を解く。


「おっ、王女殿下。わたくしめです、ビゴール・ドマシックでございます。至急、お伝えしたいことが」


 ノックとともに聞こえた声に、ヴィルトリエが目配せをし、ローザが扉を開ける。果たしてその向こうにいたビゴールが、悲痛な表情で告げた。


「秘宝が、秘宝が盗まれておりましたぁっ!」


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