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少女マナミは歩き続ける  作者: 佐和森飛鳥
2章 港町怪盗騒動
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11話 お楽しみの泉

本日二話投稿しています。こちらは一話目です。

 地下水路を駆使して魔物退治の旅を続けること数日。エラファウェまでの距離は、半分を過ぎていた。


「マナミ、あとちょっとだからね、頑張って!」

「ウチ、背負ってもいい」

「だ、大丈夫。もう少しならいけると思う……」


 マナミは力なく笑って、重い足を動かす。そうして、これまでの魔物退治を思い出して、内心深いため息をついた。


 まさか、毎回囮になるとは思わなかった。


 仕方なくはあったのだ。だって魔物のほとんどが、猪の姿と性質を持っていたのだから。おかげでマナミは真っ直ぐ突進してくる魔物から逃げるため、何度も全力で駆け回るはめになった。唯一、最も南部に近い場所では大蛇の姿をしていたが、目の前にいるセレンたちを無視してマナミに飛びかかってきたので、結局走り続けることになってしまったのだ。結果、直接戦ったわけではないマナミが一番疲労困憊になっているというわけである。


「まあ、今後を考えればいい訓練になったんじゃないかしら。魔物に関しても、マナミを狙うのはほぼ確定してよさそうだし、幸先がいいわね」

「そ、そうかなぁ……?」


 マナミにとってはこの先がとてつもなく不安になる状況なので、ただ頬を引きつらせるしかない。どうして自分には剣技の才も魔力もないのか、叶うなら神様にお伺いを立てたいところだ。


「推測とはいえ、魔物の情報は増えたよね。戦う上で、事前に対策を練れそうなのは嬉しいなぁ」

「同意。けど、油断は駄目」

「それはもちろん。あくまで手持ちの情報から得た推理だからね。それが全てだとは思わないよ」


 セレンとヌイの言う通り、魔物の特徴についても、ある程度情報が固まってきた。ことに、姿や性質が、出現した地域に生息している動物に似ている、という推測は、ほぼ合っていそうという見解で落ち着いている。ただ、そこに人間が混ざっている、というのがどうしても不気味で、マナミは未だに考えないようにしていた。西部で出遭った魔物は人間の腕が生えていたものが多かったものの、全てではなかったので、西部自体に何かあるわけではなさそうだ。けれど、動物と同様の理由からなのか、それともそれ以外の理由があるのかの判別がつかないため、どうしても、薄気味悪い感覚が残ってしまっていた。


「賢者の塔へ到着する頃には、魔物の情報もだいぶ判明しているのでしょうけれど……やっぱり、先が長いわね。自分が決めたことだけれど、気が急くわ」

「まあまあ、だからこそ今日はちょっとのんびりしようよ! もうすぐだよ、お楽しみの泉は!」


 目を伏せるヴィルトリエに、セレンが明るく声を上げる。マナミもつられて顔を上げて、まだ見えない道の先に心を弾ませた。


 そう。今日の目的地は魔物のいるところではない。セレン推薦の観光名所、『お楽しみの泉』だ。目に見えて人の往来が多く、何台も馬車が追い越してきていることからも、その人気ぶりがうかがえる。マナミとしても、こういう場所に来るのは初めてなので、疲れが残っていなければ駆け出したい気分だった。


「日替わりで、美味しい飲み物に、味が変わるんだっけ?」

「そうそう! 外れなしの泉なんだ!」

「変わる、味だけ?」

「そう聞いているわ。どんな味でも、成分は水のまま。だからたとえ滋養に良い飲み物の味になったとしても、健康になれるわけではないわよ」

「なるほど……」


 魔法事象発生地点。観光地か危険地帯かのどちらかになるという、意思のない魔法が発動している場所。だが話を聞く限り、お楽しみの泉は間違いなく前者であることは頷けた。


「いやあ、本当に楽しみだなぁ。前に来た時は、すっごく美味しい牛乳だったんだよね」

「あら。牛乳と言えば、東部南にある大牧場が有名だけれど……」

「そう、まさにその牛乳の味! びっくりするくらい美味しくて、その後、つい東部南周辺の護衛依頼探しちゃったよ」


 セレンがそのときのことを思い出したのか、満面の笑みを浮かべた。


「依頼、あった?」

「あはは、そのときは見つからなかったよ。本気で探してたわけでもないしね。でも運がいいことに、だいぶ経ってから、大牧場へ商談に行く商人の護衛依頼が入ってさ。しかもめっちゃいい人で、ボクが牛乳の値段高すぎてへこんでたら、なんと、御礼にって奢ってくれたんだよね。カップ一杯だけだったけど、うん、今でも忘れられないくらい、濃厚でまろやかで、風味あふれる味だったよ……」

「あれは絶品よね。毎年献上されるのだけれど、わたくし、毎日飲みたいほどだわ」


 思わず、ヴィルトリエを見る。しみじみ呟いていたセレンも、黙って聞いていたヌイも、同じく視線を向けていた。


「貴方達、どうかして?」

「う、羨ましい!」

「さすが王女様……」

「ほしい。分けるべき」

「仕方ないわね。なら、魔王討伐祝いのパーティーで並べるよう命じておくわ」

「やったー!」


 セレンが歓喜の声を響かせる。マナミもちょっと頬を緩めていると、ヌイがマナミの服の裾を引いた。


「見えた。すぐそこ」

「本当? ありがとう……」


 確かに気付けば、道の先、遠くに人が溢れかえっているのが見えた。泉はさすがに見えないが、それより、周囲に立ち並ぶ建物の方が気になった。


「泉だけかと思ってたけど、もしかして、村になってるの?」

「うーん、まあ実質村かな。あれはね、泉に来た観光客向けのお店! 西部の郷土料理からお祭り定番の串料理に気まぐれ料理まで、盛りだくさんで大満足間違いなしだよ! マナミもみんなも、一緒に制覇しようねっ!」

「貴方、もしかしなくてもこっちが目当てだったわね?」


 呆れ顔のヴィルトリエに構わず、セレンがマナミの手を掴んで足取りを速める。それに慌ててついて行きながら、マナミは期待に胸を膨らませた。


 辿り着いた料理店の通りは、たくさんの人々で賑わっていた。普通の座って食べる料理店もあったが、食べ物だけ販売している店も多く、道を行く観光客たちは、歩きながら食べ進めているようだった。もう片方の手にカップを持ち、それぞれ味わっている姿も多い。


「なんというか、こんなに人がいるんだね……」

「西部は水路網があるから、他の地方より旅するのが楽なんだよね。たいていの都市間はつながってるから、地下水路ほどじゃないけど早く行き来できるんだよ。だから、休暇に観光を選ぶ人、西部はけっこういるんだ」

「近年は不作の年もないし、特に災害もなかったもの。とはいえ、魔物の噂があるからここまでとは思っていなかったけれど」

「いや、ボクが前に来た時よりは空いてるよ。……あれ、でも空気はそこまで沈んでないね」


 首を捻るセレンに、ヌイが頷いた。


「ここまでの道、だんだん空気軽くなった。今、少し暗い程度」

「そうなんだ。えっと、ここがその……魔法事象発生地点だから?」

「断定はできないけれど、可能性のひとつではあるわね。あと考えられるとしたら……」

「あーはいはい、そういうのは帰る時に考えよう! 言い出したボクも悪いけど!」


 セレンが手をパン、と叩いて、今度はヌイの手を取り駆けていった。それにマナミはあたふたと、ヴィルトリエはゆったりとついて行く。


「ほら、あれがお楽しみの泉だよ!」


 そうして辿り着いたのは、地面からこんこんと水が湧き続けている、ごくありふれた泉だった。その周囲は、岩で囲われている。楕円状で、マナミが両手を広げた程度の大きさだ。その中は澄んだ湧き水で満ちており、観光客らしき人たちが、カップで掬い取っていた。


「ようこそ、お楽しみの泉へ。……って、え、えええっとあの、その髪は」


 案内人、と名札のついた女性がマナミたちに近づき、狼狽えたように足を止める。その視線の先にいたヴィルトリエは、笑みを浮かべながら、人差し指を唇に当てた。


「今日のわたくしは、ただ観光に来た旅人なの。だから、普段通りで構わないわ」

「あ、ありがたきお言葉を……あわわ……」

「はいっ! お姉さん、今日は何の味?」


 混乱している案内人を見かねてか、セレンが質問する。落ち着かない様子で、それでも女性は答えた。


「は、はい。本日は西部風玉ねぎスープの味となっております」

「うわー、美味しそう。じゃあいただきますね!」


 セレンが嬉々として、鞄から自分のカップを取り出す。マナミはまだ衝撃が抜けきらない案内人に軽く頭を下げてから、おとなしくセレンに続いた。ヴィルトリエとヌイも、それぞれ自分の鞄から、自分用のカップを取り出している。


「これで、そのまま掬えばいいの?」

「そうだよ。特別なカップとかは必要ないんだ」


 そう言ったセレンの真似をして、マナミは泉の水を、そっと掬う。なみなみとカップに入った水は、ごく普通の湧き水にしか見えない。


「あっち、座れる」

「本当ね。テーブルもあるからゆっくりできそうだわ」


 観光客用なのだろう、いくつも設置されたテーブルと長椅子のうち一つに腰を落ち着けて、マナミたちはカップを手に取った。カップの中の水は、水以外の味がするとはとても思えないほど綺麗に澄んでいる。


「な、なんかドキドキするね……」

「楽しみね。西部風玉ねぎスープ、だったかしら」


 隣に座るヴィルトリエが、カップを傾ける。それに倣って、マナミもカップに口を付けた。

 美味しい。ほんのりとした甘みにどこかほっとする、まごうことなき玉ねぎのスープだ。

 マナミは透き通ったカップの中身を二度見して、もう一度、口に運んだ。


「……想像以上。美味しい」

「でしょ? いやぁ、にしても懐かしいなぁ」

「懐かしい? セレン、貴方西部の出身なの?」

「似たようなものだけど、正確には違うね。中央の西部寄りで、ちょっと南にある……」


 セレンが出した街の名前に、ヴィルトリエがなるほど、と納得した。


「確か、かつては国境沿いだったのだものね。西部の文化が混じっていてもおかしくないわ」

「まあ、西部風の方が簡単で、材料も少なかったからなんだけどね。妹の一人なんかは、先生たちより作るの上手くなっちゃって」

「妹、って、同じ孤児院の?」


 マナミの問いに、目の前のセレンが自慢げに微笑む。


「うん。なんでも器用にこなせる子でね。料理から裁縫、掃除、子供たちの世話まで、何でも上手だった。もう独り立ちしてるはずだから、今どこにいるかは分かんないけどさ」


 セレンがカップを飲み干して、流れるように立ち上がる。


「もし二杯目貰いに行く人がいたら、ボクのもお願いしていい? ボク、料理買ってくるからさ」


 言うが早いか、セレンがカップを置いて、料理店の通りに駆け出していく。マナミたちは顔を見合わせて、ふっと笑みを零した。


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