勇者と魔王の言い伝え
かつて、神がまだお隠れになったばかりで、人が自らの力だけで生きていた頃のことでした。
北の地には、信じられないかもしれませんが、天にも届きそうなほどの、それはそれは高い山があったのです。
それに連なるように、いくつもの山々もありました。
ある日、空に暗雲が立ちこめたかと思うと、すさまじい雷がその高い山に落ちました。
そして、そこから魔王が生まれたのです。
魔王の肉体は高い山からつくられ、雷を力としていたので、たいそう頑丈で、とてつもなく膨大な破滅の力をもっていました。
けれども同時に、暗雲と、地に浮かび上がった影を精神としたので、その心は邪悪そのものでした。
魔王は地に足をつけるが早いか、他の山々を造り替え、陰を精神とした生き物を生み出しました。それが魔物です。
魔物の心もまた悪そのものでしたので、生まれるやいなや、他の生き物を手当たりしだいに襲い、むさぼるように食い荒らしました。もちろん、人も例外ではありません。
魔物達はみな、魔王によって破滅の力を与えられていましたから、なおさらたくさんの人が死にました。
人々は絶望し、怯えながら日々泣き暮らすようになりました。
けれど、神は私たちをお見捨てにはなりませんでした。人々の中でも、希望を捨てず、生きようと誰よりもがいていた若者に、神の力を与えたのです。
神の力を得た若者は、単身、魔王に挑みました。
そうして十三日十三夜戦い続け、ついに十四日目の朝、魔王を倒したのです。
空には太陽と月が現れ、若者を祝福しました。
魔王が倒れるとともに、魔物もすべて塵となりました。
太陽と月の光を浴びたその塵は荒れ果てた大地を癒し、大いなる恵みとともに、人々へ不思議な力を与えました。
魔王の所業を覚えていた人々は、この力を魔力と戒め、善きことに使おうと神に誓いました。
そして若者は、誰より勇敢なる者――勇者と呼ばれ、その後、幸せに暮らしたということです。
それ以来、魔王や魔物が再び現れることはなく、世界は平和となったのです。
――サンソルジュ王国に残る言い伝え