076_破滅に導くためのあれこれ
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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076_破滅に導くためのあれこれ
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財務大臣の部屋を出て、今度こそエルバシル伯爵の部屋に入った。大臣室とそこまで変わらない大きさの部屋だ。
エルバシル伯爵は神経質そうな初老の男性で、書類に向かってブツブツ独り言を言っている危ない人だった。
見た目はできそうだけど、詳細鑑定の結果は無能だった。仕事は全部部下任せで、家柄だけで今の職に就いている典型的な人だ。
いくら家柄がいいとは言え、仕事しない人を大臣補佐官にしていいのだろうか?
「王女様も苦労が絶えなさそうだな」
大臣補佐官は文字どおり大臣を補佐する役職で、定員は3人。エルバシル伯爵は3人の筆頭らしい。
ちなみに大臣がトップで次に副大臣がいて、大臣補佐官の3人がその次に偉いらしい。エルバシル伯爵は大臣補佐官の筆頭だから、財務省のナンバースリーという位置づけになる。
さて、このエルバシル伯爵もそれなりに罪を犯している。密貿易、違法奴隷売買、殺人、強姦、恐喝などなど。あのグリッソムの父親だけあってとてもクズだ。この感じでは他の息子もクズの可能性が高そうだ。
エルバシル伯爵に気づかれない程度に室内を物色したが、特にめぼしい証拠はなかった。
エルバシル伯爵家そのものを潰すような証拠がほしいところだ。密貿易や人身売買は証拠があると思うんだが……。さすがに職場にそんな証拠は持ってきてないか。今度屋敷のほうを捜索しよう。
財務省の資料室に入って色々見て回る。財政はかなり悪い。貴族や役人が横領しまくっていれば、財政が悪くなるのも仕方がないだろう。財務大臣が4割も抜いて、他の人も抜くんでしょ? それで健全な財政だったら、凄いと思うよ。
帳簿などを見ていたら、人が資料室に入ってきた。3人だ。
「なあ、あの噂を聞いたか?」
「ああ、聞いた、聞いた。エルバシル大臣補佐官とルディル大臣補佐官が殴り合いの喧嘩だってな」
「実際には殴り合いになりそうなほど、酷い罵り合いをしたらしいぞ」
「ルディル大臣補佐官は真面目だからな。無能だけならともかく、かなりの金額を横領しているエルバシル大臣補佐官のことがかなり嫌いなんだと思うぞ」
どうやらエルバシル伯爵の政敵っぽい人と喧嘩したらしい。貴族って陰で何をしているか分からないけど、表立って喧嘩なんかしないと思っていたよ。
しかし下っ端っぽい役人にまで横領のことがバレているのに、よく今の立場に居座っていられるな。
詳細鑑定ではエルバシル伯爵は、財務大臣と姻戚関係にあって強く結びついている。そのコネで今の地位にまで登ってきたそうだ。コネってのは入る時だけ使うものだ。その後もコネで昇進したら皆が不幸になる。
「俺としては今の大臣でいいんだけどなぁ」
「あの人は懐に金が入れば、俺たちが何をしていてもいいからな」
「でもさ、ここ最近は特に酷くなったよな。陛下の病気をいいことに、やりたい放題だぞ。これじゃあ、国の先行きが不安になってしまうよ」
「「たしかに」」
国王が病なのは聞いている。実際にどんな病かは知らないけど、国王が居ないのをいいことに好き勝手やっているわけか。
あの王女様はたしか16歳だったか。俺よりも年下なのに国を背負ってがんばっているんだろうけど、力不足は否めないようだ。
しかし日本ならまだ子供と言える年齢の王女ががんばっているのに、この国の大人たちは何をしているのか。国を食い物にするよりも、王女を盛り立てていくべきじゃないのか。俺、こういう大人たちは嫌いだ。
王女に良い感情はないが、それ以上に大人たちが嫌いだ。嫌いな大人たちを懲らしめてやりたい。
エルバシル伯爵と財務大臣、その他派手に汚職をしている人などの調査をしていると、国王に謁見して新年の挨拶する日になった。今国王は療養中だから、摂政の王女が代理ね。
てか、王女にはすでに会ってるから、いいじゃんねぇ。
「これはこれ、あれはあれだ」
ザイゲンにため息交じりに言われてしまった。俺の心を読むの止めてくれないかな。
謁見は前回と同じ場所で行われたけど、貴族が少ない。悪魔討伐の褒美を与えるイベントは盛大に行ったようだ。バカたちに台無しにされたけどね。
「今年は悪魔が現れたこともあり、ガルドランド公爵領は大変だったでしょう」
「破壊されたのは城下の家屋だけでなく、某の城も大きな被害を受けました。よって城を新しく築こうと思っております」
「王家としても築城の援助をいたしましょう」
財政は赤字なのに、公爵を援助できるの? 現実が分かってないのかな。それとも他に何か考えがあるのか?
まあいいや、この国が財政赤字で破綻しても俺には関係ない。
「ありがとう存じまする」
基本は王女と公爵が話をして終わり。なのに王女がチラチラ俺を見る。嫌な予感がする。
「フットシックル男爵にも迷惑をかけましたね」
赤葉たちのことだろう。あいつらはあの後奴隷に落とされた。2億5000万グリルのような大金をあいつらが持っているわけないもんな。
今は騎士団長の管理下に置かれて、訓練からやり直しているそうだ。生意気なことを言うと、騎士たちにぶっ飛ばされるらしい。あいつらにはそれくらいで丁度いい。
「いえ、大したことはしてませんので」
溜まりに溜まった恨みも少し晴らせたしね。それに決闘をした迷惑料として7億5000万グリルもらったしね。全部もらえるとは思っていなかったから、驚きだったよ。中抜きされていたら、そいつを破滅に追い込んでやったのにな。
「できれば王家の直臣としたいところですが、公爵が怖い顔をしてますから止めておきます」
それがいいですね。俺も断りますから。
勇者召喚は王女がしたけど、それを強く推し進めたのは国王と財務大臣だったそうだ。どちらかというと、王女は召喚に反対派だったらしい。
色々調べていたからそういう記録も読んだ。ちょっと王女を見直した。悪いのは国王と財務大臣だ。あの財務大臣は召喚にかかる費用を抜いていた。裏帳簿のありかは突き止めた。もちろんエルバシル伯爵も抜いていたよ。
エルバシル伯爵のこともかなり調べが進んだ。失脚させるだけの証拠のありかも突き止めている。だけどバカ息子のグリッソムの犯罪の証拠が集まらない。あいつバカそうなのに、凄く真面目に証拠隠滅をしているんだ。父親の伯爵を失脚させれば、芋づる式にあいつも取り調べられるかもだけど、そんなことに期待していてはいけない。
違法奴隷を監禁していることからその点を突けばなんとかなるかもだけど、グリッソムのパーティーメンバーの奴隷だから責任はそいつにある。つまりグリッソムは何も知らなかったと言い逃れができるんだよ。なかなか強かな奴だよ、グリッソム。
なんとかグリッソムの犯罪の証拠を手に入れたいが……今のところは目途が立っていない。
そんな時だった、俺はグリッソムの屋敷であいつを詳細鑑定したのだが、あいつのレコードカードの犯罪歴が消えていた。
「どういうことだ……?」
よく見ると消された跡があるのが分かる。でもレコードカードを改ざんや変更するスキルを、グリッソムは持っていない。
「まさか誰かに頼んで変更した?」
そう考えるのが妥当だ。でも仲間の中にも奴隷の中にもそういったスキルを持っている者はいない。
「誰だ……誰が……?」
不自然にレコードカードが改ざんされ、さらに詳細鑑定でも不自然なところがあった。
その不自然さを根気よく解きほぐしていくと、裏ギルドという言葉に行き当たった。
どうやらグリッソムは裏ギルドとも関わり合いがあるようだ。
恙なく謁見は終わり、公爵は2日後に王都を発つ。俺はダンジョンの10階層でモンスターを狩る必要があるから、引き続き公爵の別邸に逗留させてもらう。
同時にヤマトと厳島さんが公爵の別邸(俺の宿舎)に移ってきた。二人は俺の下で今まで通りアイテムを作る。
作ったアイテムを公爵に上納するくらいの条件くらい出されるものと思っていたけど、公爵はそんなことを言わなかった。借りができてしまって、ちょっと怖い。
俺たちの宿舎は公爵の屋敷なので警備は厳重。俺たちがダンジョンに入っている間の2人の安全は確保できるだろう。
そんな時だ、ガンダルバンが2人の探索者を連れてきた。
「王都の探索者ギルドで良い人材を見つけてきました」
彼らはケルニッフィから王都に移籍した探索者で、ガンダルバンが探索者をしていた時の顔見知りらしい。
「5人パーティーで活躍していましたが、2人が怪我で引退してしまいこれからのことを考えていたそうです」
「ん、2人が引退だと、あと1人はどうした?」
「1人は別のパーティーに入りました」
その別のパーティーも1人が怪我で引退したそうで、空きが1枠あったそうだ。そこで同じような境遇の彼らと合流できないかと話し合ったそうだが、向こうは5人、こっちは3人で合流すると8人になって人数が多くなってしまう。人数が多いと取り分が少なくなるから、話し合いは平行線を辿った。
何度か話し合いして、彼らの仲間だった1人が向こうに合流することになった。要は2人が身を引いた形だな。
2人は新人と新しくパーティーを組んで探索者を続けようとしていたんだが、そこでガンダルバンと再会して話を聞いたガンダルバンが勧誘したというわけ。
2人はデコボココンビという感じだ。1人は俺よりも背が低く、もう1人はガンダルバンよりも背が高い。
「この2人は姉妹なのです」
「はい? 姉妹……本当に?」
「ええ、2人とも自己紹介をするんだ」
小さいほうが1歩前に出た。140センチくらいか。
「私は姉のコロンです」
はぁ? どう見ても中学生で背も140センチと小さいほうが姉なの?
「私たちは父は同じですが、母が違うのです」
異母姉妹か。
「私の母はリトラナーなので、私はリトラナーの特徴を受け継いで幼い容姿なのです」
まずリトラナーという種族を知らない。ガンダルバンが説明してくれるが、小人族に属する種族らしい。小人族の中では比較的大きめの種族とか。
今度は大きいほうが前に出た。ガンダルバンより頭1つ分大きく230センチくらいありそうだ。
「妹のカロンです。母はハーフダルゴです」
ガンダルバン、説明プリーズ! ハーフダルゴは巨人族に属する種族で、比較的小さいらしい。
うん、小人族の大きいほうと、巨人族の小さいほうね。紛らわしいわっ!
「ガンダルバンの推薦だから雇うことにするが、秘密保持契約はしてもらうからな」
「「ありがとうございます!」」
「雇用条件はガンダルバンから聞いてくれ。それで良ければ、契約だ」
兵士が少ないと思っていたから補充はありがたい。それに性格も悪くなさそうだ。
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