140_お偉いさん
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この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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140_お偉いさん
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今さらだが、スズカ山脈の廃坑奥に出入口があるダンジョンの名称は、『スズカダンジョン』にした。
あれからスズカ山脈のダンジョンの探索は進んでいる。
俺は不本意だが、政務があるから1週間に1日しか入らさせてもらっていない。
もっと気晴ら……ゴホンッ。領地のために探索をしたいと思うんだ。
「旦那様。探索者ギルドのパッカード様がお越しになりました」
モンダルクが探索者ギルドの偉いさんを案内してきた。執務室への入室を許可し、俺はデスクからソファーへと移動する。
「探索者ギルド・オーダ王国統合本部副本部長のパッカードと申します。この度はダンジョンを発見されたよし、謹んでお祝い申し上げます」
ダンジョンは富をもたらすから、発見できたらお祝いらしい。
その代わり放置したら、モンスターを吐き出すけどね。すでに吐き出していたのは、今さらか。
探索者ギルド・オーダ王国統合本部副本部長。長ったらしい役職名だけど、このオーダ王国内に限れば、探索者ギルドのナンバーツーらしい。
随分と大物が出てきたものだ。
パッカードは243歳。結構な年なのは、エルフだからだろう。しかしえらく美形だな、この野郎!
サラサラの金髪に青い目で耳が長い。
うちのアンネリーセのほうが美形なんだからな!
「何か?」
「あ、いや、なんでもないです。俺がトーイ=フットシックルです。一応、子爵ですね」
「ふふふふ」
何がおかしいんだよ?
「これは失礼しました。本当に噂に聞いていたような方なのだと思いまして」
「噂? どうせ碌なものではないでしょ?」
成り上がり者だとか、どこの馬の骨か分からないとか、貴族たちは好き勝手言っているらしい。
「いえいえ。今や飛ぶ鳥を落とす勢いのフットシックル子爵閣下は、貴族になりたくなかったとか。今でも子爵と名乗る時は、顔を顰めるというものですよ」
「あー、それね。ははは。不本意ながら、領地持ちの貴族になってしまいました。それは本心ですね」
代わってくれるなら、代わりたいくらいだ。
「立ち話もなんですから、座ってください」
「はい。失礼します」
話は簡単だ。スズカダンジョンの運営を探索者ギルドが行うというもの。
詳しい話は実務者レベルで行うが、ざっくりした説明を聞く。
他のダンジョンと基本的に同じ運営になるというので、それで構わないと了承。
所有権はうちにあるけど、運営権は探索者ギルド。このような住み分けになる。ちょっと違うが、オーナーと店長みたいな関係だな。
パッカードが実際にダンジョンを見たいと言うので、俺自身が案内する。決して気晴らしがしたいわけじゃない。
スズカダンジョンはダンジョンに入ってすぐのところにレベル10のモンスターがいる。非常に危険なダンジョンだと説明して、入るのは止めないが命の保証はしない。とだけ言っておかないとね。
「私も護衛として高レベルの探索者を連れてきました。もしもの時はフットシックル子爵家のご迷惑にならぬようになっておりますので、ご安心ください」
護衛は7人。6人はレベル30台。1人がレベル29。一般的にいえば高レベルだし、出入口付近のロックイーターくらいは軽くあしらうだろう。
それに加えてパッカードのレベルが高い。探検家レベル42。
ジョブ・探検家なんて初めて見たよ。かなりレアなジョブのようで、探索者と冒険者を合わせて2で割ったようなジョブだ。世間は広いと感じるよ。
実をいうと、スズカダンジョンの1階層はめちゃくちゃ広い。
岩山の細い道が3キロ、さらに広大な荒野まである。ボス部屋までいくのに、最短距離を小走りしても10時間はかかる。
しかもロックイーター系だけじゃなく、コボルト系のモンスターも出てくる。
最短ルートで移動しようとすると、100体規模のコボルトの群れに出くわすようになっている。もうウザくてしょうがない。
現在、うちの精鋭部隊が3階層を探索しているが、かなり苦労している。1階層の数倍広いエリアな上に、モンスターのレベルが最低でも48なのだ。精鋭部隊しか進めないくらい高くなっていて、嫌がらせかと思うほどだ。
ちなみに、この1階層でも最高レベルは30と、滅茶苦茶な設定になっている。
「これはなかなか壮観な景色ですな」
パッカードが崖からダンジョン内を見渡す。背中を押したら真っ逆さま。そんなことしないよと言いつつ、そろーっと。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもないです」
さて、先に進んでロックイーターと初戦闘。パッカードの護衛たちが一蹴。石化ブレスを吐かれることはなかったが、危なげない戦闘だ。
「これが魔法石ですか」
パッカードはスキル・アイテム鑑定を持っている。それで見たのだろう、目を剥いている。
「フットシックル閣下。これは素晴らしいものですぞ」
「そのようですね」
ロックイーターからは、魔法石が30パーセント程度の確率でドロップする。
ノーマルドロップがロックイーターの皮で、レアドロップが魔法石だ。
お手軽に手に入る上に、使えば魔法効果が得られる。しかもマジックアイテムの材料にもなる。
レベル10前後といえば、ケルニッフィの4階層に出てくるワーカーアントだが、蟻甲が110グリル、Gランク魔石が250グリル、レアドロップの酸袋が1800グリル。
それに対してロックイーターの魔法石はギルド買取額が最低でも4000グリルになると、パッカードは言う。
3回に1回はドロップするので、レアドロップというほどレアなアイテムではないが、そこそこ高価な買取額になるようだ。
ただし今は珍しいから高額かもしれないし、今後需要に供給が追い付かないともっと高額になると付け加えた。
「廃坑内にギルドを建てたいのですが、許可をいただけますでしょうか」
廃坑内にギルドを建てるとは斬新だな。と言いつつ、うちの施設も廃坑内に建てているんだよね。
おかげで土魔法が使える魔法使いは廃坑の壁や天井の補強で忙しくしている。
ところどころに柱も立てていて、これにはコンクリートブロックが重宝されている。
「出入口前に衛兵を置き、建物は広い場所に建てたいのです。どうでしょうか?」
「概ね問題ないですが、建てる場所は後で相談しましょう」
パッカードと話しているとロックイーターが近づいてきたが、護衛たちがすぐに対処した。
岩山をある程度探索し、ロックイーターからドロップする魔法石を持ち帰ったパッカードはすぐに王都へと帰っていった。
ギルドの建設に関しては、中指道入り口前の一等地に建てることになった。建設中のうちの施設の反対側だ。
なんだか地底都市のようで、面白い。
今日は朝から開墾現場の視察をしている。塩害のおかげで農作物を育てられない広大な場所。今は区画を整備し、土を起こしている最中だ。
ここで働いている人の多くは、支配奴隷になる。多くは数十年の刑期だが、中には数年で解放される人もいる。そういった早期解放予定の人のほうが真面目に働いているようだ。
犯罪にどっぷり浸かっていた人は、さすがにやる気がない。どうせ使い潰されると高を括っているのだろう。
だけどさ、よく考えてほしいんだ。開墾現場で真面目に働かない奴は、もっと過酷な場所に行くことになるんだぞ。それを分かっていないわけがないんだ。なのに真面目に働こうとしない。
長年染みついた怠惰な考えのせいか、それともどうせ死ぬんだと思っているのか。さすがにそういった受刑者たちのことまで面倒は見られないよ。
「なあ、ヤマト」
「何かな?」
「自動織機は作ったけどさ、綿花から糸を作るのはどうするんだ?」
「……あっ!?」
「考えてなかったか」
「アハハハ。ちょっと考えておくよ」
まだ綿花を植えてないし、それに綿花が育つとは限らない。仮に育っても収穫にはまだ時間がある。それまでにどうするか考えてくれ。丸投げだけど、ヤマトならやれると俺は信じているぞ!
「なあ、ヤマト」
「何かな?」
「お前、1人で大変じゃないか? あれならアシスタントを雇っていいんだぞ」
「うーん。今はまだいいかな」
「なんでだ? 忙しいだろ?」
「だって、ほら、僕って人見知りじゃない」
「え? 人見知り? 誰が?」
「僕だよ、僕」
ヤマトが自分のとぼけた顔を指差す。
「今初めて知ったんですが?」
「僕はそのことを知ってショックだよ」
「いやだって、普通に兵士たちと喋っていたじゃん」
「そんなことないよ。僕はどちらかというと、1人のほうが気楽でいいんだ。もちろん、必要なことはちゃんと言葉にするけどね」
まあ、本人が人見知りと言うのだから、人見知りなんだろう。俺が決めることじゃないから、ヤマトがそう主張するのは自由だ。
▽▽▽ Side ??? ▽▽▽
暗闇の中に4人の人影があった。
彼らは顔を近づけて声を殺して何かを話し合っている。
「明日決行でいいんだな?」
「準備はいいんだろうな?」
「ダンジョンに入ったら決行だな?」
「準備は万端。ですが、この謀を悟られないようにしてくだされ。もしダンジョンに入れない場合は、今回の計画は延期か中止になりますので」
「「「分かってるって!」」」
それだけ言うと、4人は暗闇に溶け込むように消えていった。
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