014_グレーターラット
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014_グレーターラット
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ダンジョン内で話すことではないが、詳細鑑定のことをアンネリーセに話した。俺の個人情報は他言できないから、彼女から他人に洩れる心配はない。
出会ってまだ1週間のアンネリーセを信頼するほど知っているわけではないが、奴隷の制約がなくても俺の不利になることは言わないだろう。
何が言いたいかというと、アンネリーセなら俺を裏切らない。仮に奴隷じゃなくてもだ。そんな根拠のない自信がある。
「承知しました。ご主人様のユニークスキルはアイテムボックスと詳細鑑定ですね。それを踏まえて、力の限り補佐いたします」
老婆だった時も可愛らしい仕草をする時があったけど、この姿でそれをされるとヤバい。惚れてしまいそうだ。
ダンジョン探索を再開したが、アンネリーセの歩速が速い。今まで俺が合わせていたのに、今度はアンネリーセが俺に合わせて遅くしている。本当に変われば変わるものだ。
戦うのは相変わらず俺だ。俺のレベル上げだから当然だな。それにミスリルの両手剣のおかげで苦戦しない。
5体目のグレイラットを倒すとレベルが上がった。グレイラットのレベルが2ばかりだから単純比較できないけど、村人の時よりレベルアップが速いと思う。
さらに12体のグレイラットを倒して進むと、行き止まりに出てしまった。
「行き止まり?」
「いえ、ここはボス部屋です」
唐草模様のような彫刻があしらわれた石の壁だと思っていたものは、ドアだったようだ。
2メートルくらいまで近づくと、そのドアがゆっくりと開いていく。自動ドアのようだ。
「誰も居ません。ボスを倒しましょう」
ボス部屋の中に誰か居ると、開かないらしい。
「今の俺でも、倒せるだろうか?」
「正直言いますと、ご主人様の戦闘技術は素人です。普通なら倒せないと思います」
「お、おう……」
本当に正直に言うよねー。
「ですが、ご主人様には私がついています。1階層のボスに後れをとるものではありません」
そりゃそうだ。レベル21の魔法使いは伊達ではないよな。でも、ここは俺1人でボスを倒したい。
「俺1人でボスを倒したい。そのアドバイスをくれ」
「1人で……ですか?」
「アンネリーセに頼るのは簡単だけど、それじゃあいけないんだ。だから俺が勝てるようにアドバイスが欲しい。今の俺では倒せないからレベルを上げろというものでも構わない」
「素晴らしいお考えです!」
「え? そ、そうかな……?」
アンネリーセはピョンピョン跳ねて、「さすがです」を連呼して俺を持ち上げる。マジ可愛いんだけど。
「ミスリルの両手剣がありますし、防具もしっかりしています。苦戦すると思いますが、ご主人様ならボスを倒せると思います。動きが速いですから、しっかり見て戦ってください」
「しっかり見ろ、か?」
「はい。ご主人様ならやれます! 絶対にボスを倒します!」
アンネリーセは若くなって、積極的になった気がする。今までまともに体を動かせなかったから、若い体を取り戻してはしゃいでいるのかも。
さてどうしたものか。今のイケイケなアンネリーセの言葉を信じていいのだろうか? 信頼できないとかではなく、アンネリーセが浮かれていることが心配だ。
「分かった。ボスと戦おう!」
「はい!」
目をキラキラさせて俺を見ないでほしい。可愛すぎるんだよ。
中に入ると、誰も居ない。そりゃそうだ、誰か居たらドアは開かないのだから。
「ん? 何か落ちてるぞ」
部屋の奥に何かある。あれがボスか? いや、違うな……。
「どうやら私たちの前に入った探索者は死んだようです」
「はい?」
「あれはボスに倒された探索者が所持していたものです」
「マジか……」
ボスに倒された探索者の死体はダンジョンに吸収されるが、持ち物は吸収されずに残るらしい。
「1階層ではそうではないと思いますが、上のほうではボスに倒された探索者の持ち物が長い間放置されて、武器や防具が変質することがあるらしいですよ」
「変質?」
「鋼の剣が魔剣になっていたりします」
「魔剣……」
ファンタジーの定番武器を手に入れたいと思うのは、俺だけじゃないと思う。いつか魔剣を手に入れよう。
床から光の粒子が立ち上る。
「ボスが現れます」
ミスリルの両手剣を構え、ボスの出現に備える。
ボワッと光の粒子が霧散すると、グレイラットが現れた。
「グレーターラットです」
容姿は同じだが、大きさが倍くらい違う。これがボスか。
ステータスはAGIが高い。アンネリーセが言うように、かなりの速度だと思われる。
ATKとDEFは今の俺よりかなり低い。これならミスリルの両手剣の一撃で倒せるだろう。
先手必勝とばかりに、一気にグレーターラットとの間合いを詰める。
「てやっ」
ミスリルの両手剣を振り切ったが、グレーターラットは横に跳んで避けた。
「何っ!?」
グレーターラットが飛びかかってきた。
「速いっ」
なんとかミスリルの両手剣で受けたが、動きが速くて厳しい戦いになりそうだ。
防戦一方。俺はグレーターラットの動きに目を慣れさせることにした。
防具を買って正解だった。掠った程度ではHPの減りは1か2ポイント。これなら耐えきれる。防具は本当に大事なんだな。
掠り傷は増えていくが、まだ耐えられる。目を慣らし、奴の動きを見極めろ。こっちは一撃必殺だから一発当てればいいんだ。あいつのように手数は要らない。
ダンゴムシのように守りに徹し、その時が来るまで俺は待った。
大分目が慣れてきた。それでもグレーターラットの動きが速いのに変わりはない。たった一発のために、我慢して力を溜める。
「ご主人様なら大丈夫です! 必ずグレーターラットを倒せます!」
壁際でアンネリーセが応援してくれる。ローブ姿ではなく、チアガールの服装で応援してほしい。
いかんいかん。今はそんなことを考えている場合じゃない。
「ふふふ」
思わず笑いが零れる。
俺よりも強いグレーターラットを相手にして気が触れたわけではない。その逆でこんなに強いグレーターラットを相手にしているのに、バカなことを考える余裕があると思ったら笑えてしまったんだ。
「ご主人様ーっ」
手を振って応援するアンネリーセを見る余裕もある。
おそらくアンネリーセが控えてくれるから、俺が危なくなっても助けてくれるという安心感がこの余裕を生んでいるんだと思う。だからと言って、アンネリーセに頼るつもりはない。
我慢に我慢を重ね、その時がとうとうやって来た。ここまで我慢した甲斐があった。
グレーターラットの動きは単調だ。上、下、下、上、中、下、上、中。攻撃パターンがこの繰り返しなのだ。俺が攻撃した時と、反撃した時は違うが、防御に徹した時はこのパターンで攻撃を繰り返す。
速いため動きを掴むのは難しいが、このパターンさえ分かれば対処は簡単だ。
グレーターラットの攻撃パターンの中でも、1回目の中の攻撃をする時に溜めがある。誘っているようにも見えるが、その可能性は低いはずだ。低いが可能性がないわけではない。だからある意味賭けになる。
「俺の運とお前の頭。さて、どっちがいいかな?」
上、下、下、上───来た、ここだっ。
俺は迷わず床を蹴った。これが誘いなら俺は大ダメージを受けるだろう。だがそれを恐れていては、勝機は掴めない。勇気を振り絞り―――俺が勝つための乾坤一擲の攻撃を仕掛ける!
「はぁぁぁぁぁぁぁっ」
グレーターラットの目が見開かれた。避けようとしたが遅く、俺のミスリルの両手剣がその眉間に深々と突き刺さった。
ガラスが割れたような破壊音。同時にグレーターラットの姿が消滅した。
「か、勝った……」
「さすがはご主人様です!」
「おっと」
アンネリーセが飛びついてきた。受け止めたが、尻もちをついた。
俺は今、アンネリーセの胸に顔が埋まっている。
このまま死んでもいいくらいの幸福が俺の顔を包んでいるんだ。
「………」
「ああ、ご主人様。ご主人様。ご主人様。ご主人様。さすがです」
前言撤回。死ぬ! 死んじゃうから! 息できないよ!
「………」
両手でタップして幸福に降伏じゃなくて、早く息しないと死ぬっ!
「あっ!? ご、ごめんなさい」
「ぜぇはぁぜぇはぁ……だ、大丈夫だ。ある意味、とても幸せだったから」
「え、何ですか?」
「いや、なんでもない」
願望は時に人を殺す。覚えておこう。
「ご主人様。ドロップアイテムです」
アンネリーセが拾って俺に見せてくれた。
「これは尻尾?」
「グレーターラットの尻尾です。薬の材料になります」
「薬の材料?」
▼詳細鑑定結果▼
グレーターラットの尻尾 : 食当たり用の薬の材料になる。グレーターラットのノーマルドロップアイテム。ギルド換金額は1500グリル。
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