131_パルトン伯爵軍が動いた
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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131_パルトン伯爵軍が動いた
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「閣下。パルトン伯爵に動きがありましてございます」
仕事をしていると、バースによってパルトン伯爵の動向がもたらされた。
「パルトン伯爵は兵を集めております。2,000は集めるようです」
この時期に兵を集めるのは、トリアンジュを攻めるためだろう。そう考えるのが正しいと思う。
「こちらへ来るか?」
「まず間違いなく」
「こちらは領兵だけでいい。邀撃の準備を」
「はっ!」
パルトン伯爵家の領兵はおよそ2,000だと、以前調べた情報にあった。
パルトン伯爵家が集める兵2,000のうち、領兵はせいぜい半分くらいだろう。他は領民から徴兵しているはずだ。こちらを攻めている間、自分の領地を空にするわけにはいかないからさ。
うちの戦力は380人程。
他に王都とケルニッフィに、四期生と五期生がいる。
また、王家直轄領時代から引き継いだ領兵のほとんどが、ザワリフィのダンジョンに入ってレベル上げをしている。一期生から三期生がレベル40以上で、格差が激しかったため奮起したようだ。
ザワリフィの屋敷にはおよそ100人の領兵が入っていて、今トリアンジュにいるのは280人くらい。
その280人で今回は防衛戦を行うことになる。
「ザワリフィの領兵を戻しますか?」
バナージは、俺がそんなことをしないのを知っていて聞いているんだろう。もちろん必要ないと、否定した。
「領民からの徴兵は―――」
「徴兵はしない。トリアンジュの領兵のみで対処する」
「領民の避難はどうされますか?」
「うーん。一応、逃げたい人は逃げるように伝えてくれるかな」
「混乱しますが、よろしいでしょうか?」
「伝えずに後から知られるよりいいと思う。四期生と五期生を連れてきて、逃げる人の整理に当たらせるとしよう」
「承知しました」
すぐに王都とケルニッフィから四期生と五期生を呼び寄せた。ダンジョンに入っている人もいるが、明日には全員集まるだろう。
パルトン伯爵軍は4日程で領境に至るらしい。
領地が小さいと、いいこともある。パルトン伯爵の侵攻ルートが簡単に絞り込めることだな。
あと気にするべきは、隣接する領地か。うちは4つの領地と接している。
1つめは言うまでもなくパルトン伯爵領。2つめはうちで居候しているディガルード子爵領。3つめは王家の直轄領であるザワリフィ。4つめはラフフォン伯爵領。
まっさかディガルード子爵がうちを探るために居候しているというのではないだろう。あの人はただの武術バカっぽい。今回のことには関わりないと思う。だが、この地域の貴族ならパルトン伯爵と繋がりがないとは言い切れない。
詳細鑑定ではそういった情報はなかったけどね。
あとラフフォン伯爵がパルトン伯爵に協力するかは不明だ。今のところ動いていないが、どうなるか分からない。
ただラフフォン伯爵領とうちとの間には、山があって直接の往来は難しい。うちに進軍するにしても、パルトン伯爵領かザワリフィを通ってくることになるだろう。
まさか異世界にやってきて戦争することになるとはな。
パルトン伯爵は自分で蒔いた種で、自分を追い込んだだけなんだよ。それを俺のせいにして、軍を起こすとかさ、ため息しか出ないよ。
俺もあまり人のことは言えないけど、なんて短慮な人なんだろうか。パルトン伯爵の行動でどれだけの人が迷惑をこうむるか、まったく考えてないんだろうな。
「ディガルード子爵。ただちに自領にお戻りください」
パルトン伯爵軍が迫っていると、ディガルード子爵に話して自分の領地に戻るように促した。負けるつもりはないけど、億が一ということもある。
「援軍を引き連れて戻ってくる。それまで持たせてくれ」
嬉しいこと言ってくれるね。
ただ、そんなに時間はかからないと思うよ。今回の戦いは戦術とか戦略なんてない。パルトン伯爵はこっちの数倍の戦力を持っているから、負けないと思って力押しをするつもりだ。
「援軍は不要ですから、気をつけてお帰りください」
ディガルード子爵を見送り、ホッと息を吐く。ディガルード子爵が参戦して、怪我でもされたら後に響く。
パルトン伯爵軍が攻めてくると知った領民が避難を始めた。
無秩序に騒がれても怪我人が出るだけだから、戦争に出さない低レベルの四期生と五期生に交通整理をさせている。
「閣下! 出陣の支度が整いましてございます」
ガンダルバンが呼びに来た。真っ黒なゴルモディア鎧が格好いいじゃないか。俺もゴルモディア鎧だけどね。
ジョジョクたち高レベルの騎士階級にはヒヒイロカネ鎧、一期生と二期生の兵士にはミスリル鎧を配備している。
オリハルコンゴーレムを倒した後に出てくる宝箱から大量に出た鎧は、今のフットシックル子爵軍の主力部隊の装備になっている。
ゴルモディア鎧はかなり重いが、俺たちのレベルならそれほど問題にならない。
一期生と二期生、そして元からいた領兵、総勢280人。俺は彼らを前に、木箱の上に乗る。
「皆も知っているように、トリアンジュを狙う賊がいる」
侵攻する理由などない。それをしたパルトン伯爵は盗賊と変わりない。実際にパルトン伯爵のジョブは盗賊だし。
「これより盗賊退治に出る。なぁーに、敵はたった2,000だ。肩慣らしにもならん」
笑いが起きた。
元コーガ衆の忍者に調べてもらったんだけど、パルトン伯爵軍は2,000と数は多いが、レベル20未満ばかりの軍だ。
そもそもパルトン伯爵の下にレベル30以上は1人もいない。最もレベルが高くて25だ。
こっちはレベル40台の一期生、二期生、三期生が、150人以上いる。王都やケルニッフィ、それにザワリフィにいる人もいるから、全てがここにいるわけじゃないけど、130人以上を連れてきている。
レベル40だと、王都ダンジョンの8階層で半魚人たちと戦っている人ばかりだ。半魚人は集団戦になる。多ければ100を超える半魚人と、10人に満たない人数で戦うのだ。同じレベル帯の半魚人100体と戦ったこともある130人の精鋭が、レベル20に満たない低レベルの軍と戦って負けるわけがない。
もちろん戦略や戦術というものを人は使う。それはモンスターにない力になる。
ただしパルトン伯爵は戦略を無視している。できるできないは別として、トリアンジュの周辺貴族を動かし、全方向から攻めるくらいのことをするべきだった。
今回、パルトン伯爵は自領で集めた兵士しか動かしていない。子爵相手に2,000もの兵を集めたのだから、負けるわけないと思っているのかな。
この世界はレベル制だぞ? 量より質が求められる世界なんだけどね。
パルトン伯爵はうちのことを全然調べてないんだろうな。
俺が王都ダンジョンの10階層を探索できることは知っている。高レベルな人材は、俺と共に10階層を探索した数人しかいないと思っているんだろうな。
王都の探索者ギルドや、ケルニッフィとザワリフィのダンジョンでうちの人たちがどういう動きをしているかを調べれば分かるはずなのに。
「いいか、盗賊は殺すか捕縛するものだ。特にその頭は逃がすな。俺の前に連れてこい。出陣だ!」
魔剣サルマンを天に掲げる。
「「「おおおっ!」」」
兵士たちが地面が揺れるほど地面を踏み鳴らす。うちの兵士たちは意気軒昴だ。
俺たちはトリアンジュの町を出て、パルトン伯爵軍が侵攻してくると報告があったルビッシュ平原へと進んだ。
ルビッシュ平原はトリアンジュの西側にあり、パルトン伯爵領との領境になっている。
こっちは狭い領地を進んで1日で布陣した。歩兵がいるから、どうしてもこのくらいの時間がかかる。
ルビッシュ平原は荒れた土地で、畑も民家も何もない。ただ街道があるだけのだだっ広い場所だ。
戦争をしても誰の迷惑にもならない、いい場所だ。いいのか? まあ、迷惑にならないという意味でいい場所なんだろう。
「野営地を構築する!」
ガンダルバンの指示で周囲に柵が置かれ、テントが張られた。
運搬人のアイテムボックスの中に、多くの軍事物資が入っている。ただ出すだけだから、簡単に設置ができる。
「アンネリーセまで来なくてよかったのに」
魔法使い装備のアンネリーセも、従軍している。
俺としては離れているよりも安心だけど、戦場だから何があるか分からない。億が一の可能性がある限り、ちょっと不安だ。
「私もトーイ様のお役に立ちたいのです」
いじらしいね。大好き!
食事はカレー。野菜と肉がゴロゴロと入ったカレーだ。ご飯もある。最近は領兵の間でもカレーが好評になっている。
ケルニッフィの頃からの毎週光の曜日はカレーの日にしているが、それがここでも定着したようだ。
それに俺のアイテムボックスに入れておけば、時間経過がないから熱々のままだ。
皆でカレーを食べた後は、ローズ産の果物を兵士たちに分け与えた。
甘い果物は高価でなかなか食べられるものではないから、兵士たちはとても喜んでいた。
戦争をしにやって来たのに、なんだか遠足みたいだ。
警戒はしているけど、夜襲はないだろう。
パルトン伯爵は俺を侮っているから、真っ向から踏みつぶすつもりだと思う。
子爵領を攻めるのに2,000もの兵を用意することから、派手に俺を倒して力を見せつけようという魂胆なんだ。
アンネリーセの寝顔を見ながら、夜が更けていく。
ご愛読ありがとうございます。
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