129_追跡者2
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
☆☆☆ 1巻、絶賛発売中 ☆☆☆
※ コミカライズもやってますよ!
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129_追跡者2
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調査をしていたら山頂までやってきた。さすがに見晴らしがいい。
護衛を含めて全員レベルが40以上あるから、2000メートル級の山に登っても息切れはほとんどない。
南にはトリアンジュがあり、東にはザワリフィ。そして北にはラフフォン伯爵領の領都カズサ。
カズサは山から流れ出るナガレ川に沿うように築かれた町。ここから見るとよく分かるが、豊かそうな土地だ。
夕方になったので、山頂付近で野営することにした。
焚火でスープを温め、パンを皆に渡す。アイテムボックスがあると作りたての料理を出せるが、せっかくのキャンプだから雰囲気を大事にしたい。
夜はジョジョクと護衛たちが交代で睡眠をとって見張りをする。俺は免除。俺も見張ると言ったけど、やっぱり拒否された。最近、過保護化が進んでいる。
交代で睡眠をとっている夜中、俺たちを遠巻きに見張っていた追跡者が近づいてくる。
「閣下」
ジョジョクの声で目を開け立ち上がる。背伸びと屈伸を行う。準備運動は大事だよね。
「ここは我らが」
「いや、俺に任せてくれ」
「しかし……」
「俺に考えがあるんだ」
「……分かりました」
メインジョブは神速の英雄、サブジョブが暗殺者になっていることを確認。
ローブに身を包んで、焚火から離れて暗闇に紛れる。
―――スキル・隠密、発動。
俺の気配が消えたことに気づいたのか、3人の気配が慌てた。
おっと、気配が遠のいていく。俺の気配が消えたことで警戒したか? 逃がすかよ。
木々の間を器用に移動しているが、遅い!
「はっ」
「ぐっ」
襲撃者の首の後ろを手刀で殴って意識を刈り取る。
「遅いわ!」
「ぐっ」
2人目も殺さないように気絶させる。
棒手裏剣が飛んできたが、明後日の方向に飛んでいった。
俺がどこにいるか分からないが、牽制のために投げているようだ。
「お前で最後だ」
「がっ」
3人目も気絶させて、3アウト。
気絶させた3人は見事に黒装束だった。覆面までしている。容姿は前世のテレビや漫画で見た忍者そのものだ。
「覆面を剥がせ」
ジョジョクに命じられた護衛たちが、3人の覆面を取った。
3人のうち2人は男で、1人は若い女だった。
なんで俺を狙ったのか、誰が俺を狙わせたのか。それを聞き出そうと思ったが、止めた。
詳細鑑定で見たら、この3人、なんと本物の忍者だ。
恐らく気がついたら、自害すると思う。そういう訓練を受けてきたモノホンの忍者だよ。
まさかこっちの世界のジョブに忍者があるとは思わなかった。
サブジョブを報恩聖者にし、彼らにかかっている契約を解除する。その後にサブジョブを奴隷商人にして、彼らを奴隷にした。
本当は奴隷などにしたくなかったが、これをしておかないと3人とも自害されそう。自害も反抗も禁止。
「これでよしっと」
「閣下。この者どもは?」
「俺を殺しに来た暗殺者だ。意識が戻ったら躊躇なく自害すると思われたから奴隷にした」
ジョジョクが納得した。
奴隷にしたおかげで、気がついた彼らは質問にちゃんと答えてくれた。
依頼者はパルトン伯爵。依頼内容は俺の暗殺。詳細鑑定でも同じ内容だ。
「パルトン伯爵は小麦の値を上げるだけでは飽き足らず、閣下の命まで狙ったのですか。許せん!」
「小麦のほうは失敗しているからな。業を煮やしたか」
そんなことより、ジョブ・忍者の転職条件を手に入れたことが大事だ。
これで忍者部隊を組織できる。これ、滅茶苦茶重要!
「閣下。この者らはいかがいたしますか?」
「え、使うけど?」
「金で閣下の殺害を請け負った者らですよ」
ジョジョクの目が厳しい。
「もう俺の奴隷だし」
「それはそうですが……」
この3人には忍者を育ててもらう。何せ忍者への転職条件はなかなか厳しい。それを教育するには、実際に忍者になったこの3人がうってつけだ。
「報復はいかがしましょうか」
「放っておけ」
「しかしそれでは」
「この3人は死んだことにする。だからパルトン伯爵が俺を殺そうとした証拠はない。そういうことだ」
「それではまた暗殺者を送り込んでくるやもしれません」
「それこそ思うつぼだ。また忍者を捕まえるチャンスじゃないか。ふふふ。この3人のおかげで、情報部隊が組織できるぞ。もっと人材を送り込んでくれるなら、大歓迎だ」
送り込まれてくる忍者の数が多ければ多い程、俺のところの情報部隊が増強される。いいことじゃないか。
忍者は暗器と言われる武器の取り扱いと、影の者としての知識を得ることで転職が可能になる。どうしても導いてくれる師匠が必要になるジョブだから、忍者の修行をしてきた人が増えてくれたほうが俺としてはありがたい。
さあ、忍者部隊を組織するぞ!
・忍者 : 影の者。スキル・隠密(微)、諜報(微)が使える。条件を満たすと自然と転職。以後、上位職以外にジョブは変わらない。取得条件は暗器の取り扱いと影の者としての知識が一定レベル以上になる必要がある。
レベルが上がれば、暗殺術や扇動といったスキルを覚える。それはこの3人を見れば明らかだ。
情報を集めるためにも使えるが、武闘派としても使える。
3人が所属する組織は『コーガ衆』というらしい。忍者で甲賀、これって召喚者が絡んでいるのか?
よく見れば、リーダーのダイゴウの顔は日本人に見えなくもない。外人とのハーフのような容姿だ。召喚者の末裔の可能性は高い。
詳細鑑定さん。どうなんだ? ほう、そうか。了解。ありがとうな。
500年前、この世界に複数の転生者が現れた。その一人がこのオーダ王国を建国したサブロー。
そのサブローと共に探索者になった人が他に5人。その1人がコーガという人物だった。
赤子ではなく、俺のように成人した状態で転生したらしい。
俺の予想では、初代国王のサブローは織田信長。本能寺の変で死んで、こちらに転生していたのだろう。なにせ国名がオーダ、織田だからな。
織田信長が三郎という仮名を使っていたのは、戦国時代の武将が好きな人ならそこそこ知っていると思う。何せ織田信長は戦国を代表するようなビッグネームだからね。
あとの5人は、本能寺の変の際に共に討ち死にした家臣だったのだろう。
屋敷に帰って、さっそく忍者部隊を組織するための候補者を集めた。
四期生が補助職優先だったから、五期生に隠密系を導入できるのは嬉しい誤算だ。
「うちはレベル40になった奴隷を解放する制度を導入している。普通は解放後にうちに留まるのもどこへいくのも自由だ。しかし隠密系のジョブの者は、レベルを上げてもうちから出ていくことは許されない。その代わり、他の者よりも優遇する。皆の家族をトリアンジュに呼ぶことも許す。家族が奴隷として売られたのであれば、できる限りという条件がつくが探し出して買い戻す。その代わり、一生フットシックル家のために働いてもらう。それで構わないという者だけ、残ってくれ」
一般的なジョブと違って、忍者を野放しにするというのはよろしくないと思っている。一生を拘束するため、できる限りのことはするつもりだ。
忍者候補者は意外に多く残った。25人だ。
これから3人の忍者に、厳しく教育されることだろう。何年かかるか分からないが、頑張ってもらいたい。
「本当は子供の頃から育てる」
黒に近い青い髪と瞳をしたあまり特徴のない顔を顰めているのは、3人の忍者の年長者(39歳)のダイゴウ。彼のジョブは上忍でレベルは33。
ジョブ・上忍は忍者の上位職になる。彼らの仲間でも上忍はあまりいないのだとか。
忍者は頭領が一族を率いていて、その下で複数の小頭が忍者たちを指揮している。ダイゴウは忍者組織の小頭だった。
他の2人―――忍者のサンタローとくノ一のミツハは、ダイゴウの配下の忍者だ。
ダイゴウが言うには、忍者を育てるには最低で10年は必要らしい。さらに子供のほうがものになるという。
10年かかっても、俺は忍者を育てるべきだと考えているから、問題ない。
五期生の忍者候補者25人は、10代を集めた。15歳から19歳の男女だ。
トリアンジュでもあまり人の出入りがない山間部に、忍者養成所を造った。掘立小屋ばかりだが、冬までにはもう少しまともな家を建てるつもりだ。25人の五期生は、そこで寝泊りして徹底的に鍛えられることになる。
ガンダルバンに、忍者養成所の警護を極秘裏に行うことを指示した。
なにせ忍者だ。裏切り者(実際は裏切っておらず、奴隷になっただけ)を放置するわけがない。
一応、3人は死んだことにしているが、いずれは生きていると知られるだろう。護衛は念のためだ。それにまだ五期生は、自分の身を守ることができないからな。
忍者のいいところは、一般的に罪になることをしてもジョブが盗賊に変わらないところだろう。誰かを暗殺をしてもジョブが変わらない。こんな特性を持っているのは、忍者の他には暗殺者くらいか?
最近知ったことだけど、俺の暗殺者も勝手に盗賊にならないジョブだった。詳細鑑定の熟練度が上がったことで知った事実である。
一般的に罪を犯せば盗賊になって、もっと罪を犯せば殺人者などのジョブに変わる。
忍者や暗殺者はそういったプロセスから外れた存在だ。暗殺をしても、何かを盗み出してもジョブが盗賊に変化することはないのだ。
ご愛読ありがとうございます。
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