125_小麦騒動
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
☆☆☆ 1巻、絶賛発売中 ☆☆☆
※続巻出したいのでもっと売れたらいいな……。
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125_小麦騒動
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イツクシマさんが白い粉を持ってきた。これ、ヤバいやつなの!?
「……これは?」
「これはセメントです」
あ、セメントなんだ。いや、そうだよね。イツクシマさんがあんなヤバいものを作るなんてないよね。ははは。
そもそも灰色がかった色をしているよ。ヤバいやつだと思った俺が悪い。
「セメントか。建設に使えそうだね」
「石の家が多い国だから、セメントは使えるかと思っているわ」
「ヤマトが建築家志望だったから、上手く使ってくれるかな。新しい領主屋敷を建てるのに使ってもらっていいかもね」
実は新しい屋敷を建てることにした。今の領主屋敷は古いから、建て替えるつもりなんだ。
イツクシマさんとヤマトには、セメント製品を量産化するように頼んだ。なんでもこのトリアンジュでは、セメントの材料が豊富にあるのだとか。
持つべきものは、優秀な友達だね!
またティガルード子爵がやってきた。この人、暇か?
悪い人じゃないと思う。ただ、この人がいると暑苦しいんだ。あと屋敷に泊めている間は、ローズが作る果物や野菜は出せない。おかげで食卓が寂しくなるんだよ。早く帰ってくれないかな。
そんな時だ、彼女もやってきた。30前のピンク髪の綺麗な女性―――ゴルテオ商会のデザイナーであるキャサリンだ。こちらは歓迎だよ。むさ苦しい男ではないし、暑苦しくもない。
彼女には以前アンネリーセたちの下着を頼んだ。今回はアンネリーセのドレスを頼むことにした。結婚式用のウェディングドレスだ。
「フットシックル子爵様の仕事がまたできるなんて、感謝感激です!」
さっそくドレスのデザインを決めていく。
メンバーはアンネリーセの他にイツクシマさん、メイド長のメルリス、リリス、ローラ、そしてアンネリーセのお母さんのマルハレータさん。
「まあ、こんなに綺麗な布があるのですね!」
マルハレータさんは色とりどりの布を見て乙女のように目をキラキラさせている。
「俺は仕事をしてくるけど、一緒に下着も頼むといい。皆の分もね」
「はい。ありがとうございます」
キャサリンがデザインした下着は、王都やケルニッフィ、その他大都市を中心に流行しているらしい。その下着をたくさん買えば俺の目も楽しめる。ふふふ。
女性たちの楽しそうな声が響く部屋を出て、俺は執務室に入った。ついてこなくていいのに、ローラも執務室に入った。文官として働くためだが、たまには息抜きをしてもいいんだよ。
「最近、小麦の値が上がっております。周辺で不作ということはなく、値上がりの原因は分かっておりません」
トリアンジュでは小麦の生産量は多くない。多くの小麦を領外から入手している。
バナージは最近の小麦の値動きについて、報告書を提出して説明してくれた。
この1カ月で小麦の値が2倍になっている。それまではわずかな変動はあっても、1カ月でこれほど上がることはない。しかもその理由が分からないのだ。これは異常なことだと、俺でも思ってしまう。
「小麦の値上がりについて調べましたが、不作予報や災害、戦争などの値上がりのきっかけになる出来事はありません。しかもザワリフィなどでは値上がりしていないのです。値上げをしているのは、トリアンジュの穀物を扱っている店ばかりなのです」
「他が値上がってないか。そうなるとわざと誰かがトリアンジュで小麦の値を吊り上げているということになる。トリアンジュの穀物商店が怪しいと、2人は睨んでいるのか?」
バナージとローラの文官ツートップが首を振った。違うの? え、ローラはこのことを知っていたのかな? ああ、バナージの報告があることを知っていたんだね。それでついてきたのか。
「この近くの小麦生産地であり、小麦市場があるのはパルトン伯爵領です」
パルトン伯爵がこの辺りの小麦を支配している。とまでは言わないが、小麦の値を上げているとバナージたちは考えているらしい。
「王都からの報告では、リンガーは公開処刑に決まったそうです」
王女は彼を奴隷にするのではなく、処刑することにしたか。
「パルトン伯爵家は罰金刑を言い渡されたそうですが……」
その続きが分かるよ。メンツを潰されて、俺を恨んだか。
「その罰金分に恥をかかされた分を上乗せして、俺の領地から回収しようとしている。そんなところかな?」
「その可能性は大いにあるかと」
調査をする必要があるな。バナージの推測通りなら面倒な話だが、放置はできない。
しかし王家に払う罰金を俺の領地から回収しようとは、せこい話じゃないか。それが本当なら、こちらもそれなりの対応をしないとな。
「パルトン伯爵が小麦の値を吊り上げている証拠を掴む。その前に小麦を購入する先を変えるか」
「とおっしゃいましても、小麦を扱っている店は、どれも値を上げております」
「ゴルテオ商会はどうだ?」
「ザワリフィの店では扱っているようですが、こちらでは扱っていないようです」
地元の商店に配慮しているということか。
「小麦が安い場所はどこなんだ?」
「小麦の生産地としては、ケルニッフィ周辺が最も有名です」
「ガルドランド公爵領は広大です。多くの小麦が生産されており、それがケルニッフィに集まっています」
へー、ケルニッフィ周辺が小麦の一大産地とは思わなかったな。
「丁度いい。ケルニッフィで小麦を大量に仕入れ、持ち込もう。ゴルテオ商会にも協力してもらおうか」
「それではすぐにゴルテオ商会に使いを出します」
しばらくしてゴルテオさんが来てくれた。
「忙しいのに、すみませんね」
「いえいえ。閣下に報告したいこともありましたので、丁度良かったです」
俺に報告? なんだろうか?
「それじゃあ、お先にどうぞ」
「それでは先に報告をさせていただきます。最近、トリアンジュの小麦の値が上っております。そこで調べたことの報告をしたいと思います」
なんとゴルテオさんも小麦の値上がりのことを調べていたのか。さすがは商人だね、うちよりもやることが早い。
「実はうちも小麦の件でゴルテオ商会の力を借りようと思い、お越しいただいたのです」
「さすがはフットシックル子爵閣下にございます。普通の貴族はこの程度の値上がりなら放置するところです」
主食の小麦の値が2倍になるなんて、重大事だと思う。それを放置する貴族ってなんだろうか? マジでやる気あるのかな?
「トリアンジュの小麦を扱っている店に対し、パルトン伯爵が圧力をかけていることを掴んでおります」
やっぱりか。想像通りすぎて新鮮味がない。
「さすがはゴルテオさんだ。うちはこれから対策をと、考えていたんです」
「対策は決まりましてございますか?」
「ええ。小麦を他の土地から輸入するという、至って普通の対策ですけどね」
「しかし輸送費を考えると、遠方から輸入するのは有効な対策ではないと思われますが……」
「はい。ですから、ゴルテオさんの協力が要るのです」
「私にできることであれば、なんでも仰ってください」
「ゴルテオさんには、できるだけ多くの小麦をケルニッフィで集めるように指示いただくだけで構いません。ケルニッフィからトリアンジュまではうちの者が小麦を運びます。販売はゴルテオ商会でしてくださって構いませんので」
「運搬をフットシックル子爵家で行っていただけるのでしたら、他の店よりも安く販売が可能です。いいでしょう。すぐにケルニッフィの支店に指示を出しましょう。そうですね、まずは1000トンではどうでしょう。そのくらいであればすぐに手配が可能ですし、トリアンジュの人口を考えれば、3カ月程は支えられるくらいの量になります」
このトリアンジュの小麦消費量を把握しているなんて、さすがは大商人だ。やっぱりもつべきはゴルテオさんとのパイプだね!
「それで構いません」
ケルニッフィからトリアンジュまで一瞬で移動できるのだから、運送費などたかが知れている。1000トンの小麦も、運送人を動員して運べば問題ない量だ。
「もしよろしければ、その運搬方法を聞いてもよろしいでしょうか?」
「うーん……。魔法契約書で情報漏洩防止の契約をしてくれるのであれば、いいですよ」
ゴルテオさんは信用できるけど、それとこれとは話が別だ。いくらゴルテオさんでも、なんの対策もせずに教えることはできない。
ゴルテオさんはよくても、権力者がゴルテオさんを捕まえてということは十分に考えられるからね。
「はい。問題ありません。魔法契約書を用意いたします」
即答だね。決断力がないと、大商人にはなれないか。
すぐに魔法契約書で情報漏洩防止の契約を交わした。これで俺とゴルテオさんは秘密を共有する仲になったわけだ。
「ついてきてください」
「はい」
ゴルテオさんを連れて、転移門を設置した部屋に入った。
廊下では扉の左右に警備兵が立っていて、中は窓もなく真っ暗な部屋だ。
ゴルテオさんはまさかこんな小さく暗い部屋に連れてこられるとは思ってなかったようで、緊張しているように見える。
転移門は普通の扉にしか見えない。それを開けて、向こう側に出る。そこも暗い部屋だ。
その部屋から出ると、警備兵が一瞬で警戒態勢をとる。
「「閣下!? 失礼いたしました」」
「いいよ。ご苦労さん」
警備兵に声をかけて廊下を進む。
「なっ!?」
廊下の途中で窓の外を見たゴルテオさんが声を出した。
「こ、これは……もしや……」
「ここはケルニッフィの俺の屋敷です」
「やはり……。この年になると、滅多なことでは驚くことはありませんが、今日は人生の中でも三本の指に入るほど驚いております」
そこまで驚いてないように見えるけど、そういうことにしとこうかね。
「うちが抱える運搬人を総動員します。1000トン程度なら問題なく運べる量です」
「まさかとは思いますが、王都にも一瞬で行けるということはありませんか?」
「ははは。さすがはゴルテオさんですね。ええ、王都、ケルニッフィ、そしてトリアンジュ。この三カ所にある俺の屋敷間であれば、一瞬で移動できます」
「なんと……ふー。魔法契約書を交わすだけの価値がある情報です。恐れ入りましてございます」
そんなわけで、さっそくケルニッフィの支店で小麦を1000トン集めるように指示してもらった。
「おそらくパルトン伯爵は、ザワリフィの支店に圧力をかけてくると思われます。今後も定期的にこの転移門を使わせていただけないでしょうか」
「うちとゴルテオ商会は一蓮托生とまではいいませんが、うちのせいでパルトン伯爵に睨まれるでしょうから、できる限りのことはしますよ」
「ありがとうございます」
小麦はすぐにトリアンジュに持ち込まれ、他の店の半額でゴルテオ商会が売り出した。
小麦の値が高く不満があった領民だったが、ゴルテオ商会のおかげでその不満は解消された。小麦を高値で売っていた商店は、そのままの値では売れなくなった。それでもパルトン伯爵の命令だから値下げはできない。困ったものだと思っているんだろうね。俺、しーらない。
さて、ゴルテオさんからパルトン伯爵の敵対行為の証拠を受け取ったし、王女のところに行こうかな。
ご愛読ありがとうございます。
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