124_盗賊始末と提案
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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124_盗賊始末と提案
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尋問(鑑定)と判決の言い渡しを進めていると、今回の死傷者の集計が出た。
死者46人、重傷者58人、捕縛した者121人。こちらの被害はなし。ゴルテオ商会の護衛にも被害はない。
重傷者は死なない程度に治療しているが、本来は殺すそうだ。領主を襲った人を治療する慣例はないらしい。むしろ殺してやることで、楽にしてやるのが慈悲の心だそうだ。
それから盗賊は殺しても罪にならないから、生け捕りにするのも珍しい。
今回も俺が捕縛を指示しなければ、盗賊は皆殺しにされていてもおかしくなかった。
でもさ、盗賊は貴重な労働者だと思うんだよね。檻に入れて反省させるなんて、この世界ではしない。
俺もこの世界の考えに染まってきたな。以前は奴隷制度があまり好きじゃなかった。もっとも今でも好きではない。ただし悪党にはそれなりの報いを受けさせるべきだとは思う。
俺が嫌いなのは、罪も犯してない人が奴隷になることだ。貧しいから親に売られる。誘拐されて奴隷にされる。アンネリーセのように冤罪で奴隷にされる。そういったことは、許せないし悲しいことだと思うんだよ。
でも犯罪者は違う。前世のように檻に入れて無駄飯を食わせるなんてありえない。悪党には悪党が受ける報いがあると思うんだ。
特に重犯罪者は簡単に楽にしてはいけないし、するつもりもない。言い方は悪いが、使い潰す気で重労働に従事してもらう。
「お前で最後だ。元トリアンジュ騎士団団長ニシュル=リンガー」
元々はこのトリアンジュの治安を守るために働いて……いないけど、その役目についていた男だ。
「私はパルトン伯爵の縁者だ。このような辱めをぐへらっ……」
リンガーの左頬をひっぱたく。
「俺が許可するまでまで喋るな。質問には「はい」か「いいえ」で答えろ。分かったか?」
「………」
今度は右頬を叩く。
「返事はどうした」
「……はい」
不満そうだけど、もうね、いい加減罪人の罵詈雑言は聞き飽きたよ。ここまで100人を超す罪人を尋問したからさ、うんざりなんだよ。
「お前が碌なことをしてないのは、元々知っていた。だからパルトン伯爵のところへ行き、余生を大人しく生きる選択肢を残してやったんだ。それなのにお前は愚かにも逆恨みして俺を襲った。パルトン伯爵家の名を傷つけた。伯爵はお怒りになるだろうな」
「………」
「さて、お前には王都へ行ってもらう。他の元騎士たちも同じだ。王家にお前たちを引き渡す」
俺の領内で起こった犯罪を裁く権利は俺にある。今回は俺が襲われ、捕らえた。だから俺がこのリンガーを裁いてもいいんだが、元騎士たちは王家直轄領の時にも罪を犯していた。王家から与えられた資金の横領や物資の横流し、領民への脅迫や傷害などだ。殺人をしてないだけまだ救いはあったんだよ。本当に静かな余生を送れば、それで済んだのにね。
貴族を襲撃した人は基本的に死罪か無期(解放なし)の1級支配奴隷になるけど、王家が被害を受けた犯罪もあるからお任せする。もちろん、俺を襲ったことはちゃんと伝えるけど。
それとリンガー本人も言っていたが、パルトン伯爵の縁者だからね。面倒ごとは王家に任せることにした。
俺が裁くと角が立つ。パルトン伯爵に恨まれる。そういったヘイトを分散させるのが肝要なんだってさ。バナージがそう教えてくれた。
でもさ、もう遅い気がするんだよね。あのパルトン伯爵はリンガー以上のクズなんだよ。今回のリンガーのことを考えると、俺をロックオンする気がするんだよね。
ちなみに代官だったバナージには、リンガーを捕縛して裁く権限はない。リンガーとバナージは王家から任命され、リンガーは軍部を、バナージは政治を司った。2人は横並びで、お互いを下に置けるものではなかったのだ。
お互いにレコードカードを確認し合えれば、リンガーの犯罪歴に気づけたのだろう。王家が進めるレコードカードの確認については、王都から大都市、そして小さな町や村へと順次導入しているためトリアンジュではまだ導入されていなかった。
そこへ俺が領地を得て入った。王女にハメられた気もしないではないが、王女も全てを見通せるわけではないから考え過ぎだろう。
しかしいずれレコードカードの確認があるのは、分かっていたはずなんだ。その時リンガーたちはどうするつもりだったのかな?
神官長ダンデリードのようにレコードカードの犯罪歴を消せるような奴は、そうそういないはずだ。聖赦官なんて、あっちこっちにいるようなジョブじゃないからさ。
うちは別だよ。うちにはパトリシアが聖赦官で、聖女のリリスがいる。さらに俺が報恩聖者だ。神殿にどれだけの上位職の人がいるかしらないが、いい勝負してないかな? 規模が違うから、さすがに無理か。
さて、話がそれてしまったが、今回の騒動の結果だ。元騎士たちは全員捕縛している。その部下だった兵士たちも死んだか捕縛された。兵士たちは断り切れないところもあったから、罪一等を減じている。それでも何年かは奴隷として、過酷な場所で働いてもらうことになる。
元名主は全員捕縛し、その部下も死んだか捕縛されている。ここはルイネーザさんたち護衛の活躍もあったから、褒美を与えることになるだろう。そこら辺は王家からふんだくってこようと思う。
盗賊は2、3人逃げたらしいが、幹部は全員死んだか捕縛した。逃げた数人は下っ端だけど、逃げた先の山に兵士を入れて山狩りをしている。決着がつくのも時間の問題だろう。
俺、犯罪者は許さない。特に盗賊団に所属したような人は、下っ端でも追いかける。
これもバナージに教えてもらったことだが、そういった厳しいスタンスやパフォーマンスを住民に見せることで、住民の信頼を掴んでいくのだとか。
バナージが主導して200人以上の盗賊団を壊滅においやったと、噂を流している。ちょっと卑怯だと思うけど、やっていることを公にしているだけだからOKにしている。
あとウルグ盗賊団が拠点にしていた3カ所を一斉摘発した。
それなりにお宝を貯め込んでいた。まあ、王都ダンジョンの9階層ボスのオリハルコンゴーレムを1回倒したほうが、よほどお金にはなる程度のものだ。
王都に移動して、王女に謁見を求めた。
「―――そんなわけで、元騎士たちを引き渡したく思っています」
王女はとても嫌そうな表情だが、俺がここまでお膳立てしたんだから後はお願いね。
「王家が家臣の管理をしっかりしていなかったのが今回の騒動の発端です。フットシックル子爵には申しわけないと思っております」
あら、王女が謝罪したよ。それには家臣たちがかなり驚いているね。またドレンが何か言うかなと思ったけど、何も言わなかった。
王女は俺と敵対するようなことは考えていないと思われる。それはこれまでの王女の態度や対応の丁寧さを見ていれば、俺でも理解できる。ドレンも王女のそういったスタンスを受け入れたんだろうね。
何かをしてもらったら礼を、悪いことをしたら謝罪を言うのは人間として当たり前のこと。王侯貴族だからと、そういった人間の資質に関わるものを無視したらいけないと思うんだ。この国はそういうことが、おざなりになっているからさ。
王侯貴族だから頭を下げられない。頭を下げたら負け。そんなアホなことが常識になっていることを変えないとね。
さて、元騎士は17人いたけど、今回王家に引き渡すのは9人だ。8人は死亡しているから、8枚のレコードカードを引き渡した。
引き渡した9人も、死んだ8人のレコードカードも、犯罪歴はバッチリ記録されている。
あとは王女から元騎士の関係者に対し通告と、場合によっては連座の処分が言い渡されることだろう。
特に騎士団長だったリンガーは犯罪を主導していたから、その縁者であるパルトン伯爵にも何かしらの罰が与えられるはずだ。そこら辺は王女がどこまで踏み込むかだけどね。
あと、迷惑をかけたゴルテオ商会への迷惑料ももらった。俺への迷惑料もと思わないではないが、そこは大量の使い捨て労働者を得られたということでチャラにしてあげよう。
「あの者らの処分は厳しく行うと、お約束いたします」
「引き渡したのですから、ここからは口出ししません。王女様のいいようにお願いします」
「そのように仰られることが、一番難しいのですよ」
目の下のクマは大分解消されたようだけど、今回のことでまたクマができそうだね。俺のせいじゃないよ。王家が治めていた時からの犯罪者だからね。
「ああ、そうだ。2つお聞きしたいことがあったのです」
「なんでしょうか?」
そんなに警戒しなくてもいいよ。俺、王女様とは敵対してないからさ。
1つめは綿の栽培と、綿織物の産業化の話だ。これはオーダ王国内全域で保護しているものではないから、トリアンジュで綿を生産するのは問題ないらしい。
あれはあくまでも公爵領として、保護しているものなのだとか。
2つめの確認をする。
「王家はジョブの神官について、転職条件をご存じでしょうか?」
「……それを聞いてどうされるのですか?」
眉間のシワ! 凄く警戒しているのが分かるシワの深さだよ。可愛いお顔が台無しですよ、王女様。
「いえ、たまたま神官への転職条件を知る機会がありましたので、王家が知らないのなら情報を提供しようかと思いまして」
「……本当に神官への転職条件を? あれは神殿が外に洩らさないように、厳重に情報の管理を行なっているのですよ」
特殊なジョブは各家、各組織で結構厳重に転職条件を管理しているものらしい。強力なジョブに転職できる条件をその家だけで秘匿すれば、他の家よりも優位に立てるというわけだね。
「いやー。たまたま判明してしまったので、これは広めないといけないかなーと思いまして。あははは」
神官への転職条件を神殿が厳重に管理している以上、これを広められては困るということだ。
需要のある癒し系のスキルが使えたり、転職させられる神官というジョブの情報を秘匿すれば儲かるもんね。止められまへんなーって感じ?
神官の転職条件は、いくつかある。
・500日間祈り続けること。
・ジョブ・村人が1人で100体のモンスターを素手で倒すこと。
・ジョブ・村人が1人で自分よりもレベルの高いモンスターを3時間以内に10体倒すこと。武器の使用可。
このどれかをクリアすると、転職可能になる。他にもあるかもだけど、今は分かってない。
500日祈り続けるのは、それこそ苦行だ。おそらく多くの神官は2番目か3番目の条件をクリアして転職していると思われる。
いい武器と防具があれば、3番目が一番手っ取り早い。うちもこの条件で転職させているからね。
「うちの領地は神殿がないのですよ」
「まさか……神殿外で転職をしているのですか?」
「転職だけではありません。治療も行うつもりです」
税を徴収しているのに、民があまりにも貧しい。それは貴族の怠慢ではないかと俺は思っている。それを口に出すと貴族だけじゃなく、王家も敵になる。そう考えてあえて口にはしないけど、行政サービスは充実させるべきだ。
「神殿が敵になりますよ」
「そこで今回の情報です」
「……なるほど、神殿が敵になっても神官が確保できるのなら、それほど問題はありませんね」
その通り。神殿を敵にして問題になるのは、転職と治療。
治療はポーションと被るけど、高レベルの神官のほうが幅広く治療ができる。
転職は完全に神殿で独占していて、転職時には2万グリルが要求される。本当に神殿ってぼろ儲けだよね。
「王女様は理解が早くて助かります。うちの領内では、転職もそうですが、何よりも治療が不便なのです。神官は病人や怪我人を神殿まで連れてこいと言うそうですが、動かせない者もいるのです。しかも治療費代わりのお布施が非常に高額で、民の多くは治療を受けることができずに死んでいきます。神官はとても傲慢で強欲です。そんな神官に頼るのは、あまりにも不経済だと思いませんか?」
俺の言葉を聞いた王女の家臣たちは、凄く困ったような表情をしている。面倒な話を持ち込んでくれたと思っているんだろうね。
「その話に即答は出来かねます。少しお時間をいただけますか」
「構いませんが、うちではすでに神官を多く抱えていますので」
「すでに神官に転職した者がいるのですか……。早いですね」
「こういうのは、パーッとやってから考える性質なのです」
王女が目元を揉みほぐし始めた。そんなに面倒だと思わないでよ。
ご愛読ありがとうございます。
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