098_会議
★★★ 2023年7月25日 小説1巻発売予定! ★★★
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この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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098_会議
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手を挙げたガンダルバンを指名する。
「忌憚のない意見を頼む」
俺がそう言うと、ガンダルバンが頷いた。
「正直に申しますと、ご当主様が出世されるのは我らにとって望むところです」
本当に正直に言ってくれたよ。まあそのほうが俺としても判断しやすくて助かる。
「すでにご当主様は子孫にその爵位を継承させることが許された男爵です。よってご当主様が出世すれば子孫の方々のためにもなりますし、我らとしても今以上にやり甲斐を感じることができるでしょう」
「なるほど……他にも言いたいことがあれば、この際全部言ってくれ。陞爵以外の褒美についてでもいい。できるできない、いい悪いの判断は俺がする。なんでも言ってくれ。言ったからといって、罰することはしないと誓う」
「ありがとうございます。そこまで仰られるのでしたら、日頃思っていることを包み隠さず申しましょう」
「お。おぅ……お手柔らかに」
なんだか緊張する。俺、パワハラとかセクハラしてないよな? そこら辺は大丈夫だと思うけど、アンネリーセと一緒に風呂に入るのだけは止められないぞ?
「ご当主様は行動と思っていることが正反対です」
「正反対?」
「ご当主様は目立つことを嫌う性格ですが、やっていることは目立っています。正直言いまして、ここまで派手にやっているのですから、公爵閣下や王女殿下はどうしても褒美を与える必要があるわけです」
俺の行動のせいということか……。それはなんとなく分かっていたが、面と向かって言われるとちょっと落ち込む。
そうか俺は面倒なことにしたくないと思いつつも、面倒なことを引き起こしていたのか。あまり自覚がなかったんだけど、こうやって言われると思い当たることが多いな……。
「褒美として陞爵を受け入れるのは、俺の行動からしたら当然だと言うんだな」
「左様にございます」
「皆はどうだ?」
意見を促すと、バースが手を挙げた。
「ご当主様が出世することは、私たちにとってやり甲斐になります。できればご当主様にはどんどん出世していただきたいです」
バースのその意見に皆が同意する。当然か。男爵の家臣よりも子爵や伯爵の家臣と名乗れるほうがネームバリューが違うだろうからな。
「あー、僕も一つ言っていいかな?」
「な、なんだよ、ヤマト」
お前には聞いてないと言いたいが、集まってもらっているからな……。
「どうせなら領地もらったら? その方が公爵や王女に使われることが減るかもよ」
「それは良い案です。ご当主様であれば、良き領主になりましょう」
「某も賛成にございます」
ガンダルバンにジョジョクが賛成、他の皆も激しく頷いている。
皆が激しく同意しているところ悪いけど、こっちとら陞爵でも嫌だと思っているのに領地とかあり得ないだろ。
何それ、美味しいの? なんてボケかまさないけど、面倒じゃないか。
「領地を持つということは、その土地ではご当主様が国王のようなものです」
男爵や子爵が国王って、そんなこと言っていいのかよ?
「我らとしても領地や領民を護るために身命を賭して働きましょう」
ヤマトのおかげでガンダルバンのスイッチが入ってしまったじゃないか。
皆も激しく頷いている。これ、領地を褒美でもらえと皆が思っているってことなんだろうな……。
「褒美とは別のことですが、もう一つだけいいでしょうか」
ガンダルバンはもっと言いたいらしい。あまり言うと、俺泣いちゃうぞ。
「なんか怖いんだが……話してくれ」
聞くだけは聞く。あとで一人で枕を濡らすんだ。
「遠慮なく言わせてもらいます。そろそろアンネリーセ様を正式に娶って頂きたい。これは家臣一同の望みにございます」
「お……おぅ……」
皆が激しく頷いている。
ここで言うことか、それ? そりゃー、家臣にしてみたら俺の結婚は結構な関心事かもしれないけどさー。
アンネリーセは頬を赤くして俯いている。
そうだよな。そろそろ俺も覚悟を決めてアンネリーセにプロポーズしないといけない。俺も男だ、やる時はやらないとな。
「あの、私もいいかな……」
「お、おう。いいぞ、厳島さん」
「私はトーイ君にお世話になってばかりで、何もお返しできてないと思っているの」
「そんなことはないぞ。厳島さんは子供たちの世話を嫌な顔一つせずにしてくれるし、勉強も教えてやってくれている。それにポーションなども作ってくれているじゃないか」
「それはこの屋敷で暮らす上で、当然のことをしているだけ。それに子供の世話は好きでやっていることだから……。でも私はトーイ君に保護してもらっているのに、何も返せていない。だから私に何かできることを、仕事を与えてほしいの」
子供たちの世話をするのはとても大変なことだと思う。だから厳島さんは十分に俺に貢献している。
リリスやソドン、それに他の子供たちに勉強だって教えてもらっているんだから、本当にそれだけで十分だ。だけど彼女はそう思ってないんだろうな。真面目な性格が彼女自身を追い込んでいなければいいんだが……。
「厳島さんの仕事については考えてみるよ。ヤマトもな」
「え? 僕も?」
「お前の方が遊んでいるだろ」
「酷いよ、僕はとーっても働いているんだからね!」
「ヤマトは無視して、厳島さんの仕事は考えておくよ」
「うん。ありがとう」
「無視って酷い!」
さて、厳島さんの仕事は後から考えるとして、俺の褒美に領地をもらうか……。俺が領地を得ることは家臣たちのやり甲斐に繋がる。そういったことにこれまで向き合ってこなかったが、本気で考えないといけないか。
そして……アンネリーセのことも。
皆には解散してもらって、俺は一人になった。ゆっくりと一人で考えたい。
領地をもらうということは、この国から逃れられないことを意味する。それは俺の正体を知られたら、いけないということだ。
「あの鑑定士は王女に俺のジョブのことを報告していないのか? 報告したが、王女はとぼけているのか? 王女がとぼける意味が分からんが、鑑定士がジョブのことを報告しなかったことも理解できない。どういうことだ?」
ユニークスキルのことは報告しているんだろ? じゃあなぜジョブのことを報告してないんだ? まさか転生勇者はそこまで重要ではない? 俺が過剰に反応しているだけで、転生勇者は王女にとって大した問題ではないのか? そう考えると、今回の王女の対応にも納得がいくんだが……。本当にそうなのか?
領地をもらった後では、さすがに逃げるわけにはいかない。あー、でも……今でも多くの家臣や奴隷を率いているから、状況的には領地をもらっても大して変わらないのか?
「もし領地をもらったら、ガンダルバンたちは喜ぶだろうな……」
皆の喜ぶ顔が目に浮かぶようだ。流れは領地をもらう方向か。
よし、俺も男だ! 領地をもらってやろうじゃないか! そんでもってガンダルバンたちが領地を望んだんだから、気合い入れて働いてもらおうじゃないか!
「褒美の件は、陞爵と領地。他にと聞かれてもなんとも答えようがない」
家臣に対する責任か。
そういうことをあまり考えずに、ここまで突っ走ってきたんだよね。
どうしたもんかなと、悩んでも考えがまとまらないよな~。
気分を切り替えてアンネリーセのことを考えよう。プロポーズしたいが、その機会……いや勇気がなかった。今回は勇気を出して、俺の妻になってほしいと言おう!
あとはどこでどのようなシチュエーションでプロポーズするかだが……さっぱり分からん。俺は恋愛とは無縁だったからな……。
こういうのは誰に聞けばいいのだろうか?
ガンダルバン? なんか気合いです! とか言われそうだ。
ジョジョクやバースはまだ結婚してないし、女性の話を聞いたこともない。
ロザリナは脳筋ちゃんだしなー。
リンとソリディアは……女性に相談は俺的にハードルが高い。
厳島さんも同じ理由で却下。
あとはヤマト……ないわー。ヤマトだけはないわー。
アンネリーセに聞ければいいのだが、プロポーズしたい相手なんだよな。聞けるわけないよ。
王女や公爵にできる話でもないし、俺って意外と相談できる相手が少ない? いやいや、恋愛のことだけだ。それ以外なら、ガンダルバンたちも相談に乗ってくれるじゃないか。
コンコンコン。ノック音がした。
「どうぞ」
「失礼します」
入ってきたのは執事のエンリケだ。相変わらずヤクザのような顔だな。
「どうしたんだ?」
「旦那様が思い悩んでいるようにお見受けいたしました」
「………」
そうだよ。思い悩んでいるんだよ。それが何か?
「差し出がましいようですが、アンネリーセ様には正直に気持ちを伝えればよろしいかと。あの方はそれを望んでおられると存じます」
「っ!?」
「身分を弁えず、申しわけございません」
「……いや、そんなことはない。エンリケのおかげで俺は吹っ切れた。感謝するよ」
「少しでもお役に立てたのであれば、嬉しゅうございます」
エンリケは礼をして部屋を出ていった。まさかエンリケに諭されるとは思っていなかった。俺はいい執事を持った。エンリケには感謝の言葉もない。
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