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真面目ホラー

【閲覧注意】山小屋にて

作者: 七宝

 ある男がひとり旅をしていた。なんでも日本をバイクで1周するというのだ。金もそんなにないからと、野宿をすることもあった。


 そんなある日、男は山道を走っていた。ここは地元で有名な山だそうで、彼も1度は通らねばと思っていたそうだ。


 日が暮れ始めた頃、空に黒い雲がかかった。男は雨と雷の心配をし、屋根のあるところを探した。野宿を前提とした旅であっても、さすがに山の中で雨に打たれながら寝られるわけがないのだ。


 しばらく走っていると、ぽつぽつと雨粒がヘルメットに当たり始めた。もうじき大雨になると思った男はさらに熱心に探した。


 その甲斐あってか、木々の中に古い一軒家を見つけた。男は「ここに泊まらせてもらおう。命がかかってるんだ、断られても無理やり居座ってやろう」と考えていた。


「ごめんくださーい」


 玄関のドアを叩きながら中にいる住人に声をかける。


「⋯⋯⋯⋯」


 返事はなかった。男は引き下がる訳にはいかないと思い、もう1度声をかけてみたが中からは何の音もしなかった。


「クソ⋯⋯困ったな。外出中なのか?」


 男は頭を抱えた。玄関のところに少しだけ屋根があったので、とりあえずそこで立って待つことにした。


「暇だし、雨止まないし、ついてねぇなぁ」


 男はドアを見つめながら呟いた。ふと自分の腕を見ると、蚊が3匹とまっていた。山は蚊が多いのだ。


「死ねっ!」ぺちっ


 3箇所刺された挙句、全員に逃げられてしまった。男は蚊が3匹も視界に入ったのは初めてだぞと独り言を言いながら爪でバッテンをつけていた。


 今度は反対の腕が痒くなった。見てみると、4匹もとまっていた。


「んもう! いいかげんにしろよ! 入れねぇかな⋯⋯」


 蚊の多さに嫌気がさした男は一縷(いちる)の望みをかけてドアノブを捻った。すると、鍵がかかっていなかったようでスルリと開いてしまった。


「⋯⋯しょうがないよな、こんな豪雨なんだし、蚊も多いし、あとで謝れば⋯⋯」


 男は自分に言い聞かせるように言い訳をし、玄関に入った。


「お邪魔しまーす⋯⋯」


 小声で言いながら恐る恐る家に上がる。数歩歩いた男はあることに違和感を覚え、足を止めた。嫌な臭いがするのだ。嗅いだことのあるようなないような臭いだった。


 必死に思い出してみると、男はこの臭いに覚えがあることに気がついた。去年の夏、買ったことを忘れて部屋の隅に1ヶ月ほど放置していた鶏胸肉の臭いに似ているのだ。


 男は唾を呑み、外から入る薄明かりを頼りにゆっくりと歩いた。奥に行けば行くほど臭いは強くなり、次第に男は吐き気を催してきた。しかし、外は豪雨だ、寝られる場所だけでも確保しないと。男はそう思いながら寝られる場所を探した。


 しばらく歩いたところで、居間らしき場所にたどり着いた。臭いに慣れてきた男はその場に腰をおろした。


「勝手に入って電気までつけるのは悪いよな」と思った男は持っていた寝袋に入ってすぐに寝ることにした。


 雷鳴と大粒の雨が打ち付ける音が響く中、男は旅の疲れもあってかすぐに眠りにつくことができた。






「くっさ!」


 日が昇った頃、男は悪臭によって目覚めた。


 目を開けると、ちょうど目の前に強烈な臭いを放つ黒い何かが落ちていた。


「くっさ!」


 本日2度目の「くっさ!」を言いながらそれから離れると、それが人のような形をしていることに気がついた。


「うわぁ!」


 男は咄嗟に飛び上がってしまった。心を落ち着かせ、それがなんなのかを確かめるために鼻をつまんで近づいた。


 全身が黒く変色しており、身体がほとんど溶けている。眼球も溶け出し、腕には無数の小さな穴が空いており、何かの卵が産み付けられた形跡も見られた。腐乱死体である。


「うわぁ!」


 2度同じセリフで驚いて尻もちをついた男だったが、少し時間を置いて冷静になり、彼は自分の態度を恥じた。


(亡くなった人に対してこんな反応をしてしまうなんて、俺はなんてひどいやつなんだ。この人だって好きでこうなったんじゃないだろうし、これは個性として見なければならないはずだ。普通の人だと思って接しなければ!)


 そう思った男はまず握手を求めた。


 その黒い塊に右手を差し出す男。当然握り返しては来ない。


「はは、気難しい人だなぁ」


 そう言って男は無理やり握手をした。ぬるっとした感触、そしてなにかブツブツしたものが手のひらに当たる。


「ははっ、手のひらガサガサじゃないですかぁ。なのにぬるぬるしてる、おかしな人だなぁ!」


 組んだ手を激しく上下に振っていると、手から黒いものがひとつ落ちた。手をほどいて確認してみると、遺体の小指が欠けていた。


「そういえば服汚れてるね、洗濯してあげようか?」


「⋯⋯⋯⋯」


「無愛想だなぁほんとに! 勝手にやっちゃうよ?」


 そう言って男は遺体の衣服を全て脱がし、桶の中に放り込んだ。再び遺体に目をやる。


「きみ、女性だったのか!」


 顔などはほとんど溶けていて何も分からず、性別の判別を諦めていた男だったが、パンツを脱がせてみてチンポコがなかったのが決定打となった。


 実はこの男は女性に弱いことで有名だった。特に不幸な女性にはとことん献身的に助けたくなってしまうのだ。


「ん⋯⋯腐子(くさこ)⋯⋯!」


 ジュルジュルと音を立てて唇を重ねる男。


「ん⋯⋯! きみの体が僕の中に入ってくる⋯⋯!」


 溶けた顔の肉、口内に湧いた(うじ)をこれでもかと啜る男。それから男は何かに取り憑かれたように腐子を愛した。


「じゃあ腐子、服洗ってきてあげるね。確かそこに川流れてたよね」


 その日1日腐子を抱いた男は、約束通り桶を持って川へ向かった。


「さてと」


 男は腐子の服を川の水でしっかりとゴシゴシ洗っている。己の体についたドロドロした粘液も洗わずに。


「う、うわぁ! なんだこれ!」


 パンツを洗おうとした男はその中にあるものを見つけ、腰を抜かした。


 パンツの中に何か棒状のものがあるのだ。例によって腐ったドロドロがついていたので、男は川で汚れを洗い流した。


「⋯⋯これは!」


 男の手の中にあったのは、川で洗われてきれいになったチンポコだった。恐らく溶けた皮膚がパンツと癒着しており、脱がせた時にチンポコが腐れ落ちたのだろう。


「てことは、男じゃねぇか! 俺は男とキスしてエッチしたってことじゃねぇか! うぎゃぁぁぁぁああああ!!!!!」


 それから男が正気に戻ることはなかった。

 こんなバカなオチなのになぜか心臓に来る⋯⋯

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