チンチン釣り
タイトル落ちシリーズ第3弾!
っつーか、タイトル落ちな上に出落ちですw
一応、落ちも付けてます。
「チンチン釣りに行かない?」
「えっ!? チンチ……」
吊場佳子のチンチン発言に、言葉を詰まらせる猫見美食であった。
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「ボクはミシキちゃんなのです。美食って書いて美食って読むのです。人呼んで美食の美食ちゃんなのです!」
猫見美食の自己紹介は有名だ。
美食という名前だけをみれば下手すればDQNネームかキラキラネームとして距離を置かれるが、その自己紹介のインパクトで吹き飛ばした。
小学校時代からの定番の持ちネタらしい。
一級でも二級でもない、三式級美食を標榜し、食事会を開くことでも知られている。
美食は、定番具材を入れないたこ焼きパーティーや、みんなでそれぞれタレを自作する焼き肉パーティー、美味しい鍋を目指す闇鍋など、いろいろ企画しているからだ。
一歩間違えば美食の美食ではなく、悪食の美食と呼ばれる可能性もあるぐらいアグレッシブだ。
佳子は、美食が前回に企画した昼間キャンプで磯鍋に参加した。豊洲でいろんな魚を買って、すぐ近くのアウトドアパークで鍋パをやったのだ。
そのお礼として、佳子が美食を釣りに誘ったのである。
「チンチン釣りに行かない?」
「えっ!? チンチ……」
佳子の言葉に、美食が戸惑った。
「美食ってチンチン電車って言うときも照れる性格?」
「あっ!? チンチン電車は普通に言えるかな」
「だったら、魚の名前も言えるじゃん!」
「そっか。魚の名前、魚の名前……チンチンは魚の名前。
よし、大丈夫! チンチンって言えるよ。
ところで、チンチンなんて魚いたんだ?」
「正確にはクロダイの幼魚ね。
クロダイは出世魚で、チンチン・カイズ・クロダイ・歳なし……って、大きさで呼び名が変わるんだよ。
黒い鯛でクロダイね。
関西ではチヌって呼ぶことでも知られてるよ」
「へー、大きさで名前が変わるんだ」
「こないだ磯鍋やったじゃん。めっちゃいろんな魚をぶち込んだやつ。
魚が好きだったら、今度の週末に釣りなんかどうかなって?」
「釣り!? 一度やってみたいって思ってたんだ。
魚を釣って、新鮮な魚を食べてみたいなーって!」
「じゃ、行ってみる?」
クロダイは春に産卵し、暖かくなると孵って、晩夏には10cmぐらいの小さいクロダイに育つ。
生まれて半年足らずなので経験不足で警戒心がなく、初心者でも比較的簡単に釣れる。
掌サイズで小さいが、腐っても鯛という言葉がある通り、タイ科のクロダイは鯛の仲間だけあって美味しい。
特に冬に釣れる「寒チヌは真鯛以上の美味」と言う釣り人もいるぐらいである。
ただし、悪食でいろんな物を食べること、生命力が強くドブ川の河口でも生きられることから、クロダイは当たり外れが大きい。
都市部の河口付近の海で釣れたクロダイは不味く、地方の綺麗な海で釣れたクロダイは美味しいというのが、釣り人の常識だ。
もっとも、遠くから泳いできてたまたま河口にいた時に釣れるクロダイもいるので、河口=不味いとは限らない。
また、エビやカニを食べて育ったクロダイは美味しいとも言われる。都市部から離れた地方の磯場のクロダイが人気が高い所以でもある。
美食に美味しいクロダイを食べさせたい佳子は、千葉県の外房へ釣行することにした。
東京都漁業調整規則という条例で、東京都では撒き餌が禁止されている。餌を撒き散らすことにより海が汚れることを懸念しているのである。東京は人口が多い分、釣り人も多い。一人一人の量は少なくても、全体では見過ごせない量となるからだ。
一方、千葉県は千葉県報定例第13548号で“必要最低限の撒き餌”が許可されている。
だから、エサを撒いて魚を集めることが合法で許されてる千葉県で釣りをすることにした。
冷凍コマセという餌を撒いて、魚を寄せ集めれば、初心者でも比較的簡単に釣れるのだ。
海=東京湾という認識の美食は、千葉県の海に感動した。
太平洋なので、見渡す限り海しか見えない水平線。対岸も島も、何も見えない。
そして内湾の東京湾と違い、波が激しい。
さらに浜風も強い。
これぞ本物の海!という迫力がある。
砂浜で美食に千葉県の海を堪能させた後、佳子は漁港に向かった。
港内なら堤防で波が抑えられるからだ。
初心者の美食では、港外では釣りにならないだろうと考えたのである。
それに幼魚であるチンチンは、河口や港内などの流れの穏やかな場所にいることが多い。
チンチンの釣り方はいくつかあるが、佳子は浮き釣りをすることにした。チンチンの浮き釣りは、エビっぽいエサを付けて、浮きが沈むのを待つだけだ。ある意味、非常に簡単である。
「お酒を呑みながら海を眺めるなんて贅沢だね」
日本酒を呑みながら待つ優雅な釣り方に美食が喜んだ。
「ちょっと南に行ったところの酒造で造ってる特別純米酒だよ。
梅の名前がいいよね。
知ってる? 菅原道真の時代は、お花見って言ったら梅の花だったんだってさ。
平安時代ぐらいに、お花見は梅から桜に移り変わったんだって」
日本酒を呑みながら佳子がウンチクを披露した。
のんびりと酒を愉しんでいると、浮きがスッと沈んだ。
「来た! 上げて! 上げて! 釣れたから竿を上げて!」
佳子に言われて、美食が慌てて釣り竿を上げる。
すると、小さいながらも厳つい魚が釣れた。
掌サイズなのに、立派に鯛の姿をしている。
背鰭も、けっこートゲトゲしい。
本来、掌サイズは放流すべき大きさである。
大物狙いで釣りをしてた場合、15cm以下は逃してあげるのが常識とも言われている。
今回は最初から小さい魚を狙っていたので、逃がさない。
ただし、都道府県や魚種によってはリリースサイズが条例などで定められているので注意が必要だ。
もちろん、千葉県で小さいクロダイを釣るのは合法である。
「へー、クロダイって言うのに真っ黒じゃなくてシマシマなんだ?」
「大きくなると、全体的に黒くなって縞は薄くなるよ。
小さいけど、塩焼きにすると美味しいから、たくさん釣れたら砂浜に行って焚き火して食べよう。
焼き方は、強火の遠火が基本なんだよ」
弱火だと中まで火が通らない。近火だと焦げる。だから、強火の遠火が基本だ。
強火の焚き火から発せられる遠赤外線で、ジックリと焼き上げるのである。
焼き魚の美味しい調理法だが、遠火なので時間がかかるのが欠点だ。
「いいねー、日本酒に合いそう!」
「へっへっへー、実は同じ酒造の大吟醸もあるのだ!」
佳子の言葉に、美食は本腰を入れて釣り始めた。
結局、2人で合計14匹のチンチンが釣れた。
2人は、焚き火をすべく浜辺に移動した。
火を起こしてると、サーフボードを抱えた男が寄ってきた。
「焚き火? あー、夏でも海風が強いから冷えるよね。
一緒にあたっていい?」
美食は『こっちのチンチンも釣れた』と一人で苦笑した。
【あとがき】
酔ってると、深さ10cmでも溺れると言います。
酔った状態での釣りは非常に危険なのでマネしないでください。
……と、前回と同じことを言ってみるw
……だけじゃ芸がないので、バーベキューについて語ってみたり。
東京23区にも、意外とバーベキュー場やキャンプ場があります。
普通にバーベキューやるのもいいですが、どーせなら珍バーベキューやるのもいいですよ。
街中の魚屋では目にしない魚を市場で買ったり、朝市で珍しい野菜を買ったり、普段とは違う食材を使うのも楽しいです。
朝市も何ヶ所か都内でやってます。朝市と言えば地方のイメージですが、意外なことに都心でも朝市やってます。
朝市じゃない、普通の市場も何ヶ所もあります。築地や豊洲が有名ですが、足立市場や江戸川市場などもあります。
一般人でも利用できますが、プロの邪魔にならないように常識を持って利用しましょう。
バーベキューでパンを焼くのも面白いですね。
ビニール袋に小麦粉と水を入れて、小麦粉を練って、焚き火で焼いてパンを造るのです。
子供とか喜びそう。
誰か、作者と子作りしてくれるお嬢さんはいませんか?(おい)