くすんだ青色 【月夜譚No.186】
軒先で蜘蛛が巣を作っている。雨晒しになった屋根は瓦が十数枚と地に落ち、通りから家屋までの間は腰丈ほどもある雑草に覆われて泳ぐようにして進まないといけない。
何か一言で言い表すなら、十人いれば十人が口を揃えて「お化け屋敷」と答えるだろう。
そう考えるなり寒気がした気がして、男は自らの腕を摩った。今はもう七月だというのに寒風が吹くはずがないから、きっと気のせいだろう。
男は自分に納得させて、再び襤褸家を仰いだ。
またここに来ることになるとは思ってもみなかった。そして、こんなに荒れ果てているとは想像もしなかった。
男はその場で目を凝らし、十数年も前の記憶を呼び起こした。まだあどけなく、何も難しいことは考えずに毎日が楽しかった、あの頃――。
自分と同い年くらいの少女は、いつも笑っていた。少年時代の男が転んで泣いても、前をよく見ないからだと笑いながら手を貸してくれた。
あの娘にもう一度会いたい。けれど、それはもう叶わない願いだ。だからこそ、この思いだけは膨らんで大きくなる。
襤褸家の上に広がる青空が、嫌味なほどに綺麗だった。過去の思い出を塗り替えてしまいそうなくらい、綺麗な青だった。