プロローグ
「────運命──恋を──でないと、私はもう───」
美しい声で悲し気に言葉を紡ぐ彼女とのやり取り全てを覚えているわけではない。
けれど、何も知らない幼い僕は悲し気な声の主を励ますように元気よく応えた。
「だいじょうぶ! ぼくにまかせて!」
幼い僕は、その約束が持つ意味を何も分かっていなかった。
運命だとか恋だとかそんなことはまだ五歳だった僕には分からなかったけれど、それでも僕はすぐさま駆け出し、大好きなその子の頬を両手でふわりと包んでこちらを向かせた。
長い睫毛が揺れ、大きな目が一際大きく見開かれる。
光を受けて透き通るような彼女の美しいブルーの瞳はその虹彩までもが綺麗で。
僕は彼女の顔を覗き込む。
彼女の視線が僕を捉えたのを確認するとその視線に追われながらゆっくりと顔を寄せていき、やがて頬に吸い付くようにキスをした。
ちゅっ
親愛のキスにたっぷりの大好きの気持ちを込めて吸い付いた彼女の頬はとても柔らかで、甘かった。
驚いた彼女の顔に、してやったりと笑んだ僕は知らない。
悲し気な彼女に軽い気持ちで応えた意味を。
その約束がどういった未来をもたらすのかを。
幼い僕は何も知らず無邪気に笑っていたんだ。