表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたと一緒のクリスマス  作者: ゆうきノ助
1/2

前編 あなたと一緒に

「ね、ねえ、奈緒葉(なおは)ちゃん、ちょっといい…?」

大学の講義が終わった後、同い年の友達の寧々(ねね)に声をかけられた。

寧々と友達としての付き合いは、実のところまだ短い。

それでも、時間が合う時には一緒に大学に行ったり、週末に会って遊んだり程度のことはしていた。

でも、週末の遊びに誘うのは、決まって私の方からだ。

寧々から誘ってくるなんて、珍しい。

「寧々、どうしたの?」

聞き返すと、寧々はもじもじしながら話し始めた。

「あ、あのね、奈緒葉ちゃんはクリスマスの予定って、空いてたりする…?」

(そういえば、もうクリスマスか)

「ん、ちょっと待ってね」

スマホを取り出して日付を確認する。

日付は、十二月の上旬を指していた。

「えっとね、二十四日と二十五日はシフトが入ってないから、一応空いてるよ」

ついでにシフト表を見ながら答える。

「え、えっと、その、私、クリスマスは奈緒葉ちゃんと一緒に、過ごしたいなって思ってて…」

寧々はやっぱりもじもじしながら言う。

「私で良ければ、いくらでも付き合うよ」

断る理由も無かったから、とりあえず即答しておいた。


実際、寧々がいなかったら私はクリぼっちが確定してしまう。

だからといって家族と過ごそうにも、大学に通うために、遠く離れた実家を出てきてしまっている。

クリスマスの次の日は、しっかりバイトのシフトも入っているから、実家に戻ることも出来なかった。

別に、クリぼっちになるのが嫌な訳ではない。

でも、せっかくのクリスマスなんだから、誰かと一緒に過ごしたかったのだ。

「そっか…」

寧々は「良かった」と言わんばかりに、ホッと胸を撫で下ろす。

「じゃあ、クリスマスイブの日に街の駅前に集合、集合時間は追々決めるって事で」

「う、うん。分かった」

寧々がうなずく。

話は一旦それで終わりかと思ったが、どういうわけか、寧々はまだ目の前でもじもじしている。

「寧々?」

声をかける。

すると、ようやく寧々が口を開いた。

「その、奈緒葉ちゃんと街で遊んだ後に、私のお家で、お泊まりもしたいなって思ってて…だめ…かな…?」

寧々が上目遣いで聞いてくる。

寧々は、たまにこういう可愛い仕草をしてくれるから油断ならない。

「そ、そういえば寧々の家って見たことなかったなあ。寧々がどうしてもって言うのなら、お泊まりしてみたいな」

「やったあ…!奈緒葉ちゃんとお泊まり…!」

寧々が小さくピョンピョンと跳ねる。

…ダメだ、可愛い。

そんな寧々を見て、私の思考回路が少しばかり暴走しかけてしまったのか、私はつい、

「寧々ちゃんとのクリスマス、楽しみ」

言いながら、寧々の頭を軽く撫でていた。

「ひ、ひゃあ?!」

…流石に驚かせてしまったらしい。

「ご、ごめん。あんまり寧々が嬉しそうにしてるからつい…」

すぐさまそれっぽい理由でごまかす。

「驚かせちゃったのなら、ごめんね…?」

とりあえず素直に謝ることにした。

「う、ううん。奈緒葉ちゃんは、謝らなくていいよ。びっくりしちゃった私が悪いし…。あ、そうだ。そ、そろそろお昼だし、奈緒葉ちゃんと一緒にお昼ご飯、食べに行きたい」

「もちろん、いいよ」

(今日の寧々、何だかいつもより積極的になってる?)

私は、わずかな違和感を覚えながら、寧々について行った。



それから時間はあっという間に過ぎていき、クリスマスイブになった。

あの後寧々と相談して、駅前に集合するのは大体十時頃ということになった。

果たしてほぼ時間通りに駅前に向かうと、既に寧々が待っていた。

「あっ、奈緒葉ちゃん」

遠目に私に気づいた寧々が手を振っている。

「おはよう寧々、待った?」

「ううん、全然。私も、今来たばかりで…。ほ、ほら、早く行こうよ」

私の前に右手を差し出す寧々。

(寧々、やっぱり積極的になってる…?)

また違和感が体をよぎったが、ひとまず無視することにした。


寧々を手を繋ぎながら、クリスマスを迎えた街を一緒に歩く。

(こうして寧々と手を繋ぎながら街を歩くのって、多分初めてだよね)

…何だか急に恥ずかしくなってきた。

(それにこの感じ、まるで女の子同士のデートみたいで……)

「奈緒葉ちゃん?か、顔赤いよ?」

寧々の一言でハッとする。

(な、何考えてるの。平常心、平常心)

歩きながら自分自身を落ち着かせようとしていると、寧々の手を握っている左手が後ろに引っ張られ、私はバランスを崩しかけた。

何かあったのかと、慌てて寧々の方を見ると、寧々は立ち止まっていた。

よく見ると、寧々は何かに目を釘付けにされているらしい。

私も寧々と同じ方へ視線を向けてみた。

視線の先には服屋があった。

服屋にはガラスのショーウィンドウがあって、服を着たマネキンが三体飾られていた。

寧々はその三体のうち、真ん中のマネキンが着ている服に目を奪われているようだった。

そんな寧々の様子を見かねた私は、寧々に声を掛けた。

「ねえ、寧々。まずは、あの服屋さんに行ってみる?」

「?!」

よほど夢中で見ていたのか、驚いて飛び上がる寧々。

「う、ううん。大丈夫」

寧々が慌てて首を横に振る。

「…そっか、分かった」

私たちは仕方なくその服屋を後にした。


その後は、普段の週末の遊びのような平穏な時間が流れた。

寧々とレストランでご飯を食べて、一緒に甘い甘いスイーツを楽しんだり、映画館で寧々が観たいと言った恋愛映画を一緒に見たり…。

寧々と楽しんでいるうちに、いつの間にか日が西に傾き始めていた。

「さて、いつもならここで解散して、帰っちゃうとこだけど…」

ちらりと寧々を見る。

「そ、それじゃあ、私のお家に案内するね」

私は寧々の後について行った。


寧々のお家は閑静な住宅街の中にあるアパートの一室だった。

「どうぞ、奈緒葉ちゃん」

寧々が玄関のドアを開けて案内してくれる。

でも、私はこう答えた。

「ごめん、寧々。私、お泊まり道具を家に忘れてきちゃった…」

寧々が慌てる。

「じゃ、じゃあお泊まり道具は、私のお家に置いてあるのを使っていいよ…?」

寧々の親切心に、若干顔が歪みかける。

「だ、大丈夫だよ。すぐに家に戻って、すぐに取ってくるから…。ごめんね、寧々」

申し訳ない気持ちを抑えつつ、私は目的の場所へ向かうことにした。


夜になり、鮮やかな明かりで彩られていく街を独りで歩いていく。

向かっているのは、寧々が目を奪われていた服が置いてあった、あの服屋。

寧々に内緒であの服を買って、プレゼントをして、寧々を驚かせてやろうという魂胆だ。

店に入り、あの服を探す。

ショーウィンドウの近くに置かれていたから、すぐに見つけることができた。

(やっぱりこの服、可愛いな。寧々着たら、きっと似合うんだろうなあ…)

思いながら、値札を見てみる。

「うっ……やっぱりお高い…」

予想はしていたけれど、実際に確認するとやはりためらってしまう。

でも、寧々のためだ。

妥協は出来ない。

私は思いきって、奮発することにした。


「か、買っちゃった…。寧々の奴、喜んでくれるかな」

私の腕には、今さっき買ったばかりの服が入っている包みが、大切に抱き抱えられている。

寧々が待ってる。

早く行かなきゃ。

私は寧々の元へ急いだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ