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泣かない魔女の絢爛な葬送  作者: 模範的市民
幕間:魂の遊び場
53/76

53.Royal Sweet

 日はアーテローヤル事変から数日後のこと。


 パラノイヤ・シルバーノートが「新騎士団長就任」というニュースが書かれた記事をチームハウスの自室で読んでいると、徐に部屋の扉が開かれた。

 誰かを招き入れた覚えがないということは、そこから姿を現す人物は1人に限られる。

 予想に違わず、何の前触れもなくひょっこりと顔を出したのは、放蕩者レイジィ・フランベルジュだった。


「帰ったよリーダー。報せ、届いてるかい?」

「……やはり貴女も飛びつきますか」


 報せというのは読んでいる記事のことではなく、狩人連盟からの直接通達を指すのだろう。チームリーダーでもあるパラノイヤには「新型魔獣により重傷を負ったインヘルたちが游魂院で治療を受けている」という情報が連盟の上層部から知らされた。

 レイジィに対しては何の事情も説明していなかったのだが、やる気以外に満ち溢れている彼女がそれを知っていたとしても、もはやパラノイヤは疑問に思わなかった。


「無論! 正体不明の新型魔獣、新騎士団長率いる騎士団と早速の険悪ムード、そして何よりあのインヘルが游魂院入り。芳しい騒動がある場所にはいつでもボクが居るのさ! べべん!」

「そこまで知っているのならば話は早いですね……どう思いますか、今回の游魂院入り」


 抽象的な質問ではあったが、レイジィはそれでも類い稀な洞察で全てを汲み取ってくれるのだから、パラノイヤからしてみればこれほど楽なことはない。

 あまり言いたくないことを言葉にしなくても察してくれるのは、自己保身を重視しているパラノイヤにとって無くてはならない存在だ。それだけで逃げ道が用意できる。


 勿論、そのことすら全て含めて察しているレイジィは、頭の中で彼女の質問の続きを補うと、迷いもなく淡々と応えた。


「あれは貴族騎士教会御用達の最高医療機関。そこに狩人が入り込むなんて異例だよ。そんなの十中八九、体のいい『拘束』さ」

「……やはり正体不明の新型魔獣の件なのでしょうか? いや、しかし何故これほど事態が大きく……?」

「その事だけどね」


 パラノイヤは記事を畳み、光の当たり具合によっては白く見えるほど色素の薄いその金髪を掻きながら「どうしてインヘルが拘束されるにまで至ったのか」と独り言のように悩んでいると、その呟きを耳にしたレイジィは彼女の言葉を遮った。


「インヘルが拘束されたのは、至極当然な帰結かもしれないよ。もっと詳しく言えば、インヘルから何かを聞き出したいということに加えて、漏洩させないことも徹底している……と考えるべきか」

「……何か調べがついているんですか?」

「いんや全く。だけど少し考えれば話の尻尾くらいは捕まえられる。今まで魔獣には様々なタイプが発見されてきた……哺乳類型、爬虫類型、鳥型、植物型、魚型、節足動物型エトセトラエトセトラ」

「ですが、新型の発見に際して今回ほど事態が大きくなったことはありません。インヘルが拘束される理由にしては……少し弱い」


 レイジィは丸眼鏡の位置を直しながら、本を片手にパラノイヤの話を聞いていた。そして彼女は「確かにそう思うのは自然だ」と頷きながら、丁寧に自身の考えを説明し始める。


「では何故今回の魔獣は『新型』と知らされただけで、具体的な情報が流れていないのか。……結論から言うと、多分その魔獣、人型だよ。それも普通の人間とかなり見分けがつきづらいようなね」

「それが何故――いえ……まさか……」


 だからといって、何故インヘルが他の集団に拘束される必要があるのか……と口に出そうとしたところで、パラノイヤはある事に気付き、戦々恐々といった面持ちで口元に指を当て、視線をレイジィから逸らす。

 考えを整理しているときの仕草だった。


「最も重要なのは魔獣が何型だったかじゃない。それが原因で()()()()()()さ」

「もし見分けがつかないほど人間と近しい魔獣が存在していたら……」

「ボクたちの隣人が、友人が、恋人が、家族が……魔獣ではないと保証出来ない。まさに悪魔の証明さ。それも疑心暗鬼を抱かせる最悪なタイプの……ね。どうだい? この説明なら、新型魔獣の情報が積極的に隠蔽されているのも、インヘルが拘束されたのも納得だろう?」


 パラノイヤは閉口した。それは納得と戸惑いを含んでいた。


「ということで、ボクが行ってみようかい? 游魂院」

「……!」


 思考を整理していたパラノイヤに、レイジィはため息混じりのそんな提言をした。確かに彼女であれば大抵のセキュリティは突破出来るだろう。

 しかし游魂院は聖地に置かれた、特別な意味を持った場所でもある。それこそ魔法的な厳戒態勢が敷かれており、騎士団や教会関係者も多い。狩人に睨みを利かせているような連中が集うそこにレイジィを送り出すのは相当なリスクだった。

 実際、レイジィも乗り気ではないように見える。


「……行けるのですね」

「あまり使いたくない手段は取るよ」


 しかしレイジィの不満は、出来る出来ないという部分によるものでは無かった。彼女の言葉には「確実に入り込める」という確信がありながら、それを上回るような「どうにも気が進まない」という気分の問題があるようだ。


「まあ、本気でインヘルやラストラリーの過去を調べる気ならいずれ通る道だとは思っていたけど……いやはや、まさかこんな早くに頼る事になるとはねぇ」

「頼る……? レイジィ、貴女まさか教会や騎士団と繋がりが?」

「言ってなかったっけ? ボクの家族のこと」

「初耳ですが」


 とぼけた表情をするレイジィだったが、内心に複雑な何かを抱えている様子だった。

 基本的に狩人同士での詮索はマナー違反だ。例え同じチームに属していたとしても、超えてはいけないラインというものがある。

 生真面目なパラノイヤは、そんな「家柄」という部分に明確な線引きをし、決して仲間たちのことを探るような真似はしてこなかった。


「それ」


 レイジィがパラノイヤの読んでいた記事を指差す。

 「アーテローヤル領主の遺言書」「新騎士団長就任」「王都の上水道敷設率7割超」「コラム:週末は教会へ!」……残りは怪しげな飲料と薬剤の広告だ。

 記事にまともな情報はかなり少ない。スポンサーの半分が拝金主義者の集まりであるような記事に信頼性を求めるのは間違いかもしれないが。


 パラノイヤは彼女の指摘に、再度記事の見出しへ目を通すと、やはり意味が分からず首を傾げた。そして、次にレイジィの口から飛び出したのは、俄には信じ難い告白だった。


「新騎士団長テラ・モントーバン。血縁上はボクの姉さ」

「えっ?」

「7人姉妹なんだよね〜。ボクは六女」

「……公爵家じゃないですか!!?」


 モントーバン公爵家。玲瓏たる家柄だ。

 レイジィはそこの出だという。しかし、それは異様だ。狩人というまともではない職に就いているという馬鹿げた経歴は、公爵家の令嬢にしては自由が過ぎる。或いは不自由を強制されているか。


「大姉様は家の肩書きを放棄して自分で騎士爵貰った人だから、影響力はあれ、実際そんなに権力は強くない。だけど、色々してくれるとは思う」

「ですが……その妹が、どうして狩人なんかに……!?」

「ボクは事実上は勘当された身でさ。表向きには絶縁中で、家名は名乗れないからフランベルジュ。……あんまり家族に頼りたくないのは、他にも色々理由があるんだけどね」


 言葉を失うパラノイヤに対し、彼女は飄々とした振る舞いで、勘当を受けた家柄など、まるでさほど重大な事ではないと考えているようだった。

 それでもやはり、この事実を連盟の上層部に伝えるのはマズい。上手く理屈をこねくり回せば政治利用だって出来てしまう。パラノイヤの胃痛の原因がまた一つ増えた。


「まあまあ、そう具合悪そうにしないで。ボクも信用した人にしか話さないからさ。リーダーにはもう話してただろうって勘違いしてたよ」

「もっと早く言っておいて下さい……」

「てな訳で、そっちのコネを使えば、一応游魂院には入り込める思うけど……リーダーも来る?」

「行くわけないじゃないですか! その方法を使ったら、ウチのチーム全員が変な所に繋がりを持ってしまいます! せめて私くらいは常識的な立場に居させてもらいますからね!!」

「うーん、もうだいぶ常識的じゃないと思うよ」

「朱に交われば……ああ、もう……ちょっと外の空気吸ってきます」

「じゃ、ボクはインヘルたちに会いに行く計画を立てるよ。……どうせお姉様たちに会うんだし、王都に帰省しようかなぁ?」

「……聞かなかった事にしますね」

「ん、それで都合が良いならそうして」


 レイジィはパラノイヤがげっそりする様子を楽しんで揶揄っているようだった。

 当然、そんな彼女の性格を知っているパラノイヤは、食べ歩きという趣味で何とか日々のストレスを凌いでいたのだが……最近は胃痛のせいで、温かい食事を食べるような昼食の時間帯でもあまり食欲が湧かなくなり、軽食を摂って散歩をする程度になってしまっていた。かわいそうに。


 しかし、そんな目に遭いながら問題児を選んでいるのは、それ以上に信頼を寄せているからだ。

 故にインヘルたちが死ぬなど微塵も思っていない。先程のレイジィとの会話も、あの3人が生存することを前提としていたことを考えるに、レイジィも同様だろう。


 よろよろと席から立ち上がり、部屋の扉に手を掛ける。

 部屋を出る直前、レイジィと目線が合った。


「迷惑かけるよ」

「……本当です。その分インヘルのこと、頼みますからね」

「当ッ然。ラストラリーの能力も、しっかり隠蔽するように努めるよ」


 レイジィがその不健康そうな顔色で微笑むと、パラノイヤもそれに応えて、自嘲気味とも取れるような表情で、小さく口角を上げた。

 「任された」と言ったレイジィは失敗したことがない。インヘルも同じだ。2人は無事に責務を全うするだろうと、パラノイヤはここで一旦重荷を捨て去り、外の空気を吸いに向かった。

お久しぶりです。第3章の大枠が完成したので、書く時間が得られるたびに書いていこうと思います。2章はインヘルとハートショットが主役でしたが、次はレイジィを主軸に話を進めていく予定です。

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